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物語「星のシナリオ」 -39-


「にゃ〜」

「来た来た。待ってたよ」

「一人で行けばいいのに」

「なんだよ。急に冷たいなあ。ほらこうやって、楽しくステップを踏んで一緒に行こうよ」

猫はちょっとムッとした顔をしながら、それでもヒョイっと夜空へステップを踏み始めた。夜風を心地良く感じながらボクは、猫の後ろに続いていた。

「今日はずいぶんと積極的だね」

「うん。昨日またあの本を読んでいてさ、ちょっと確かめたいと思うことがあって」

「あの星の世界で?」

「そう」

「あの本の内容を確かめるために、あの星の世界へ?」

「そう」

「ええ!あ、ちょっと待ってよ!」

猫はクルッと向きを変えたかと思うと、歩いていた虹の上からぴょ〜んと跳んだ。

「え?あれ…」

「ほら、きみも跳んでおいでよ」

「ええ⁈」

ん〜。どうなっても…大丈夫…!

「ひゃ〜」

「クス…。大げさだなあ」

虹から跳んでみたボクが立っていたのは、おばあちゃんの家の庭だった。

「これって…」

「そう、前に話しただろ。おばあちゃんの家までは少なくとも歩いて十分かかるとか…。そう思ってるのはきみで。だからいつもその通りを体験してるけど。でも今日は虹から降りたら着いた」

「うん。着いた」

「ほら、お迎えだ。じゃあ」

リビング窓からシロが覗いたかと思うと、おばあちゃんがボクを見つけて庭へ出てきた。

「今日は庭から登場かい靴も履かずに。それにずいぶんとびっくりした顔で」

「うん。虹を渡るはずだったんだけどさ、猫が…」

「さあ、お茶でもいれて話を聞こうかね」

「にゃ〜」

庭に出てきたシロが夜空を見上げてないた後、ボクを見て一瞬頷いたような仕草を見せた。

虹を渡ったり、猫と話したり…。冷静に考えると頭がどうにかなりそうだったけど、ボクは不思議と、このことにすっかり心を許していた。

「おばあちゃん、本を読んでたの?」

「ふふふ…。読んでいたというか、眺めていたというか」

ソファに置かれていたのは、おばあちゃんが書いたあの「星のシナリオ」だった。

「その本に触れているとね…落ち着くんだよ。それを言葉にしてまとめたのは私だけど、その響きを感じていると、あの星の世界と繋がっている感覚になってね」

「ふ〜ん。ねえ、おばあちゃんはさ、星の世界に行ったりすることあるの?」

お茶をいれていたおばあちゃんの手が一瞬止まったのを僕は見逃さなかったけど、それがどんな意味をもつのかまでは、わからなかった。

「いつでも行けるし、いつもそこにいる」

「あの星の世界に?」

「まあ、人間が考えるのとはちょっと違う感覚かもしれないけれどね。さあゆっくり話を聞こうかね。虹を渡ってどこへ行くはずだったんだい?」

なんだか一瞬、とっても不思議な感覚がして、ボクはソファに深く身体を預けた。まるで自分の身体の力が一気に抜けてしまって、そうでもしないと自分を保っていられない。そんな感じだった。

目の前にいるおばあちゃんはいつものように優しく微笑みながら、膝の上のシロを撫でていて、それは見慣れたいつもの、おばあちゃんの家のリビングでのワンシーン…の、はずだった。



つづく

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