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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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2020年10月の記事一覧

どこまでも吹いていく風がなつかしい

愛しいオートバイに乗って だだっぴろい草原の道を 針葉樹の森のくねくね道を 銀色の波がきらきら揺れる 湖のほとりの道を わたしは走った 風はいつも たとえ雨の日でもどこか 乾いていて 芯にはひんやりとした冷たさがあり 痛いほど澄んでいた ときおり 空と緑と水の色しか見えない場所で マシンを停め エンジンを止め ひと息つく 風の音が心地良かった たくさんの植物がこすれ合う音 無数の 草や 葉や 花が 風に揺れ ささやく 幾重にも 幾重にも連なる 大自然のシンフォニー 豊か

昔、死ぬのがとても怖かったころ

それは、いまでも怖いです でも、怖さの質が変わりました 子どものころ〝死〟がとても怖かった 〝私〟がいなくなるって、どういうこと? いまここにいて、世界を感じて ものを考えている私 それがなくなるって、どういうこと? 想像したら できなかった どうしても想像できなくて とても怖くなりました 私の気持ち 私の考え 私の存在 〝私〟は消えてなくなるの? 大人になり、いつか 私が死んだあとも世界は続くと理解した 理解だけはしたけれど、むしろ 消えてなくなってしまいたい、いっそ

泉はきっと涸れないから

北海道にいたころ 秋がいちばん好きだった 木や、草や、花や、虫が 命を燃やし尽くして 輝いていた いまも秋は好き そして、春も夏も冬も好き すべての季節に 意味があると知ったから 命はめぐっていると 感じるから 春に生まれ 夏は駆け 秋には輝き 冬に眠る ときがくれば、ふたたび春が 疲れたら休んでいい わたしは自分に言い聞かせる 泉の水を、わたしの言葉を 使い果たして、疲れました わたしの泉はからからです すべて出し切ってしまいました あの人はきっと言うだろう 休ませ