女子大生と数学教師
あやちゃんとゆみこちゃん
中受では第一志望に落ちたが、大学附属の学校しか受けていなかったので、どこに入っていてももう受験はしないで済む、という予定だった。
でも結局私は中受から始まり、高校も受験をし、大学も(一応)受験することになったので何の意味もなかったのだが。
まるもと同じ塾に入ると決め、私は中受の時に通っていた個別指導の塾の別校舎(通学路内)入った。
この時にはもう人見知りとかもなく、分からないところを伝えることもできていた。
小6から中2へと2年しか経っていなかったが、きっと部活でできた先輩という存在が大きかったと思う。
あと友達と一緒に入塾したことも大きかったかな。
初めて一緒に登校した時、同じ髪型に似たようなワンピースを着ていったら塾長に双子?と言われたことも覚えてる。
塾では、数学を担当してくれた二人の女子大生の先生と仲良くなった。
私は二人のことが好きだったけど、一人の先生は私のことを(生徒として)あまり好いていなかった気がする。
多分、自分が教えきれない範囲まで私が手を伸ばしていたからだと思う。
その先生の授業で、先生は私の隣にいた女の子のことを本当によく可愛がっていた。
授業時間の9割くらいはその子の方を向いて、私の方には全然向いてくれていなかった。
向くのはまる付けと宿題を出すときくらい。
分からないところがあるんですけど、と質問に行っても、自分には分からないから他の先生呼んでくるね、と言われたり、教えることができないのに、なぜ私を担当することになったのかよく分からなかった。
もう一人の先生は、私とも真剣に向き合い、分からないところも一緒に考えてくれて、他の先生に聞いても最終的に私に教えるのはその先生だったからとても信頼していた。
本当によくしてくれてありがとうって思っている。
高校に入りはじめの1ヶ月だけはそのまま塾に通っていたけど、中学を卒業する時一人目に紹介した先生に「自分は今年で辞めるから来年からは違う先生になるよ」と言われたが、4月になっても普通にその先生は在籍していた。
私以外の子は担当をそのまま受け持っているようだった。
私のことが相当お荷物だったんだと思い、もう仲良くすることもできないなと思いそのまま塾を辞めた。
私から担当を変えて欲しいと言えばよかったね。
数学教師
これだけ塾にお世話になっておいて何なのだが、当時は「結局私は塾で何を教わったんだろう?」というくらい身についた記憶はなく(友達と一緒に女子大生に会いに行っていたようなものなので)、二人の女子大生と仲良くするために授業料を払ってもらっていたに近かった。
親、ごめん。
実際、高校受験の時、私に受験勉強を教えてくれていたのは学校の教師で、一度も私のクラスの授業を受け持ったことのない若い男の数学教師だった。
「あいし、今日から俺がお前に数学を教えるから」
昼休みに職員室の前に備え付けられた部活連絡用のホワイトボードに落書きをしてケラケラ笑っていた私たちに、その先生は話しかけてきた。
初めて話しかけられた時は「え、私?どゆこと?」という感じで戸惑ったし、ちょうど一回り年上で、若かったし顔も整ってたからか、他の生徒からもちやほやされていて、話したこともないながら正直あまりその先生を好きではなかった。
今思えば、先生は長らく塾で講師をしていたらしいから、担任に私の面倒を見るようお願いされたのだと思う。
「俺、今緊張してるかも」
はじめての補講の日、放課後の私しかいない教室の黒板に図形を描き始めた先生はそんなことを言っていた。
教室に話したこともない先生と二人、私だって緊張していたよ。
それから、週に何回か放課後先生に授業をしてもらう時間ができた。
宿題も出され、補講のない日は昼休みに答え合わせをしてもらうため職員室に通った。
私のクラスとは縁のなかった先生と話すことが少し特別感のある行為と思え、友達と廊下を歩いてる時に先生とすれ違うことが気恥ずかしかったことも覚えている。
先生は運動部の顧問だったから、毎日ジャージで、私の補講が終わった後でも部活に顔を出していた。
たまに、教室の窓側で足と手を組んで「もう今日は部活行かなくていいや」と先生が言う言葉は、「先生」の殻が剥けた状態みたいで好きだった。
先生が部活をサボる日は、数学に関係のない話が多かった。
先生の初恋、先生の大学時代、教師になった理由、弟の学費を払っていること、親の看病をしていること、友人の死、先生の抱えていた明るくない過去、教室で私だけが先生の話を聞いていた。
物心ついた時には頭の中でそろばんが弾けるように暗算ができて、小学生の時隣の席にいた女の子にその子が苦手だった算数を教えてるうちに気づいたら教師を目指していたとか。
なんてピュアなのだろうか。
私は、先生が先生になってくれたおかげで数学の成績がえらく伸びた。
多分、第一志望に合格できたのは数学ができたからだと思う。
ここまで先生にお世話になり、不合格を伝えるわけにはいかない、という意地のおかげもあったかもしれないけど。
ちなみに、受験前日は塾に行き、まるもと一緒に帰った。
前日に何をすればいいか分からなかった私はもはや何もしないという選択をし、まるもと一緒にマックに入ってダラダラとした時間を過ごし帰宅した。
受験当日は、大手の塾の旗を持った講師たちが校門にいたが私に用がある人は誰もいなく、素通りで教室へ。
試験前に近くの子たちが部活は何入る?と話していて、「地味になりたくないからダンス部かなー」と言っているのが聞こえた。
入学後ダンス部でその子を見て「ほぉ〜ん?」と思った気がする。
英語はできる方だと思っていたけど、あまりにも長い文章と問題にもう解くのをやめてしまおうかと一度ペンを置いたことも覚えている。
ここでもう一度ペンを持ち頑張れたのは本当ただの意地だったと思う。
合格発表の日は自分で先生に報告しようと決めていたのに、担任が既に報告してしまっていて、伝えに行った時は「あぁ聞いたよ、おめでとう」と言われてしまった。
それから一ヶ月ほどの中学校生活はあっという間に過ぎ、私は主席で中学を卒業した。
特待生として入学したわけではなかったが、学費の一部が免除になったりもしていたので、女子大学と仲良くしていただけかもしれない塾の費用に還元したものとして許してほしい。
最後の期末試験の帰り、先生がスクールバスの列を誘導していて、他の生徒が「僕/私どうだった〜?」と先生に言い寄ってて、先生が「覚えてないよ一人一人の点数なんて」と誤魔化していた。
その後私が列に並んだのを見つけた先生は、私の方に寄ってきて「お前は今回も満点だったぞ」とボソッと言った。
一人一人の点数は覚えてないって言ってたじゃん。
しかも私は先生の管轄「外」の生徒。
私のクラスの問題作成も丸つけも、きっと先生はしていない。
生徒の情報は共有してるのかもしれないけど、先生が私の結果を気にしてくれたことが嬉しかった。
最後の試験は、大して勉強せずにいった。
最後だし、受験も終わったし、最悪全教科0点でも年平均が赤点になることがないのは分かっていたし、卒業はできる(教師からの反感は買うけど)。
ほとんど毎日、受験が終わった日に買ってもらったPSPで遊んでいた。
それでも数学だけは100点が取りたいと欲をかいた。
先生に褒めてもらいたい、喜んで欲しいという単純な理由で何でも頑張れた時代が私にもあったんだよね。
先生、私に数学を教えてくれてありがとう。
最初に会った時なんだこいつって思ってごめんね。
卒業式に、先生とだけ写真撮れなかったのが唯一の後悔。
職員室まで押しかけて色んな先生に色紙のメッセージと写真をお願いしていたのに、先生とだけ写真が撮れなかったんだ...
(メッセージは書いてもらえた)
あの時の若くイケメンな出立ちの先生とのツーショをおさめることができなかったのは結構悔しい...
クラスメイトは私がこんなに先生にお世話になってたなんて知らなかっただろうし、みんなの前で担当でもなかった先生に(イケメンだったし)
「写真、一緒に撮ってください」
なんて言ったら告白だと思われそうで言えなかった。
初めはあまり好きじゃなかったし、イケメンだからなんでもスマートにこなすタイプかと思ってたけど、先生は先生してるだけあってすごい真面目でちゃんと不器用な人だった。
卒業記念にもらった音楽祭のDVDを見た時、教師合唱で他の先生が恥ずかしそうに、気だるそうに、ふざけながら歌う中、先生だけが指揮を追って一生懸命歌ってるのを見つけて、『あぁ、先生の良さはこういうところなんだよなあ』としみじみ思ったよ。
卒業後、先生とはFacebookで友達になった。
あの時のフレッシュ感は消えているけど、とても頼もしそうな先生になっている。
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