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第1章 邂逅 vol.7 悪戯

異性に年賀状を書く。

中学生にとっては一大決心だったと思う。
僕が初めて女子とやり取りをしたのが前述のNとの時で、その時の詳細は以前の記事を参照して欲しい。僕からの年賀状は無難なものだったが、Nからの年賀状は無難なものではなく大人が見れば告白だと分かる内容だった。親に見られたら・・・と思うが、うちの両親は僕がそういうのを見られるのを子供の頃から極度に嫌がるのを知っていたし、当時は年賀状の家族への振り分けを担当していたのが僕だったので、多分見られていない。
一方中2の時は僕が出す側になった。たしか野球絡みのことを書いた気がする。前回の記事で書いた「嫉妬」も絡んでいる。ただし基本的には無難な内容だ。無難な内容ではあっても出すことに勇気を伴った年賀状に対して岡部から返信があった。それも無難な内容であったように記憶している。そりゃそうだ。しかし彼女の家では同級生の男子から年賀状が届いたことにもしかしたら多少のハレーションはあったかもしれない。今となってはやるならもっと振り切るべきで、この時の年賀状で告白くらいのアクションを起こしても良かったんだろうなあと思わなくもないが、フラれることが異常に怖かった僕からすれば年賀状を出すのも清水の舞台から飛び降りる心境だった。この頃には中学に入ったばかりの頃と比べて自我が目覚めてもいたし、付き合うというのがどんなことかなんとなく分かり始めていた。
ちなみにこちらが受け取った2通の年賀状はおそらくまだ実家に残っていて、その在りかもなんとなくあそこだろうという見当はついている。こちらもパンドラの箱と言えるが、ハガキなので箱ではなく剥き出しだ。

I can't fly.(Google Mapより引用)

それなりに距離が近いクラスメイトとして過ごした2年目も終わり、いよいよ3年生を迎える。ここでまた岡部と同じクラスになれれば、216分の1の組み合わせを乗り越えたソウルメイト、まさに運命の相手と言って差し支えない。僕は基本的に運命論者なので、そうなることを願った。祈った。

3年生の始業式の日。この時は2年の時と異なり、クラス分けの名簿がプリントとして配られた気がする。プリントを手に取り、目を通した。やはり人生は甘くない。神なんていなかった。しかも何のいたずらか、2年時は隣のクラスだったNと再び同じクラスになる。それに押し出されるかのように今度は岡部が隣のクラスに行ってしまった。神がいたとしたらそいつは確実に気まぐれだ。

世代や地域によっても多少異なるのだろうが、僕らの学校においてクラスというのは壁に囲まれて他からの侵入を容易に許さない城塞のような存在だった。授業をサボりそういうのにも反発する不良は別だが、普通の生徒はクラスが異なった段階で部活が一緒でもない限り接点がほとんどなくなってしまっていた。ちなみに僕らは3人とも別々の運動部に属していたが、そもそも同じ運動部だったとしても男女は別々に活動していたので、部活における接点もない。2年生の頃は僕も阿呆だったので隣のクラスのNにちょっかいを出しに行くこともしていたが、3年生になるとそのあたりの分別もつくようになっていたし、そもそも岡部とはクラスの城壁を乗り越えられるほど親密にはなれていなかった。こうして僕と岡部の縁はほぼ完全に断ち切られてしまった。

せっかくなのでNとのことも少し触れておこう。
何の因果か再び同じクラスになったものの、やはり2人の間を流れる空気は1年生の頃のそれとは異なっていることにさすがの僕も気付いていたというか実感した。幸い彼女が僕を避けるということはなかったし僕も彼女を避ける理由がなかったので周りから見ればそれなりに仲良くは見えただろう。実際2年生の頃はほとんど過去のものとなっていた僕らの噂話も再び同じクラスになったせいか多少盛り返し、僕はまたしても男の嫉妬に晒される羽目になるのである。歴史は繰り返す・・・とは違うか。

多分これも違う(Wikipediaより引用)

ちなみに僕はN以外の女子とも噂になっていたことは既に述べた。しかしNについては3年間で噂になった相手は僕以外についに現れなかった。彼女のことを確実に好きな男子は何人かいたし、それっぽいのも含めれば十指に余るくらいだったのに、である。もちろん単に僕が知らなかっただけの可能性もあるが、あるいは彼女は・・・と妙な妄想は止めておこう。ついでに言うと岡部がある男子と噂になったことも既に述べたが僕がそれを聞いたのは3年生の時だった気がする。このあたりの記憶がどこまで正確かは分からず、自分に都合が良いように改変している可能性も大いにある。ただこの時の僕がもう少しだけ大人になれていれば、その後の人生が大きく変わっていただろうとも思う。そんな想像をしても詮無いことなのは嫌になるほど味わってきたが。

中3になって岡部との縁が切れたことなどから僕の感情は流浪を始めることとなる。

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