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【短編小説・ショートショート】蜃気羊の小説~noteの作品~

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noteで公開したショートショート、短編小説をまとめました。 ぜひ、ご覧ください。
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#ショートショート

【ショートショート】よみがえる告白(410字)

1 「好きだよ」 「ごめん、無理」私はタイムリープした。 2 「付き合って」 「悪いけど、今、無理」 「じゃあ、そのうち付き合ってくれる?」 「いや、無理」私はタイムリープした。 3 「付き合って。お願いだから」 「悪いけど、タイプじゃない」 「ひどくない?」 「そうしないと無理でしょ」 「何が?」 「友達のままでいるの」私はタイムリープした。 4 「一日だけ付き合って」 「いや、無理」 「え、ひどくない?」 「いや、ひどくないよ」 「いやいや」 「嫌々」私はタイムリー

片思いの瞬間【ショートショート】

 「ねえ、ガラス越しで手を合わせるのってどんな気分なんだろう」彼女はそう言った。脈略がなく始まったその話は、メジャー初登板で緊張して自分のフォームを忘れて投球に入り、ボーク判定された投手のようなぎこちなさを感じた。 「ねえ、聞いてる?」彼女はそう催促した。 「うん、聞いてる。聞いてる」僕は彼女にそう答えた。そして、彼女がガラス越しにいるのを想像しようとした。  誰も居ない帰り道だ。高校は山の上にあり、学校に登校する時は登山みたいに息を切らしながら何百段もの階段を登る。下校の

【ショート小説】もっとこうして欲しかった。~Twitter詩を小説化してみた~

1 「ずっと一緒にいよう」彼はそう言った。  あのとき、彼は夏服の制服を着ていた。ワイシャツをズボンから出し、第二ボタンまで開け、鍛えられた胸元が見えていた。とても涼しげに見えた。  人気のないビルの外階段はコンクリート造りで、階段の踊り場から青空と狭く灰色の街が見える。彼と横並びで冷たい階段に座り、ぼんやり街と空を眺めていた。  そう彼に言われたあと、私は彼の右手に左手をそっと乗せた。そして、時折通る車の音や、遠くで鳴っている救急車のサイレン、弱く鳴くセミの声を聴いていた。

【ショート小説】予想外のキュン~夏が終わる日~

 夏が終わる瞬間は8月31日の23時59分だと思う。  花火大会が終わるように夏は盛大に終わり、余韻を残す。そういった意味で、夏は私にとっていつも余韻を感じられるし、その瞬間が8月31日の23時59分だと思っている。  この夏も、私は誰かと花火大会に行くことで寂しさを埋めることはできなかった。フリーターになって2年も経つ。つまり、高校を卒業して2年も経っていて、このコンビニで働いて、2年弱になる。  去年までは浪人して、大学入試を目指していた。だけど、今年の3月にすべての