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物語「星のシナリオ」 -14-

「現実の世界で体験を楽しむために、みんなそれぞれの設定を決めて生まれていくんだ。それは単なる個性というか、仮の設定でしかないんだ。なのにそのこと自体を忘れているから、いつの間にかその設定の優劣を競い始めたり、どの設定が正しいのかって人と比べ始めたりする」

「そうやって勝手に複雑にしてるってこと?」

「複雑にして、本来の目的を忘れすぎてる。このところあまりにも傾き過ぎていたから、それで月の女神たちが人間として降りて行ってるんだ」

「ボクのおばあちゃんもだね?」

「そう」

「あの本は、それでおばあちゃんが書いたんだね」

「そう」

「じゃあ、母さんは?母さんも月の女神なの?」

「あの人は違う。でも、女神のもとに生まれることを選んだ人。それも大きな意味があったから」

大きな意味…。少しだけその言葉が気になったけど、今のボクにはそれを探求するだけの気持ちの余裕はなかった。いや、正確に言えば、いくら母親のことでも、人の人生の意味を探すだけの余裕なんてない程、今は自分を生きることで精一杯だった。

この世界や、おばあちゃんから話を聞くたびに、人生がとっても壮大な物語のように感じられる一方で、人生はただただシンプルで、悩んでいることすらバカらしくなってしまいそうな、そんな何とも言えない感覚になる。

「そう、それで良いんだよ」

「え?あ、あの…」

気づくと、ボクの横にマスターが立っていた。

「あの人の書いた『星のシナリオ』を読んだろう?」

「あ、はい。まだ途中だけど」

「そのバトンをしっかり受けとってごらん。これからきっとおもしろい人生になるよ」

マスターは、ぽんぽんとボクの頭を優しくたたいて去って行った。まるで、魔法の呪文でもかけられたみたいだった。

「あれ?ボク、マスターと話せるようになってる!」

「きみはあの本を開いたから」

それだけ言って猫は歩き出した。

この星の世界と、あの現実の世界を結ぶカギ。全く別の次元のようなのに、繋がっている二つの世界。もし、みんなもこの世界のことを思い出したなら…。思い出したらどうなるかな。あれ?でも、そうか。さっき猫が言っていたように、あらゆる感情を体験するためにこの世界のことを忘れて行くんだっけ。ってことは、

「思い出しちゃマズいってことか!」

「そう考えるのも人間のエゴさ」

「エゴ?」

「そう。思い出されると自分の居場所がなくなると思ってるからね」

「ふ〜ん、そうなんだ」

「この世界のことも、星のシナリオを描いたことも、全て忘れてしまった方が人生をリアルに体験できる。初めはそういう考えもあったにはあったんだけど。今は、この世界のことも全て知っていても、地上で生きることを存分に楽しめる生き方へとシフトしていく時期なんだ。すっかり忘れて生きるっていう体験は、もう充分にやったからね。これからは、そのことを全て思い出して、望む現実を創造していく生き方へと、全体のシナリオがそう描かれているんだ。だから今の子ども達、これから生まれる子ども達は、覚えている子がどんどん増えていく」

「覚えていて、どうやって楽しむの?」

猫は少し間をおいて、ゆっくりボクの方を見た。


つづく


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