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ゆっくりで忙しない深海ノ空

普通でいたい

街を歩くにしても、学校へ行くにしても

競歩並みに歩くのが速くて、

人と話している時は早口で、

料理は最短で効率よく、

駅まで自転車をこぐのもいつも全速力だった。

頭の中ではこうやって

自分の行動を精一杯速くしているつもりだったが、

私のその速さは結果的にみると、

ようやく世間一般の

普通』の速さだった。

私にとって、目の前の景色がいつも速かった。

追いつきたい、普通でいたい。

『普通』になるように努力するのが『普通』であると、

そう思い込んでいた私は、

できないことは努力すればできるようになる

を信じて、日々無理やり忙しなく過ごしていた。


『普通』って大変


周りの人たちが颯爽と歩いている中、

人の流れに追いつこうと、一人息を切らして歩く。

歩くことに集中しすぎて、

人にぶつかったり、よくこけていた。

周りの目が怖くて常に心臓がうるさかった。

料理はレシピ通りの時間でやろうとすると

大体焦げたり、材料を2倍入れていたり、

小麦粉を散乱させたり。

出来上がったものは基本的に美味しくなかった。

失敗するのが嫌になって、作らなくなった。


外で人と話した後は家に帰ってきては

布団の上で常にぐったりしていた。

外では元気に話しているのに

家では無口だった。

人格が二つに分かれたようで自己嫌悪になった。

『普通』になるのは、大変だ。

努力して、
やっと普通に見えるか見えないか
くらいになる。


それでも大人は、

「早く答えろ」「早く話せ」「早く動け」

としきりに言う。

これ以上早くなんて、どうやるんだろう。

失敗を覆い隠しながら、
『普通』を目指すのはもう耐えられない。

教えて欲しい

全部教えて欲しい

どうしたら普通になれるのかを。

高校生の私はもんもんと頭を抱えていた。

普通でない自分を認めるために


『普通でない自分を認めること』

私にはこれが全く足りていなかった。

これから楽しく自分の人生を生きていくためには

『普通でない自分を認めること』が、

私には必要だった。

2020年の自粛期間


自分と向き合う時間が生まれて
過去に失敗を恐れてやめたことを
もう一度やってみようと、

まず、久々に料理に挑戦してみた。

落ち着いて作業し始める。

ゆっくりゆっくり、慎重に。慌てないように。
お皿を丁寧に持って〜コップから目を離さないよ〜
ゆっくりね〜〜〜

私の頭の中で小人たちが
えっさほいさと必死に呼びかけ合っている。

こうやって心の中で常に唱えておかないと
食器を割ってしまう自分の不器用さに
笑えてきたけれど

今回は何も気にしないことがルール

どれぐらいの速度が自分に合っているのか
確かめるのが目標だ

動作、一つ一つに集中して、

ついに完成!

集中しすぎて気づいていなかったけど、

時間が普通の2倍以上かかっていた。

長い。

ほぼ1日を費やした。

でも、初めて失敗しなかった。

ゆっくりでもいいんだな。

それが何よりも感動した。

2020年4月8日 いちごのレアチーズケーキ

出来上がったケーキがそれはそれは美味しくて、
すごく嬉しかった。

側から見ると、こんなことで?
と思うかもしれないが、

こんなささやかな成功体験が、

少しずつ自分の自己肯定感を育てていった。

相変わらず


といいつつも、

今も相変わらず面白いくらいに

毎日何かしらの失敗をしている。

焦って頭をぶつけたり、駅で転んだり。

1日1失敗。いやもっとしているだろうけど、

でも前と違うのは、

失敗に対してひどく落ち込むことが少なくなった。

むしろこの多すぎる失敗を、人に笑って話せるようになった。

私にとっては大きな一歩だ。

そして、私にとって大きいのは今いる環境。

「ゆっくりでいいからね」
「焦らないでいいからね」

そんな優しい声掛けをしてくれる人や、

わちゃわちゃ失敗しまくっている騒がしい私を
にこにこして見てくれている人や、

私の話を笑って聞いてくれる人がいて、

色んな人のおかげで、自分の速度を保てている。


自分らしくいてもいいんだなあと、
日々色んな人に支えられながら生きている。



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