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ZERO TO ONE / ピーター・ティール - 90’に失われたBoldな課題解決のための起業 - Product Managerの読書感想文

Product Managerの必読図書にあげられることが多いこの本は、2014年にピーター・ティール(PayPalの創業者、のちにイーロン・マスク率いるXと合併)によって書かれた、シリコンバレーにおける創業の指南書といえる内容である。

ちなみにピーター・ティールはイーロン・マスクなどを含めた「ペイパルマフィア」と呼ばれる軍団のボスとして有名で、なかなかクセツヨな人物らしい。記事で紹介されていた文章を引用するとこう。

起業家、投資家、ヘッジファンド・マネージャー、篤志家、ゲイ、キリスト教徒、リバタリアン(放任主義者)、保守的な共和党派とさまざまな顔を持ち、シリコンバレーきってのインテリという評と併せて非常にカラフルな人物像を浮かび上がらせる。

https://toyokeizai.net/articles/-/54300

連続起業家でありOpenAIの創業者の一人でもあることから、現在のAI産業を作り出している一人でもあるので、教えには真実が含まれている可能性が高い気がする。

最も大切なメッセージ

本の中では、創業者へのアドバイスとして、ベンチャーファイナンスに関することや営業の役割、共同創業者の選び方、今後の未来への展望など、わりと幅広い範囲がカバーされている。が、勝手にコアだと思う部分を凝縮するとこうなると思う。

3行でまとめてみました

世の中には「水平な進歩」と「垂直な進歩」というのがあって、水平な進歩というのはすなわちグローバリゼーションという名の複製・パクリ、垂直な進歩はタイプライターからワープロを作り出すような技術革新である。とにかく世界でも突き抜けて市場を独占している企業というのはこの圧倒的技術革新を成し遂げており、この状態を"モノポリー"と呼んでいる。

モノポリー。他に並び立つものがいない。独占状態。

近年で人類がこの垂直的進歩を成し遂げたのは、コンピューター技術においてのみであると説明されている。本当にそうなのかはわからないが、とにかくそう説明されている。

私たちはまず、生きたい世界を想像し、それから創造しなければならない。

Peter Thiel

従来から、ビジネスの世界ではコンペティション(競争)が肯定されてきたが、著者はコンペティションを徹底的に避けるべきだと述べている。競争はとにかく企業から利益を奪うだけであると。また、本質的でないちょっとした小手先の差別化にも意味がないと説く。

そういった非モノポリーな企業は、ことさら自分たちの独自性を主張するし、反対に本当のモノポリーと呼ばれる企業は、世の中に対して自分たちがあたかも一般的な企業であるかのように擬装するのだ、と。

本当のモノポリーは、あたかもそうでないかのように擬装する。

たしかに、得てして独自性をアピールする企業にはたいして独自性を感じたことはないし、GAFAをはじめ独占禁止法の適用を逃れようとする独占企業は、自分たちは競争の中にいると一所懸命主張するので、それは真実である気がする。

What important truth do very few people agree with you on?
「ごく少数だけが賛同する、重要な真実は何か」

本の中では繰り返しこれが問われるが、現在あたりまえと思われているが、逆が真実であるものを見つけ出すということだ。

どっかにあるものをパクってきて、ちょっと小手先の差別化をしようとしても、そういうものはあっという間にコンペティションに突入して利益なんか出ないから意味がない、やめとけということなんだろう。

モノポリーの特徴

  1. 独自のテクノロジーをもっている

  2. ネットワーク効果:Facebookのような、みんなで同じものを使うもの

  3. 経済規模の拡張性:スケーリングするのに比例してコストがかからない

  4. 強いブランド : Apple

ビッグ・ビジョンが失われた背景

著者はまずリーンを否定している。ビッグビジョン・大胆なムーブがあってこそのモノポリーであり、インクリメンタルな改善手法では結局世の中にあるものの模倣しか生まれない。そういったドグマがスタートアップに浸透した背景には、90年代のドットコム・バブルの崩壊によるトラウマがそうさせたのだと説明している。例えばこういったものだ。

  1. インクリメンタルなアドバンテージを得る

  2. リーンでフレキシブルになろう

  3. 競争の中で改善しよう

  4. プロダクトに集中しよう、セールスではなく

これらはまやかしで、真実は本来こうである(と言っている)

  1. 些細なことより、リスクをとることに対して大胆になろう

  2. 悪いプランはノープランよりはマシである

  3. マーケットにおける競争は利益を破壊する

  4. プロダクトと同じようにセールスは重要である

大きなビジョンを掲げて、大胆にリスクをとる。

モノポリーを達成する方法として、小さく始める(特定のマーケットを独占して、徐々に大きなマーケットにシフトしていく:Facebookが大学の構内で始まったり、Amazonが元々は本に特化していたり)のは良いとしている。

本当にリーンがもはや時代遅れで有効ではないのか、については定かではない。何か偏った見方のような気もするので、別の機会に研究してみたいと思う。

もう世の中に秘密はないのか

「秘密」というのは何のことかというと、世の中に隠されている不合理や謎というニュアンスで、モノポリーとなるために解くべき課題である。そして、近年の「楽観的ではあるが何をすべきかが不明確な状態」は、まだ地球に未踏の地があったり、人類を月に送り込もうとした時代から比べると、人々が探求すべき秘密があまり残っていないように感じていることによって起きているとしている。

しかし、実際にそうかというと、まだ秘密はたくさんあるとしており、それらが発見できないのはこのような理由があると述べられている。

  1. インクリメンタリズム

  2. リスクを避ける傾向:失敗を避けて秘密に到達はできない

  3. 自己満足

  4. フラットネス:だれかがすでにやっているのではないかという疑い

人に関する秘密を見つけるには、人々の間でタブーとされていることや、だれも注目していないことに注目する必要があるのだ。

まとめ

技術的なFeasibilityのエッジに立つ

この本の中ではなく、とある別のところでGAFAのレジェンド級の方から、「イノベーションとは、技術的にぎりぎり実現可能な限界を見極めて、崖のエッジを攻める作業である」と聞いたことがある。届かなければ人々の心は動かないし、行き過ぎるとそれは不可能(墜落)である。この本でも似たようなことを言っていて、陸地側をConventions(あたりまえのしきたり)、谷底をMysteries(理解するのが不可能な謎)としている。この間を攻めるのである。

いかにして生きたい世界をデザインし、技術的にぎりぎり可能なエッジを攻めるか。それがモノポリーとして唯一の存在になれる方法である。

今後は、プロダクトマネージャーとして新しい価値を生み出そうとしたとき、単純に何かを水平方向に広げているだけでコンペティションに突入しようとしていると感じたらこの本を思い出すことにしよう。


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