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イ・ラン 『話し足りなかった日』

1986年韓国に生まれ、ミュージシャン、作家、イラストレーター、映像作家として活動する著者によるエッセイ。


これまでずっと私の創作への原動力は家族への憤りだったが、社会でアーティストという職業で活動を始めてからは、あまりにも少ない収入にもっと大きな憤りを覚えるようになった。
この仕事をしながらよく言われたのは「自分が好きでやってることなのにどうしてそんなにお金の話ばかりするのか?」だった。
私が今までも、そしてこの先もやることは、お金を稼いで食べて暮らしていくための仕事で、それが私の「職業」だということを人々はわかっていない。

(本書p.21)

雑記

むかし勤めていた職場の先輩と給与の話になったとき、月給額を明かすと「それは買い叩かれすぎだ」と言われた。

大学を卒業するとき自分が「好きで」選んだ分野で、前職の給料はさらに低く、当時に比べれば改善されていたのであまり気にしていなかったのだが、先輩の言葉で目が覚めるようだった。

そうか。
もっとお金欲しいって言っていいのか。

「やりがい搾取」という言葉も、あまり一般的でなかった頃だ。

専門職といえば聞こえはいいが非正規雇用なので、毎年契約を更新する必要がある。これ以来、先輩に助言を請いつつ更新のタイミングで給与交渉をするようになった。

私はこの仕事に誇りを持っています。そして、ここで働き続けたいと考えています。が、給与面について不安を抱えています。参考に他所の類似職種の給与水準を確認したところこのような結果でした。ついては、給与額を見直していただければ契約更新したいと考えています。

交渉のための理屈を整理するのは案外楽しかったし、実際に給与が僅かでも上がると自分の存在が認めてもらえたような気持ちだった。結局、その後いろいろな経緯がありその職場は離れることになったが、自分の誇りを保つための戦い方を教えてくれたその先輩には今でも感謝している。

悲しい、腹が立つ、惨めだ、納得いかない。

そういうネガティブな感情を表現するのが昔から上手でなかった。それらを表出することによって発生する軋轢や摩擦を先に想像してしまい、半身引くかたちでそれらの感情をいったん置いておく。そういうことに慣れすぎてしまっていた。

基本OSがそういう仕様になっているから、ときに、先輩に教わったような技術をあとからインストールして使いこなす必要がある。イ・ランの文章を読むと、私の怒りを、悲しさを、がっちり掴んで周囲と渡り合っていくための、技術というよりもバイブスが、補填される。そんな気がする。

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