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物語「星のシナリオ」 -4-

「ああ、あの人たちは月の女神だよ。みんなの希望の人生プランを聞きながら、それに見合う星の配置、星座を教えてくれる。つまり、地上に生まれるタイミングをさ。そう、それから…あのヒゲのおじいさん、あの方はマスターだよ。時を司ってる」

月の女神に、時を司るマスター。

ボクは頭がおかしくなってしまったんだろうか。それとも夢の中でおとぎ話の世界に紛れ込んでいるんだろうか。よくわからないし、確かめようもないけれど…。

まあいいか。今はとにかく、この世界をしっかり見ていよう。だって、夢ならいつか目が覚めてしまうんだから。

あんまり深く考えたくなかったのは、その場所にいるみんながとても楽しそうで輝いて見えて、ボクまで楽しくなってきたのもあった。

地上に降り立つこと、人生のシナリオを決めることは、まるで楽しい旅行か遊園地にでも行く計画をみんなでしているみたいだった。

「地上へ行くと、ここで一緒にいた人のことも忘れちゃうの?」

「それは様々だよ。例えばね、シナリオに何て言うかな…そう、きみたちの言葉で言うと、悪役やライバルが必要な場合もある。その役を演じてくれているのは実はとても仲が良いグループの魂だったりするんだ。でも、地上に降り立つとそのことはすっかり忘れてしまってるだろ。まあ、じゃないと悪役でもなくなっちゃうからね」

「え⁈何だよそれ!へんなの。まるでお芝居をしてるみたじゃないか」

「そう、その通りだよ。人生は自作自演のお芝居さ。ああ、それから。中にはここで一緒に同じようなテーマのシナリオを描いて、地上でいつか再会し、一緒に同じテーマに取り組んでいく魂たちもいるよ。その人たちは何となく、地上でも仲間のことを懐かしく感じたりできるようになってる」

「何だか…頭がくらくらしてきたよ。だって、自作自演の人生に、どうして悩んだり怒ったり…。いったいボクらは何がしたくて地上に行くんだよ」

「それは、生きるためだよ。体験をするためだ。それが、魂の望みだからね」

やっぱり夢を見てるんだな、ボクは。そうでも思わないと、頭がどうにかなりそうだった。

でも。もし、ボクも自分の人生のシナリオを自分自身で描き決めてきたのだとしたら、夢を見ているのは、地上で生きているボクの方なのかもしれない。ふと、そんな考えが頭をよぎった。

「さあ、もう少し近くに行ってみよう」

猫に促されるままボクは、みんなの輪の近くに歩いて行った。

猫とボクがみんなの近くに行くと、マスターが近づいてきた。何か…猫と話していたようだったけどボクには良く聞きとれなかった。

「ここでは、きみと話ができるのは猫だけさ。マスターがきみに、ようこそって伝えてくれって」

「うん」

ふと視線を遠くにやると、みんなの向こう側にも猫と男性がいた。

「自分が生まれてきた理由を知りたい。宇宙の法則を知りたい。そう、強く願う者たちが時々ここを訪れて思い出していくんだ。あの男性は昨日、大切な人を亡くしたみたいだね」

泣きながら、この世界を見つめている男性は、いま何を感じてるんだろう。あの人の人生ドラマはボクが知る由もないけれど、不思議と、同士のような感覚がボクの心に芽生えていた。

もしこの光景が、ボクの夢なんかじゃないとしたら…。せっかく自分で選んだ人生を、どうしてわざわざ忘れてしまう必要があるんだろう。自分で決めて覚えていればきっと、悲しい出来事なんて一切ない世の中になるはずだよ。そんなことを考え始めたらボクは、何だか不愉快な気分になってきていた。

「私はね、楽しい!って気持ちをいっぱい体験して、それを身体で表現してきたい!」

沈みはじめたボクの心に、何とも言えない光が差し込んでくる言葉が聞こえてくる。

「あの女の子は、きみと同じ獅子座の月の時間を選びそうだね。」

「獅子座の月の時間を選ぶ?」

「月は数日で次の星座へ移動するんだ。同じ日の朝と夜とで違う月星座になることもある。だから実際にその日その時間に生まれることができるよう、宇宙と繋がる全ての存在がサポートし、誕生を祝福するんだ」

「全ての存在のサポート。祝福…」

「そう。一つの魂の冒険は、全ての存在の歓びなんだよ。だからこうやって、多くの女神や、生まれた後も多くの存在がサポートしている。ぼくらもその存在さ」

猫の声が少しぼんやり聞こえてきた。

「大丈夫なんだ。全ての人は、多くの存在に見守られ祝福されているんだ」

最後の言葉が遠のいて…。ボクの記憶はそこで終わった。


つづく


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