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物語「星のシナリオ」 -32-


ボクは頭をガツンとやられたみたいに衝撃でしばらく混乱していた。いや正確には、ボクの固い頭に新しい通路が開いちゃった感じだ。

例えば引っ込み思案で自分の考えを伝えるのが苦手とかさ、そういうのならまだ何となくわかる。でも…。そうか、そうだよな。この社会では、ある年頃になれば喋れて当たり前って何となく思ってて、遅れていると問題視されちゃう。

それがまさかの、興味がないから喋らないだけってさ。

で、何を基準に遅れてるって話だ?

「みんなと比べてよ。みんなと同じなら大丈夫。そんな感じみんなもってるじゃない」

「ああ」

「でもね、それでずっと生きていくことの方が本当は息苦しいと思うんだけどね。ねえ奏詩」

「え?あ、うん。たぶん…」

みんなと比べて…。みんなと同じに。あ、何だ。これも母さんお見通しなのか。



「ねえ、おばあちゃん」

「何だい?」

「おばあちゃんもお母さんも人の心の声がわかるよね。それってふつうのことなのかな」

「あはは。さてそれは、この世界での普通かい?それとも…」

そう言っておばあちゃんは、いたずらっ子みたいに笑った。

「え?」

「ふふふ。あの星の世界では、ふつうのことだよ」

「え?そうなの?」

「この世界では…そうだねえ、少数派になってしまうだろうね」

「そう…だよね」

あ〜そっか。おばあちゃんにとってはふつうのことなのか。

「あっちでも喋るし言葉はつかうよ。でもね、そうしないと通じ合えないことは全くなくて、むしろ、楽しいから言葉で表現することを、遊んでるくらいの感覚だよ」

「興味がなければ喋らなくていいって感じ?」

「そうそう。そんな感じだよ」

「そっかー」

ああボクもそんな世界に片足突っ込んじゃったんだな。あの星の世界のことを思い浮かべると、確かに興味がなければ喋らない、それも全然わかる気がした。

「この地上の世界ではね、本音と建前なんて言葉や、お世辞なんてのがあるけれどね。あの星の世界では、みんなが人の心を感じとることができるから、そういうのは通用しないんだよ。だから隠し事もウソも必要ない。みんな自分に正直にいるだけ」

「そっか。もし心の声を感じとることができちゃったら…」

「ああ、そうだね。今この世界でそうなってしまったら、困る大人はたくさんいるだろうね。ふふふ」

「ふふふって、おばあちゃん」

「だってねえ、必死で取り繕って良いように喋っていても、心の中を感じてしまうと、まるで正反対で、コントみたいになってる場合もあるんだから」

「そうなんだ」

あれ。なんかでも、確かにそうかもな。困るのは子どもより大人の方だろうな。ってことは…

「あれ?おばあちゃん。心に正直にいきてる人とか子どもって、人の心の声を感じとってるの?」

「ああ、そういうことが多いよ。特にね今の子ども達は」

あの四歳の女の子のことが、ボクの頭をよぎった。

「ねえそれってさ、今の子ども達も、おばあちゃんみたいに星の女神ってことなの?」

「そうではなくてね。今の子ども達は新しい時代を生きるシナリオを描いてきてるからだよ」

「新しい時代?」



つづく


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