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男の子に60万振り込んでもらったので引っ越しします

「付き合う気はない」と最初に言われた時はさすがに狼狽した。私、この人に全然好かれていなかったのか?と大変ビックリしてしまって、サーっと全身の血の気が引いた。もう一回だけ手を繋いでもらってもいいですか、と頼むと手を差し出してくれたが、まるで物に触っているかのような彼の手の感触が伝わって、一層悲しくなった。悲しくて、すぐに手を離した。

そのあと、めげずにラブレターを書いてるのだから私もたいそうな自信家に違いない。あなたとセックスをしたら絶対楽しいと思うので、いつかあなたが私とセックスをする気になってくれたら嬉しいという旨のことを結構な長文で書いている。うーん……我ながらとっても気持ち悪い。どうして恋愛ってひどく滑稽なんだろう。その時は目の前のことでいっぱいいっぱいで、脇目も振らず突っ走ってしまう。特に、私は恋愛ごとが大好きな性分なので、輪をかけて気持ち悪いと思う。それでも、映画のようなロマンスにこぎつけるためには素足で泥沼をゆくことだって厭わない。私は愛されたい。そして人を愛したいのだ。

冒頭を少々自己憐憫気味に書きすぎたが、彼は本当に他意なく「付き合う気がない」だけであって、私もそれは同意見だった。(でももっとさぁ、告白したらまず、好きとかそういう甘い言葉のシャワーを浴びたかったんだもん!現実的な話は置いておいてさぁ!)

私は、彼氏を作っては破綻するというのを何回も繰り返し、もう誰かと恋人になるということにほとほと疲れてしまっていた。理由は同じでないが、彼も誰かと恋人関係になるということを避けていきたいということは常々口にしていた。

そして私と彼との奇妙な関係が始まった。恋人ではない。嫉妬や束縛はしない(なるべく)。今まで通り敬語で会話する。会うのは週に一回。

LINEは交換せずに、待ち合わせ時の連絡以外はしない。彼は私の本名さえ知らないままだった。

理由は色々あるが、このくらいの距離をとるのが私たちにとっては最善だという判断である。毎週会える日を指を折って数える日々だ。

60万が振り込まれる

関係が深くなるだいぶ前から、引っ越し代を出すとは言ってくれていた。なぜなら、前回の同棲時でも私は彼氏からモラハラじみたことをされながら過ごし、実家に帰ったら帰ったで警察が家にくるようなDV家庭だったからだ。そして、残念ながらそれを自分でどうにかできる資金を私は持ち合わせていなかった。私には行き場がなかった。それでもずっと私はお金を受け取るのを渋っていたのは、ひとえに彼との関係性を変えたくなかったから。彼が女の子にお金をあげることで横柄になるタイプの人間ではなくって、むしろまったくその気がなく、単純に「友達にお金をあげることでその人が幸せになるのならまったく正しい使い方だ」と心から思っていることは分かっていた。ただ、私が怖かったのだ。

しかし、状況が緊急性を帯びてくる。同棲を解消して実家に帰った早々に過呼吸になったのと、何度目かの警察の来訪があったことで(朝っぱらから事情聴取された、ダルい)、もう限界だった。そうだった、実家にいたら死んでしまうと思って命からがら実家を出て、大学の寮に入ったときのことを私はすっかり忘れていた。甘く見ていた。

もう一つ、お金を受け取ったとしても彼との関係性は揺るがないと思えるようになったことも大きかった。主に私が彼に負い目を感じることを危惧していたのだが、たぶん大丈夫だろうなと自然に思えるようになった。

実際、振込が完了したあと、「え〜これでFENDIのバッグ買っちゃおうっと!」とか、逆に「60万振り込んでもらっちゃったからこれからはどんな過激なプレイでも受け入れなきゃ…」なんて軽口を叩く私がいて、彼は私の冗談に苦笑いしていた。

たぶん、彼はそのお金を私が何に使ってしまおうが口出しはしないし、この一見非対称的なお金のやりとりがあったとしても関係性を対等に保てるだろうという確信めいたものが、私にはある。私の選択を最大限に尊重してくれる人だから。

例えば、毎月いくらかずつ家賃として私に渡すこともできただろうが、そうしないところに、私が彼に信頼を寄せるところがある。だってそうしたら私をお金で縛ることになりかねないもんね。本意じゃないもんね。

ということで、男の子に60万振り込んでもらったので、今月末に引っ越しします。

荒井めい

寒いから貸してあげるって言われて着た「彼シャツ」に嬉しくなってしまって、いつもは全く飲まないお酒をうっきうきで買ってしまう私です。半分こして飲みました。

彼との話は以前あげたnoteに詳しく書いてるのでそちらも併せてどうぞ〜

ちなみに、自粛前は美術館デートばっかりしてた私たちですが、最近はやることがないのでマックを食べながらテラスハウスを観てはキャアキャア言いながら過ごしています☺️

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