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2020年、わたしの10曲 (1)

ここ数年の楽曲Huntは、以下の3つの方法によるところが大きい。
・運転中のラジオ
・服屋や飲食店など、街中の有線放送
・たまに帰省する妹との情報交換
J-WAVE、Shazam、そして妹にはこの場を借りて深く深く謝意を表したい。
※なおリリース年は2020年に限らないものとする。


【1位】環境と心理/METAFIVE (2020.7.24)

欅並木に西陽が射していて、その長い坂を登りきったところにある信号機の手前、右折レーンの先頭に停まって私は、ラジオから届く『環境と心理』を呼吸していた。
耳も目も、鼻も、皮膚からも『環境と心理』は沁み入って、あの日以来、今日まで私の体を流れている。
それだって、環境と心理の為せるわざである。
なんだって環境と心理の為せるわざなのである。

私たちには、環境と心理があるだけなのである。

“夕暮れ時、赤く染まる”。


【2位】Turn On The Lights/Jamie Cullum (2020.10.9)

東急多摩川線は、多摩川~蒲田間の計7駅を結ぶ路線で、3両編成の小さな列車がそのわずか5.6kmの距離を盛んに行き来している。
高架の東横線ホームから階段を下って、地下かと思うような多摩川線の地上駅へ降り立ったそのとき、幕が上がり『Turn On The Lights』は突如として私の眼前に現れたのだった。
Amazonプライムミュージックのプレイリスト「クリスマスポップス」からの一曲。
新しいHuntだ、両耳にイヤホンを詰めた頭が吊り鐘のように『Turn On The Lights』を鳴らし、増幅し、乾きはじめたばかりの空気の中を伝播していくのを私は感じた。


【3位】Funny/Zedd & Jasmine Thompson (2020.7.17)

情景だった。すべてが終わったあとで誰にかえりみられることもなく、美しかったバラの花束だけが床の上に取り残されている、そんな幕切れの。
「おかしい」ではなく「可笑しい」、ゆえにあまりにも哀しい。「It's funny(笑ってしまう)」、そう言いながらも、笑うことなどでき得ないのだから。
歌われる詞と旋律との結び付きもまた、うねりを伴って不可分である。
英語の構造がもつ美しさが、旋律の力に押し上げられて一層きわだつ。
語られるのはあなたと私、あの時と今。すべてがあざやかに対置されていく。「how it's different(こんなにも、違う)」。あたかも、手品師がカードの裏表を観客によく見えるよう掲げて翻してみせる時のように。その手際には無駄も隙もない。
「Who's laughing now?(最後に笑うのは誰?)」
末尾、その問いに、やはり「おかしい」でも「面白い」でもなく「可笑しい」こそがここでの「Funny」の訳であることを知る。その語が繰り返されるほどに、その実まったく「笑えない」現実を浮き彫りにしていくのだから。こうした倍音の鳴らし方の巧い、美しい楽曲である。


(2)につづく