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物語「星のシナリオ」 -40-

「気がついたかい?」

「おばあちゃん…あれ?ボク寝ちゃってたのかな?」

ソファに深く身体を預けていたはずのボクが目を覚ましたのは…真っ白な世界だった。

「あれ…?ここって…」

広く続く白い世界。よく見渡してみると遠くに、あの星の世界が見えていた。

「ボク今、あの星の世界にいるの?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言えるし」

おばあちゃんはまっすぐに星の世界を見つめたまま答え、そっとボクの肩に手をおいた。

またよくわからない世界を知ってしまったみたいだったけど、本当に不思議とボクの心は落ち着いていて、とっても穏やかな気持ちでいた。

「今日、奏詩が知りたかったのは、星のシナリオの土星の導きだったね」

「え…あ、そうだ。そう、あの星の世界へ行って、その話が聞きたいと思ってたんだ」

不思議なその場所で、おばあちゃんはゆっくりと穏やかに星の話を始めた。

星のシナリオで土星が担当しているのは、その人が社会と繋がりながら責任もって自分を生きることを導いてくれたり、最終的に達成したい課題みたいなものが描かれている。

それぞれの星の図で輝く土星を読み解くと、それはまるで、それぞれの最終試験のテーマを教えてもらっているような感じだ。それでそれぞれに、人生という旅の様々な体験の中で、その最終試験に必要な経験を積み力をつけていく…。そんなイメージなのだと、おばあちゃんは話してくれた。

そのことはボクが抱いたある不安を解消してくれるものだったんだ。

ボクは「星のシナリオ」という一冊の本に出逢って以来、物語を先へ進めたい気持ちと同時に「全て知ってしまうことへの怖さ」がある自分に気づいていた。

自分の人生のシナリオ、その全てを思い出してしまったら、それでゲーム達成なんじゃないか?そんな感覚だ。

でも。おばあちゃんの話でその誤解は解けた。

「まるで学校のテストと同じみたいだね」

「ええ?テストと同じかい?」

「うん。今度のテスト範囲はここだよって、だいたい教えてくれるけど、だからってみんな満点とれるわけじゃないしさ。うっかりミスだってある」

「うっかりミスとは…!あはは、おもしろい例えだねえ奏詩」

「なんか人生でもありそうじゃん、うっかりミスとかって」

「そうだねえ。例え運命の赤い人が誰だかわかったとしても、実際その人を前にすると緊張して話しかけることすらできなかった…。なんていうのもありそうだものねえ」

「ものすごいチャンスが目の前に来たとしても、その時忙しすぎて見逃しちゃうとか」

「そうだねえ。本当に人間界は忙しいからね」

そんな例え話をしているうち、ボクの心はずっと軽くなっていた。

それは、このゲームのすごい攻略法を見つけて同時に、そのゲームに挑むことへのワクワクした気持ちが明るい方へ導いてくれているようだった。

「ねえ、おばあちゃん。人間界が忙しくてちょっと複雑なのも、このゲームをよりおもしろくするための単なる設定なのかもね」

「ふふふ」

ボクは自分の星のシナリオの土星を獅子座に設定してきた。月星座と同じだ。

獅子座に並ぶテーマを見ていても、正直今の自分からはピントが合わなくて、まだそのシナリオを思い出せないでいた。いやもしかしたら、まだ思い出したくないもう一人のボクがいるのかもしれないけれど…。

今ならもう…。思い出してしまっても、それを受け入れ楽しめそうな気がしていた。


つづく


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