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月評出張版

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「月評」は前号の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評するという企画です.「月評出張版」では,本誌と少し記事の表現の仕方を変えたり,…
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#中山英之

語り得ることを語ろうとすること─『新建築』2018年11月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! (本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 評者:中山英之 渋谷について渋谷でここ数年急速に動員を増しているハロウィンの様子について,インターネット上にポストされたある写真家/編集者の短文の中で,進行中の駅前再開発が批判的に採り上げられています. 意訳すると,

人間の叡智に連なる何かを未来へ投げかける思考─『新建築』2018年10月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! (本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 評者:中山英之 最近,1969年発行の,日本全国の手漉き和紙を綴じた重厚な紙見本帳を見る機会がありました. 装丁は日本のグラフィックデザイン界の草分け的存在であった原弘さん.そこに寄せられていた原さんの文章には,当時

非人間的な質─『新建築』2018年9月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! (本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 評者:中山英之 駅前広場─ベクトル的空間巻頭のNEWSの中に熊本駅前広場新デザイン発表の記事を見つけました. 西沢立衛さんによる当初案がなぜ継続的なフェーズを重ねることなく見直しとなってしまったのか. 誌面では詳しい事

建築と建築家の関係(漸進,多人格性,都市的な同時存在性...)─『新建築』2018年8月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! (本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 評者:中山英之 漸進的に思考し続ける建築─ミナガワビレッジまず惹かれたのはミナガワビレッジの記事でした. 巻末データシートで再生建築に関連する法整備に対する所見に触れるなど,隅々にまで建築家の思想や意思が行き渡っていて

プロジェクトを通して社会・世界を考える重要性─『新建築』2018年7月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです) 『新建築』2018年7月号購入(Amazonはこちら) 『新建築』2018年8月号購入(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) 目次 ●それが人のための街と言えるのか ●海そのものがつくり直されうる世界で ●

曲線たちを引く道具─『新建築』2018年6月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年6月号(Amazonはこちら) 新建築2018年7月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) コンパスと鉄道定規.どちらも私たちのデスク回りから姿を消しつつある製図道具です.CADにも円弧を定義する手順は複数あって面白いですが,原理をそのまま体現した道具

「CITIZEN I」が問われる時代─『新建築』2018年5月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年5月号(Amazonはこちら) 新建築2018年6月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) 目次 ●壁と卵 ●「割れる卵の側」がつくり出した文化 ●誰が誰のためにつくるのか ●「CITIZEN I」が問われる時代 壁と卵卵を割らなければオムレツはつく

めたもるセブン,懐かしい未来,太陽の塔,文化,─『新建築』2018年4月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年4月号(Amazonはこちら) 新建築2018年5月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) 目次 ●いわく言い難い感情の芯─けもの「めたもるセブン」 ●始まりの季節から─リノベーション特集 ●「懐かしさ」とは未来に開かれた感情である ●「懐かしい未来」

段ボールはどうして茶色いの?─『新建築』2018年3月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年3月号(Amazonはこちら) 新建築2018年4月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) 目次 ●段ボールはどうして茶色いの? ●「ゆえに茶色である」の地点まで遡上する力強さ ●あえて「茶色」を着てそっと紛れ込む ●これからの日本の風景を問う ●グレ

ASIMOは「あえて転びにいく」─『新建築』2018年2月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年2月号(Amazonはこちら) 新建築2018年3月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) ●「あえて転びにいく」プロセス ●「建てる前の情報量が増え続ける歴史」 ●明確すぎる解答を示さ「ない」 ●時代は加速し続けている 「あえて転びにいく」プロセス

海を知って魚になる─『新建築』2018年1月号月評

オフィス以前に海をつくろうとする試みNICCA イノベーションセンターのインテリア写真にある「光」に,力の入った建築の並ぶ1月号の中でもひときわ,目を奪われました. 解説文中の「熱負荷を地球に還す」「光を冷やす」といった美しい言葉づかいに現れているように,設計チームが「光」を全波長的に捉え,素朴な仕組みでそれらを分解し,選り分ける手つきそのものが建築の総体を一気に立ち上げる,その鮮やかさに感動します. 水深の浅い白砂の海中写真を見るような明るさに満たされた吹き抜けの細部に

建築にとって「他者」とは誰のことでしょうか?─『新建築』2017年12月号月評

からまりの他者性.これは,平田晃久さんがTree-ness Houseの解説に書かれている言葉です.さて,この「他者」とは誰のことでしょう. 読み方はいくつもある気がしますが,僕は益子義弘さんが著書で書かれていた 「木陰の気持ちよさには,木の側にそうしてやろうという意図がないことも含まれている」 という言葉を思い出しました. 確かに「木」というただそこに超然と立つのみの存在に「気持ちよさ」というアビリティを与えているのは,木陰で休む誰かであって木ではありません.与えら