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【特集】変化するエストニア国防軍No.8(空軍編)

今回はエストニア空軍の変革について取り上げます。

エストニア空軍は非常に小規模で、他国の空軍のような作戦機は有しておらず、保有機材もチェコ製エアロL-39練習機(3機)、ポーランド製PZL M28輸送機(2機)、米製ロビンソンR44ヘリ(4機)を有するに留まる。組織としても海軍よりも簡略な、空軍司令部(õhuväe staap)、航空監視隊(Õhuseiredivisjon)、軍事航空管理部(Kaitselennunduse järelevalveteenistus)が主なものとなっている。

その主な任務は対空監視と、NATO軍のバルト三国領空警備任務(Baltic Air Policing, BAP)に就く作戦機が展開しているアマリ(Ämari)空軍基地の管理である。

※2024年5月現在、アマリ基地は秋まで改修工事の為に閉鎖されており、BAP任務機はラトビアのリエルヴァールデ(Lielvārde)空軍基地に移されている。

エストニア最大のアマリ空軍基地(2014年夏)、映っているのはデンマーク空軍とオランダ空軍のF-16戦闘機


航空監視隊の任務は、エストニア各地に置かれたレーダーサイトや移動式地対空レーダー車輛の運用・管理であり、NATO統合航空・ミサイル防衛システム(NATINAMDS)の一環としてエストニアの領空監視とNATOの任務機の戦術統制(ターゲティング)支援が含まれている。またBAPを支援するため、リトアニアのカウナス近郊にあるCombined Command Reporting Centre (CRC) Karmelavaにラトビア軍やリトアニア軍代表らと共に航空監視隊の一群が派遣されている。

エストニアにおけるレーダーサイトとしては、西部のムフ(Muhu)島にあるレヴァルプメ(Levalõpme)(仏製Ground Master 400地対空レーダー配備)、南部のトゥイカマギ(Tõikamägi)(仏製GM400配備)、東部のケッラヴェレ(Kellavere)(米製TPS-77配備)の3ヵ所が知られている。

※ムフ島のレーダーサイト竣工式典の動画(2013年3月)

レーダーサイトの数は近年、増加傾向にあり、2023年には東部のイダ・ヴィル県(Ida-Virumaa)のヴィル(Viru)鉱山跡にレーダーサイトの建設、2024年2月には西部のヒーウマー(Hiiumaa)島にあるクプ(Kõpu)半島への建設計画も公表された。

エストニア空軍はこれら領空監視任務のみならず、新たな取り組みを始めようとしている。2024年5月から、エストニアの国民保護用スマートフォンアプリ「備え良し!」(Ole valmis!)に新たに追加される機能として、飛行物体を撮影し、その詳細(種類や距離など)と共に国防軍に通報出来るというものがある。

これはウクライナにおいてロシア軍が低空を飛行するミサイルやドローンによる都市攻撃を行っている事から、有事の際にエストニアの防空網が破壊されたり、防空レーダーが移動中の場合に、国民からの通報を元に早期探知を目指している。国民が提供した画像は人工知能(AI)に接続されたサーバーに送られ、自動的に分析される。ミサイルの場合には時速1,000km前後で飛行するため即対応する事は難しいだろうが、ドローンについては時速100-150km程度であり、早期探知により、撃墜のための準備時間を多く取る事が出来ると言われている。


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