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物語「星のシナリオ」 -9-

「あ〜ちょっと私、酔っ払っちゃったみたい。ママ〜悪いけど先に失礼するわね。あ、ねえちょっと奏詩、母さんの荷物持ってきて」

「あ、うん」

「あはは。あんたは相変わらずだねえ。気をつけてね」

いつの間にかすっかり酔っ払ってる母さんに言われるまま、ボクは荷物を持ち、おばあちゃんの家を後にした。
全くマイペースな人だ、母さんは。

「あー、ちょっと奏詩。今めんどくさい母親だなって思ってんでしょ。だいたいね、あなたが急に満月パーティーに参加するって言うから、親として様子を見に来たのー。なんて、酔っ払っちゃったけどね。あはは」

ボクは小さい頃から不思議に思ってた。マイペースでいい加減で、だけど時々ズバッと核心をつくようなことを言ってくる母さん。ボクはそんな母さんと真逆なところもあるって言うか。親子って、こんなもんなのかなって。

そう言えば、母親も自分で選んで決めてきたって言ってたっけ。
え?ボクはどうして母さんを選んだんだろう。本当に自分で選べるんだとしたら、ボクはもっと穏やかで優しそうな感じの人を選んだはずなんだけど…。

「ねえ母さん。母さんは、何をするために生まれてきたの?」

「ええ⁈ちょっと。あーとうとうおばあちゃんに何か吹き込まれたんだしょ。もう、や〜ね。まあいいわ。そんなの、この世界を堪能するために決まってるじゃない」

酔っ払ってるわりには、いつになく真っ直ぐな目でそう言い放った母さん。
マイペースで、母親らしいところなんてこれっぽっちも無くて。好きなことばっかりしてる。絵を描いたり、何て言ったか、ずいぶんときれいな音色のする楽器をやったり。母さんを見ていると、人生の大きな意味とか使命なんてあるのかなって考えてしまうんだ。

「あのね、何でも良いのよ。その人が心から嬉しい〜って事なら」

「え。あ、うん」

「使命って言うのはね、嬉しい〜、あーこの世界で生きられて良かった!って、一瞬一瞬肉体でここに存在することなの。あなたが考えてるような、そういう大きな意味付けとか?あーほんと、めんどくさい。要らないから、そういうのは」

えーっと。あれ、ボクの心の声聞こえてた?

「あー満月きれいね」

大きく手を広げて月の光を浴びてる母さんにつられて、ボクも月の光を感じながら、今日のところはそれ以上深く考えるのをやめることにした。

あの満月の晩以来、ボクは星の世界のことも猫のことも、どうしてここに生まれてきたのかとかも、あんまり考えないようにして過ごしていた。

母さんが言った言葉が、妙に説得力がある気がしてしまって。もしそれなら、何も考えることはない。母さんが言うように、ただ起こる出来事を、この世界にあることを、堪能して嬉しい!って体験を重ねていけば良い。ただ体験するだけ…。

あれ?同じようなこと最近聞いた気がする。どこで、だったかな。

ふと、おばあちゃんの顔が浮かんだ。

おばあちゃんなら答えを知ってる。使命のこと、生きるってこと、おばあちゃんにもう少し話が聞きたいと、ふと思った。

でも、そうだ。おばあちゃんは全てを教えてはくれない。それぞれの体験だと言ってたんだ。

「それぞれの、体験⁈」

そうだ!

ボクは何かに突き動かされるようにして、家を飛び出し、おばあちゃんの家へ向かって走り出していた。


つづく


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