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免疫の世界もパラダイムシフト!  新見正則

今回はチョット免疫学の勉強です

現在のところ、残念ですが新型コロナウイルスを直接退治する特効薬はありません。有効なワクチンもまだ開発されていません。つまり、生き残るには自分で感染しない体を作るか、感染しても発症しない、または軽症で撃退できる体を用意することが肝要ですね。今回は、いわゆる「免疫力」のお話ですよ。

僕は本当は免疫の専門家ですよ

僕は33歳の時、突然サイエンティストをめざして5年間留学しました。オックスフォード大学博士課程での貴重な経験が今の僕の思考回路を創り上げたと思います。僕の直属の上司、Kathryn J Wood女史から最初に頂いた研究テーマは、超一流英文誌Scienceに掲載されていた「B cells turn off virgin but not memory T cells」という論文でした。著者はPolly Matzingerという女性サイエンティストでした。

自己か、自己でないかが基本です

免疫学のパラダイム(根底の考え方)は、「自己と非自己の鑑別」です。今でも教科書にはそう載っていると思います。生物が生きていくために、自己のタンパク質は攻撃せず、非自己のタンパク質を攻撃するというシステムです。特に獲得免疫と呼ばれる分野ではそのパラダイムは当然と受け容れられていました。

免疫のフロントラインは自然免疫です。ちょっとした傷からバイ菌が入って、そして化膿して治るといった行程です。バイ菌に対して好中球などが集まり、バイ菌と戦って、その好中球の死骸は膿になります。このフロントラインが突破されると、獲得免疫部隊の出動になります。この部隊の兵隊は、リンパ球の1つであるB細胞とT細胞です。B細胞は抗体というあるタンパク質に特異的な受容体を持っています。T細胞もT細胞リセプターというタンパク質に特異的な受容体を持っています。

利根川進先生の抗体研究が大きな前進に

この特異的な受容体をどう揃えるかは学問のトピックでした。ヒトの遺伝子は2万数千です。遺伝子からタンパク質が作られます。言葉を換えると遺伝子がなければタンパク質は作られません。無限に近いバリエーションの抗体やT細胞受容体はタンパク質です。決まった数の遺伝子で、どうやって無限に近いバリエーションを作り出すのかが疑問でした。それに答えたのは利根川進先生で、遺伝子はいろいろなパーツを用意しているのでそれを組み合わせると無限に近い抗体やT細胞リセプターが作り出せると証明しました。1987年にノーベル賞を受賞しています。

抗体やT細胞リセプターが自己に反応しないシステムはネガティブセレクションとして知られています。まず、利根川方式で無限に近いバリエーションを作り出して、その後、自己に反応するものを消去するのです。T細胞ではこの過程は胸腺で行われています。

しかし、そんなネガティブセレクションをくぐり抜ける抗体やT細胞リセプターもあるはずです。そんな時に活躍するのが免疫制御細胞で、通常FoxP3を発現しているT細胞として知られています。この領域も将来ノーベル賞を取るでしょう。

さて、抗体やT細胞リセプターが認識できるものを抗原と呼びます。抗原はタンパク質です。そのタンパク質を熱処理したり、ホルマリンで軽く前処置すると抗原性がなくなります。そんな抗原性がなくなったタンパク質を体に打っても抗体やT細胞リセプターは誘導されません。そこにワクチンの効果を高めるアジュバンドといわれる物質を加えると、抗原性を持つのです。アジュバンドになる物質は経験的にミネラルやオイルなどがいろいろと使われています。

自己か、非自己かだけでは免疫を説明できない

不思議でしょ。自己と非自己のタンパク質を認識する・しないが免疫学のパラダイムなら、熱処理しようが、ホルマリン処理しようが、非自己として認識するはずです。そしてアジュバンドを加えると再び抗原性を持つので、タンパク質は壊れていないのです。自己と非自己のパラダイムの限界になります。

確かに、腸内細菌には善玉も悪玉もいます。体の免疫システムは善玉の細菌は攻撃しません。牛肉や豚肉、鶏肉、魚を食べるとタンパク質が吸収されます。そのタンパク質に対して免疫反応は起きません。免疫は本当に自己と非自己を分けることだけなのでしょうか?

危険か、危険でないかという新しいパラダイム

そこで疑問を呈して「デインジャーモデル」を提唱した人がいます。それが僕の最初の研究テーマの、Polly Matzingerでした。彼女は自己と非自己も大切だが、生体にとって危険か危険でないかがもっと大切と唱えました。そんな危険と危険ではないことを知らせるシグナルがあるとしたのです。そしてそのシグナルは樹状細胞などの抗原提示細胞が担っています。

そんな免疫学のパラダイムシフトの時代を移植免疫学という立場で過ごした僕のサイエンティストとしての人生です。Polly Matzingerは僕が最初に英語で発表をしたときの座長でした。場所は映画「ベニスに死す」の島でした。彼女は論文に自分の犬の名前を共著者として加えたり、またジャズの演奏家やバニーガールもやっていたそうです。そんな破天荒な彼女を、僕は大好きでした。そんな彼女ももう73歳です。

コロナショックの再燃で連休がステイホームなら、
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この厳しい条件下の医療をどう生き抜いていくのか、いろいろ一緒に考えよう!
(見逃した先生、過去の動画もアップロードされていますよー)

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