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月評出張版

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「月評」は前号の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評するという企画です.「月評出張版」では,本誌と少し記事の表現の仕方を変えたり,…
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『新建築』8月号を評する─『新建築』2018年8月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 『新建築』2018年9月号購入(Amazonはこちら) 評者:深尾精一 目次 ●HYPERMIX 超混在都市単位|北山恒+工藤徹 / architecture WORKSHOP ●富富話合|平田晃久建築設計事務所 昌瑜

「建築家」のあり方,市民社会の象徴としての建築のつくられ方─『新建築』2018年1月号月評

「建築家」という職能システム連 槇文彦さんによる建築論壇:変貌する建築家の生態(『新建築』2017年11月号掲載),そして1月号の建築論壇:建築の設計とこれからでは非常に重要な問題提起がされています. 発注の仕組みについては,建築界全体が団結して,継続的に議論していくべき重要なことです.ここ数年,新国立競技場問題をはじめ,日本において建築家という職能に基礎となるフレームが制度の面で根付いていなかったということが,さまざまなかたちで顕在化しています. 「建築家」という職能

『新建築』2018年1月号を評する─『新建築』2018年1月号月評

冒頭の建築論壇:建築と設計のこれからは,読み応えのある座談会であった.若い設計者には,一読をお奨めしたい. 荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館) 荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)は,隣接して建つ歴史的建造物である藩校の,照りと反りの付いた屋根を意識したのであろうか,SANAAらしい複雑な形状の屋根が特徴的である.コストによる制約かもしれないが,軒垂木の荒々しい扱いが,内部のルーバー天井とそれを支える鋼管の軽快な構造を効果的にしている.写真で見る限りなので想像の域を超えないが,

「法」と「制度」から建築を考える─『新建築』2017年12月号月評

建築を規定する「法」と「制度」という言葉を使い分けて1年間考えていきます. 法(建築基準法や都市計画法など)+制度(依頼者や市民や地域社会が持つ規範のようなもの)=ドゥルーズ(『哲学の教科書』,1953年)にならって,法という言葉を「行為の制限」と,制度という言葉を「行為の肯定的な規範」として使います.どちらも人間がつくり出すものですが,建築に置き変えると,法は建築基準法や都市計画法などであり,制度は依頼者や市民や地域社会が持つ規範のようなものでしょうか.このふたつの総和と

建築にとって「他者」とは誰のことでしょうか?─『新建築』2017年12月号月評

からまりの他者性.これは,平田晃久さんがTree-ness Houseの解説に書かれている言葉です.さて,この「他者」とは誰のことでしょう. 読み方はいくつもある気がしますが,僕は益子義弘さんが著書で書かれていた 「木陰の気持ちよさには,木の側にそうしてやろうという意図がないことも含まれている」 という言葉を思い出しました. 確かに「木」というただそこに超然と立つのみの存在に「気持ちよさ」というアビリティを与えているのは,木陰で休む誰かであって木ではありません.与えら