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【特集】変化するエストニア国防軍No.4 (無人機編)

※今回はタイトルにある正規軍のエストニア国防軍よりも民兵組織の話が多めになります。

2024年4月29日にERR(エストニア公共放送)が報じたところによれば、エストニアでは民間企業と協力して、最大1,000機の国産無人機を開発・製造し、ウクライナへ供与する計画があるとの事だ。

この無人機は2-3kgの爆薬を底部に搭載した攻撃型とされており、ウクライナ軍での使用実績をもとに、エストニアでも採用するかどうか決めると言われている。

エストニア国産のM-14成形炸薬地雷(軽装甲車輛などに有効)を搭載した国産試験機(名称不明)。出典:Sõdur(エストニア国防軍機関紙)、2023年3月号、p.54 

国防省傘下の民兵組織「エストニア防衛連盟」における無人機計画のコーディネーターであるアイヴァル=ハン二オッティ(Aivar Hanniotti)はERRの取材に対して、攻撃型無人機について次のように語っている:「攻撃型で用いられる搭載爆薬は戦闘工兵によって現地で製造・組み込みされる事が多く、この工程が製造・組み込みを担当する兵士らにとって非常に多くのリスクを生んでいる」

正規軍のエストニア国防軍?が試験をしているとされている攻撃型無人機は公開情報から察するに開発当初から爆薬の搭載を前提としているようで、ウクライナ軍がハンドメイドで既存の爆薬・ロケット弾頭などをドローンにくくりつけている事が組み込み時の事故なども考えられる高リスクだと言いたいのだろう。


エストニア国防軍は以前から、ISR用の無人機導入を進めてきた。未確認情報ではあるが、同国の国内企業であるスレオッド・システムズ(Threod Systems)社製のストリーム(Stream)C型機を保有していると言われている。

スレオッド・システムズ社製ストリームC型機(初期型)。カタパルト発進式で、航続距離は数キロ、最高速度は100km/h程度と言われている。EO、MWIRセンサー、レーザー距離計、高解像度での航空測量センサーなどを搭載。

国防軍とは別に、ウクライナ戦争開戦以来の活躍によって、無人機導入を積極的に進めているのが国防省に属する民兵組織「エストニア防衛連盟」(Kaitseliit)だ。防衛連盟は志願制の組織で、隊員のほとんどは1年の間に一定期間の軍事訓練に参加するだけだが、エストニアには徴兵制があるので、隊員らは実質的に日本でいうところの即応予備自衛官の身分にあたる。隊員数は1万数千名とされており、戦時には大隊規模の部隊を編成し、エストニア各地域を区分した、それぞれの防衛管区(Maakaitseringkonnad)の防衛にあたる。

こうした地域密着型の民兵組織として地域住民の信頼は厚いが、近年、アルタグセ(Alutaguse)やヴァルガ(Valga)といったエストニア北東部・南部地方では若年人口の減少が続いており、隊員の確保が問題となっている。これらの地域には職が少なく、子供を通わせられる学校も少ないため、隊員として適している若年層はより良い待遇を求めて、都市部など他の地方へ移住してしまう。また、これらの地域にはNATO軍の部隊は常駐しておらず、国防軍も限られた数の部隊しか置いておらず、有事の際のリスク地域となっている。

こうした危機感もあり、防衛連盟では無人兵器の採用に積極的になっていると思われる。また、地域密着型の組織という事もあり、全国的に分散展開している国防軍よりも地域の地理事情に精通した隊員らによる無人機の使用が効果的であるという判断もあるだろう。

防衛連盟が導入を進めているのは攻撃型だけでなく、民生用のクアッドコプターの導入も盛んだ。報道で公表されている機体こそ中国のDJI製だが、上空から赤外線などで彼我の位置を常に把握し、隊員らの屋内戦闘を支援するなど訓練を重ねている様子が窺える。

ただし、攻撃型以外も外国製無人機を導入してそれで良しというわけではなく、防衛連盟でドローンオペレーターを務めるプリート(Priit)氏曰く、「エストニアで無人機を全く製造しなければ、どのように使うかも理解できないだろう。部品なども国産でなければ、修理も難しいだろう」と語っている。

2024年6月23日にナルヴァで予定されている「戦勝記念日」(Võidupüha、※独立戦争時にエストニア・ラトビア連合軍がドイツ軍をツェースィスの戦いで打ち破った記念日)のパレードには、防衛連盟の無人機部隊が初参加の予定となっている。

2000年代からIT大国として知られ、現在では先端産業全般に強い国エストニア。同国は先端兵器である各種国産無人機の海外輸出にも成功しつつあり、今後の防衛連盟隊員確保のためにも、国の発展を担う産業と国土防衛の合致をアピールしたいところだろう。


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