物語「星のシナリオ」 -46-
「は〜」
「ずいぶんと深いため息だな」
秋の夜風とともに猫が窓辺にやってきた。もう今ではすっかり慣れたもんだけど、こんな日常、一年前には考えられなかった。
「きみに出逢ってからも、まだ半年くらいしか経ってないんだよな」
「それが?」
「いや、なんかさ。自分の人生どこに向かっちゃってるんだろう?まるでファンタジーの世界に迷い込んじゃったみたいで。それでももうずいぶん慣れたけど、ふとした時に、いったいどうなってるんだ⁈って思うんだ」
「考える必要はないよ」
「まあね」
「でも決めなきゃ」
「何を?」
「自分の人生どうしていきたいのかを」
「…」
自分の人生どうしていきたいのか、決める?
「誰が?」
「きみだよ」
「ボクが?」
まるで話が噛み合わない感じ。ボクは一度静かになって答えを待った。
「ああ!そうか」
「思い出した?」
「うん。ボクの人生のシナリオはボク自身で決めてきたんだ」
「そう。そして今生きている間、その瞬間瞬間、自分で選び決めていけるんだ」
自分の人生どこに向かってるかって、自分自身が望んでいる方へ向かっているだけなんだ。
「あれ?でもさ…」
「ん?」
「いや、ボクは別に猫と話せるようになることや、星の世界に行くことを望んだ覚えはないんだ」
「きみは人生のこのタイミングで、自分の人生シナリオを思い出すことを決めてきた。それがただ、こういうシチュエーションでの体験だっただけ。みんな、そのシチュエーションの方ばかり気にするんだけど。それに、これはきみと星の女神の約束だったから」
「星の女神…?」
「ああ」
「おばあちゃんのこと?」
猫は返事の代わりに、しっぽをパタパタ上下させ、ゆっくり目を閉じた。
人生のこのタイミングで思い出す約束…。どうして、今だったんだろう?
「ボクは思い出せているのかな?」
風がカーテンを揺らし、ボクの身体を包み込んだ。
「もし必要なら、星の世界へお供するよ」
「なんか珍しいじゃん、そんな言い方」
「最後のお役目だ」
「え?最後って?ねーちょっと待ってよ」
猫は振り返りもせず、そのまま夜の虹を歩き始めた。
つづく
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