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世界に1冊かも? 製本ミスのあるロバート・フランクの写真集『アメリカンズ』とその他のエディション紹介。

前回は「ロバート・フランク The Americans:写真と写真の流れを読む」として、カットとカットの流れを紹介したけれど、今回は自分がコレクションしている『アメリカンズ』の各エディションと、もしかしたら世界に一冊だけ?かも知れない希少本を紹介します。


現在所有しているロバート・フランクの写真集『アメリカンズ』は以下5冊:

Robert Frank: The Americans

  • Grove Press, 1959, first American edition
    グローブ・プレス 1959 アメリカ版 初版

  • Grossman, 1969, second hardcover edition
    グロスマン 1969 ハードカバー2版

  • Aperture, 1978, first large format edition
    アパーチャー 1978 初の大型版

  • 「アメリカンズ」 宝島社 1993 日本語初版
    黒ジャケット仕様のドイツScalo、英国Cornerhouseを原書とする唯一の日本語版。山形浩生が翻訳したケルアックの序文が読める。

  • Steidl, 2008, The Americans 50th Anniversary Edition, first editions
    シュタイデル 2008 『アメリカンズ』50周年記念版 初版


それと関連する写真集をもう一冊紹介:

Looking in: Robert Frank's The Americans: Expanded Edition, Steidl, 2009
『ルッキング・イン拡張版』シュタイデル 2009

『アメリカンズ』米国初版から50周年を記念して開催された展覧会「Looking in…」の図録(ソフトカバー版のみ)に、『アメリカンズ』収録の83コマがそれぞれ記録されているすべてのコンタクトシートなどを追加した拡張版(ハードカバー版のみ)。


ちなみに『アメリカンズ』を読むときに一番取り出すレコードがこれ:

Jack Kerouac / Poetry For The Beat Generation, 1959, オリジナル盤

1957年にヴィレッジバンガードでジャック・ケルアックがスティーブ・アレンの演奏に合わせて朗読した様子を録音したレコードのオリジナル盤。


他にも数冊持っていたんだけど、重要なこの4冊だけ残してあとは本棚整理に出したりと、我が床の間「鎮座レコード&ブックス」からすべて旅立っていった。まぁ単純にスペース不足ね…

鎮座レコード&ブックス


所有する『アメリカンズ』を簡単に紹介

The Americans, Grove Press, 1959, first American edition
『アメリカンズ』 グローブプレス 1959 アメリカ版 初版

1冊目に紹介するのはやっぱり初版。1959年にグローブ・プレスから出版されたアメリカ版初版。「赤裸々なアメリカ」が過ぎるよぉ、と本国MoMA等に断られたあとフランスのデルピール社を紹介され(泣く泣く)出版したのが前年の1958年。でもこの版にはロバート本人の希望した条件:師匠ウォーカー・エバンスや前年に知り合ったケルアックへの序文依頼、見開きのレイアウトデザイン、あとがきの内容、などが一切無視されたエディションなので、自分の中では「『アメリカンズ』ではない」ことにしてる。

現在の市場価値でもグローブ版の方が2倍以上の値が付いてて、「もし米国初版を持ってたらぜひ売ってよ、3500ドル/52万円以上でオークションに出すから」なんて記事が出るほど希少になってる。なんせ出版直後から「アメリカはこんなんばかりじゃない、ごく一部じゃん、強いアメリカ!、アメリカバンザイ!を邪魔すんな、これをThe Americans=これがアメリカだ!なんて言わんでよ、しかもスイスから来た外の人間? それにグッゲンハイム奨励金?? 人の金で撮っておいておこがましい、せめて『Some Americans』くらいにしろよ」とさんざんな言われようで、1960年までの1年間でわずか1,113部しか売れず、結局2,600部を刷って絶版となってしまった。

それだけ今ではかなり数が少ないだけあって、たまにグローブ版が出てきても「ジャケットなし裸本。状態は並からやや奈美悦子、雑穀アドバイザーです。」がほんとに多い。それでも1,000ドル以上付くのはさすが「米国初版」さすが「ロバート・フランクとジャック・ケルアック」の魅力。


The Americans, Aperture, 1978, first large format edition
『アメリカンズ』 アパーチャー 1978 初大型版

2冊目は、1978年にApertureから出版された大型版。この1冊だけとにかく大きい、とにかく見やすい=読みやすい。『アメリカンズ』を読んだことのない客人にコーヒーとともに出すのがこの版なのでキープ。


The American, Steidl, 2008, The Americans 50th Anniversary Edition, first editions
『アメリカンズ』 シュタイデル 2008 『アメリカンズ』50周年記念版 初版

3冊目は、2008年にSteidlから出版された『アメリカンズ』刊行50周年記念版。ロバートが亡くなる2019年に再版された12版を最後に絶版に。これがロバート本人が携わった最後の装丁本になってしまったなぁ。
手持ちは2008年の初版。この初版だけ色々と装丁が再版と違うので見比べてみて。「熱さ」が違うから。原書(米国初版)と同サイズだけに持ってる感が心地良くそして一番ラフに扱える一冊。いつでもどこにでも持って行ってサクッと「アメリカを歩く」ことができる。そんな文庫本感覚でこの一冊をキープ。


The Americans, Grossman, 1969, second hardcover edition
『アメリカンズ』 グロスマン 1969 ハードカバー2版

そして、あえて最後の紹介に持ってきたのが、『アメリカンズ』刊行から10年経った1969年に再版されたグロスマン版。裏表紙のデザインと背表紙の出版社名が異なるけど表紙だけ見たらほぼほぼ初版と同じ。でもよく見ると表紙の写真「トロリー」が左右の被写体ギリギリまでクロップされて寄ってる。表紙も本紙もトーンがかなり攻めてて「こうやって初版よりインパクト持たせりゃ入りやすいだろ、わかるだろ、見えるだろ、感じるだろ」というロバートのやったる感が伝わってくる一冊。初版がかなり希少だけにこのグロスマン版に8万円以上付けるところもあるので手ごろな価格で見つけたときはぜひお持ち帰りを。今後さらに価値が上がり続けると思う。1969年のインクと紙。いいのよほんと。

でも1959年初版を手にしてしまったら最後。「もうこの本以外は・・」となってしまうのは仕方ないところ。

がしかし。

その初版2600部のうちの一冊を持つ「1/2600男」でありながら、なぜこの二版のグロスマンをキープしてるかというと。。

今回のnoteの本題はここから・・・


我が家のグロスマンは、初版の1/2600よりさらに希少な、もしかしたら世界にただ一冊しか存在しない希少で奇妙な本かもしれない。

初めてこの本を開いたときは、まぁ戸惑った。「あれ? さっきこの写真見なかったっけ? あれ、次もその次の写真もだ。え? 大好物のカバーの掛かった車の写真とかなくない???」と目の前に大きなハテナ?そして心臓バックバク。

上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)

ここまではいつも通り。
ホテルのカーテン越しに見る静かな街並み。

「これだよなぁ。ここで自分を見てるんだよな。ロバート自身が写ってる。まだ何者でもない自分がここにいる。撮ろうとしたんじゃない。心がさ、撮れ、撮ってけ、って言った1枚なんだよこれ。たまらんなぁ。」

と、毎度ここでムニャムニャ独り言を一通り言ってから次のページをめくると、さぁ打って変わってジャズが聞こえてくる大都市ニューヨークのビル群写真がドーン!! ドドーンッ!!


上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)

のはずが、オンザロードの道中に遭遇した自動車事故死現場の1枚がここに。

「あれ、だって左ページのキャプションは大都市ニューヨークだよな、あれ??」

そしてそのままめくっていくと。


上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)

ここまで。本来あるはずの「ニューヨークのビル」〜「カバーの車」までの8枚が出てこなかった。ものすごく違和感。そして次をめくると。


上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)

自動車事故死アゲイン。

「あれ、やっぱりさっき見たじゃんか」

鳥肌ビンビンになりながらこれ以降のページと違和感のあった最初のページを同時にめくってみると・・・


上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)
上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)
上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)
上:グローブ版(1959)、下:グロスマン版(1969)


がっつり重複してた。

一折り16ページ8枚の写真が次の一折りと重複して綴じられ、そしてその重複した折丁の代わりに本来ここにあるはずのカバーの車を含む16ページ8枚の写真がない・・という乱丁・落丁のある製本ミス本だった。

1969年に刷られたこの一冊。前所有者が新品購入してこの製本ミスに気づかぬまま(だったのかどうか)、そのまま本棚に戻され数十年後にいざ鎌倉で我が家に。本棚を眺めてると隣にいるグローブ版よりまぁ存在感がある。なんか気になって棚まで見に行くとグローブ版やアパーチャー版よりもいつもちょっとだけ前に勝手に出てきちゃってる。また開いてまた驚いて、といわんばかりに。

しかもさらに不思議なのが、この重複した8枚ともそれぞれ見比べるとトーンが全然違う。明らかに本来綴じられないはずだった最初の8枚のトーンが潰れてる。これはよろしくないという感じ。テストプリント、ミスプリントだとしたら、ダミーを作るわけじゃないんだから即破棄。わざわざ折りこんでしかもわざわざ本刷り本綴じのその場に置きっぱなしにしないだろうし。

いやいや、本当に不思議な本と出会った。


この乱丁・落丁した製本ミスの1969年グロスマン版(下)と1959年のグローブ・プレス版(上)の2冊で比較動画を撮ってYouTubeに公開しました。その乱丁部分に加えて、一時停止でもしながら初版と二版のクロップの違い、トーンの違いも楽しんで見てくれたら嬉しいな。

製本ミス(海外だとprinting errorとかbook binding error)の『アメリカンズ』なんて見たことも聞いたことない、不思議だぁ、と興味を持って頂けたら方々にシェアしてもらえると嬉しいです。あとこの本に興味があればメッセージやメールにて連絡ください。ロバート・フランク財団やMoMAなどには動画を送って反応と返事を待ってるところ。


2024年は、ロバート・フランク生誕100周年。Apertureからは生誕100周年記念のThe Americans刷新版が出る予定。彼の大回顧展も世界中で開催されるだろうから、そこでこの本を展示してみんなに実際に見てもらいたい。

あとは。。すでに数名から連絡が来てるけど、購入希望者がかなり多いようなら(売る気はとりあえずまったくない、はず…)、いつかオークションを開催しても面白そう、なんぞ考えてます。

オススメの『アメリカンズ』ガイド


ここでは手持ちの4冊とその乱丁本を紹介しただけなので、もっとちゃんと「真面目に」『アメリカンズ』を知りたいなら、自分と同じく「1/2600男」のトシの書いた『アメリカンズ』各エディション紹介ページをぜひ読みに行ってみてください。


彼は、興味を持ったモノや自分を突き差してきたモノを丸ごと飲み込むかのようにそこに傾倒していく男。その取り込んだモノたちの蓄積で体がパンク寸前になると、自身の魂が押し出される、もしくは押しつぶされてしまわないように彼の体がその時々にモノを選びはき出していく。それが時に言葉に時に写真となって目の前に現れるような感じ。『アメリカンズ』だったりビートだったり奥様だったり愛猫だったり。彼自身が選び出したというより意識以前にそこにカタチとなって示されたモノたちで、それをこちら読み手が【撮り手(主)とともに】見てるような感覚になる。

まるで生まれたての赤子を抱いたときのような愛とそれに触れることの不慣れから来る若干の怖さみたいなものを彼のそれらから感じるんだけど、これがまぁ良いの。読むこちらがヘトヘトになるほど良いの。気合いを入れて見る写真たち、ってなかなかないから、パーソナルな写真を撮る自分としてはほんといい刺激もらってる。「ったく、愛でてーなぁオイ」って。

息づかいや生暖かさを感じる写真たち。意志決定以前、表現以前にあるもの。まさにそれは生き物の存在そのものと等価なんだろうなぁ。


『アメリカンズ』各エディションリスト


最後に、トシの記事にも載ってるけど、こちらにも『アメリカンズ』の全エディションをリストアップしたものを載せておきます。たぶんこれがすべてなはず。参考にしてみてください。

Robert Frank The Americans, Edition History

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Les Américains, Delpire, 1958, first French edition

The Americans, Grove Press, 1959, first American edition

Gli Americani, Il Saggiatore, 1959, first Italian edition

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The Americans, Aperture and MoMa, 1968, second Paperback edition

The Americans, Grossman, 1969, second Hardcover edition

The Americans, Aperture and MoMa, 1969, third Paperback edition

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The Americans, Aperture, 1978, first large-format edition

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Les Américains, Delpire, 1986

The Americans, Pantheon, 1986, fourth American edition

Die Amerikaner, Christian Verlag, 1986, first German edition

Die Amerikaner, Buchclub Ex Libris Zürich, 1986, first Swiss edition

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The Americans, Scalo, 1993, Hardcover/Paperback

The Americans, Cornerhouse, 1993, first UK edition, Hardcover/Paperback

アメリカンズ 宝島社 1993 日本語初版

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The Americans, Steidl, 2008, The Americans 50th anniversary edition

Gli Americani, Contrasto and Steidl, 2008

Les Américains, Delpire, 2008

美国人 Steidl, 2008, first Chinese edition

Los Americanos, La Fábrica, 2008, first Spanish edition

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Looking in: Robert Frank's The Americans: Expanded Edition, Steidl, 2009

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The Americans, Aperture, 2024, Robert Frank 100th Anniversary Edition, will be released in Sep 10, 2024

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