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プラセボ効果!  新見正則

プラセボで良くなるの?

プラセボとは偽薬のことです。
有効成分を含んでいる実薬と外観や味はまったく同じで
有効成分を含まないものです。
この偽薬に効果があるとき、プラセボ効果と呼びます。

プラセボ効果の範囲は薬剤に限りません。
気の持ちようで効果を発揮することもプラセボ効果と呼びます。
「病は気から」の多くはプラセボ効果だと言われています。

希望が患者さんを元気にすることもある

患者さんを診療していると、励まして、希望を持ってもらうことができれば
症状が改善することがあります。
元気を取り戻すこともあります。
医療の現場で「病は気から」は決して不思議ではありません。

「病は気から」につながる研究

2013年、僕はイグノーベル医学賞を受賞しました。
オペラ「椿姫」が免疫制御細胞を誘導し、移植反応を抑えるという研究でした。
音楽刺激が大脳に働いて末梢の免疫システムを修飾しているのです。
研究ではマウスでしたが、「病は気から」をある程度証明できたと思います。

実薬 vs プラセボ

抗不安薬などはプラセボ効果が効きやすいとされています。

実薬と偽薬を与えて、不安の状態を聞き取り調査します。
ゼロがまったく不安なし、10が死にたいほどの不安と定義して、
不安の状態がどの程度かを本人に尋ねます。
そして無作為に実薬と偽薬を振り分けて内服してもらい、調査します。

この時、実薬の内服前後で不安が改善すれば、効果があったと言えます。
しかし、実は有効成分を含まない偽薬の内服前後でも不安が改善するのです。

これがプラセボ効果です。

偽薬によるプラセボ効果よりも、実薬の効果が統計的に有意に優れていないと、
実薬に効果があったと言えないのです。

つまり、実薬の効果がプラセボ効果以上であることが大切です。

エビデンスのカギ

まず、内服する人をくじ引きで分けます(ランダム化といいます)。
実薬と偽薬を用いるものが最強ですが、
漢方薬のように臭いや味があると実薬そっくりの偽薬を作ることが難しいので、
その場合は実薬を飲む人と飲まない人をくじ引きで分けます。

1,000人以上の集団をランダムにくじで分けて行われた試験を
ランダム化大規模臨床試験といいます。
この試験を勝ち抜くと、明らかなエビデンスがあると言えるようになります。

ちなみに、同じように1,000人以上の規模でも
本人の希望で薬剤を飲んだ群と、飲まない群で調べた臨床試験は
エビデンスレベルが低いと言われます。
保険適用医薬品はこのレベルでは認められません。

世界の一流誌に認められるエビデンス

12年前、新型インフルエンザの流行時に
僕は希望者に補中益気湯(ほちゅうえっきとう・ツムラ41番)という漢方薬を
飲んだ人、飲まない人で新型インフルエンザの発症率を較べました。

補中益気湯㊶を飲んだ179人では、1名が感染し、
飲まない179人は7人が感染しました。

この結果を論文にして世界の一流医学雑誌であるランセットに投稿したところ
ランセットでは、ランダム化していないということで掲載を却下されましたが
BMJのレターには掲載されました。

ともかく飲んでおけばいいじゃん、というのが結論です

ともかくプラセボ効果を否定することは科学的には重要なことです。
しかし、僕的には、もしもプラセボ効果であっても
補中益気湯㊶が新型インフルエンザの発症防止に役に立ったのなら、
希望するならとりあえず飲んだほうがよいと思っています。

がんの漢方薬のエビデンス

漢方薬には明らかな抗がんエビデンスはありませんでした。
がんの患者さんには
補中益気湯(ほちゅうえっきとう・ツムラ41番)
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう・ツムラ48番)
人参養栄湯(にんじんようえいとう・ツムラ108番)などを投与しています。

多くの患者さんはこれらの漢方薬を飲むと良さそうだと答えます。
しかし、ランダム化した大規模臨床試験を勝ち抜いた漢方薬や生薬はありません。

フアイアの実力

世界で初めて漢方や生薬で明らかなエビデンスを得た生薬があります。
フアイアという生薬です。
1,000人規模の肝臓がん手術後の患者さんをくじ引きで
フアイアを飲む群と飲まない群に分け、
96週後の無再発生存率で明らかな差がありました。

僕が調べた限りは、フアイアは世界初の抗がんエビデンスを得た生薬ですが、
残念ながら、この大規模臨床試験では偽薬を使用できませんでした。

 プラセボ効果を上手に使って名医に

プラセボ効果は大変面白いです。
プラセボ効果を最大限に引き出せる医師が名医なのでは、と最近思います。

薬剤をロボットに出してもらうのと、
名医が与えるのでは、自ずと結果が異なります。

そんな名医なら、AIに職を奪われることはないですね。


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