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繊細が美容室でできないこと5つ

① 美容室に行く

美容室に行くのが怖い。そもそも美容室は立地からして怖い。だいたいイケイケなカフェや洋服屋が立ち並ぶストリートの一角にあり、そのストリートにふさわしい、毛先を遊ばせたイケイケの客が集う。そんなイケイケな客を五万とみてきたイケイケの美容師に、私のような田舎からでてきた豆みたいな人間が顔面や髪質を吟味されるのが怖い。うっすら小気味いいボサノバがかかっている陽キャな空間に、2時間くらい閉じ込められることが怖い。でも髪の毛は伸びるし、せっかくならオシャレな髪型にしてみたいという願望はある。ときどき、インスタに流れてくる可愛いヘアモデルさんたちを眺めて、いいなあと憧れる。でも「こんな感じにしてください」って言って、イケイケ美容師さんに「お前ごときがこんな可愛いヘアモデルと同じになろうとするなよ」って思われたらどうしようって思う。そして土日が終わり、また次の土日も終わり、髪は伸びつづける……

② なりたい髪型を伝える

いざ美容室に着くと、イケイケ美容師さんが「今日はどうしますか?」と聞いてくる。この質問を受けるだけで、皮膚という皮膚から汗が湧き出てくる。だって、どうしたいのかなんてわからない。さっきのヘアモデルさんの写真だって、たしかにトレンドっぽいけど、本当にその髪型をしたいのか?と言われるとわからない。見かねた美容師さんが、「ん〜お客さんはフェミニン系の顔の系統なので、こういうの似合うと思いますよ」と気を遣って提案してくれるのだが、私のことはもう豚だと思ってくれていいからどうか顔面を分析しないでくれ!!! 豚の顔にフェミニンもキュートもないのだから!!! と叫び出したくなる。そんなことを考えていたら、隣に座っているイケイケの女性客が「えっと〜今日はちょっとゆるめのパーマかけたくて〜」と髪型の希望を伝えているのがチラリと目に入る。すごい、というか人として偉い。彼女は自分がどんな髪型にしたいかを知っている。じゃあ私は?私はどんな髪型にしたいんだろう……どんな髪型にして、ひいてはどんな人生を歩みたいんだろう……これはもはや哲学である。

③ スマホや雑誌を見る

カットやカラー中の気まずさは、人生の「気まずい度ランキング」のなかでも堂々の第一位に輝いている。(私調べ)まず、目のやり場に困る。だからといってさっそくスマホを見て己の殻にこもるのも、「こいつ会話する気ゼロじゃん」って思われたらちょっと感じ悪いし、目の前に置かれたVogue的な雑誌をめくるのも、オシャレぶってる感じがして小っ恥ずかしい。どうしよう、やることない……ふと鏡の横にある電子モニターに目をやると、表参道付近のお寿司やさんやら、タピオカ屋さんやらのPR動画が次々に流れてくる。ほう、これはいい。これを見ているフリをして2時間やり過ごそう。しかしPR動画は30秒くらいで終わると、再び頭からループされ始める。あ、つらい。無限ループのやつだ。誰かこの画面に、ネトフリ流してください。

④ シャンプーでくつろぐ

いまだかつて、シャンプーでくつろげた試しがない。まず、イスが倒れるときにどのタイミングで目を閉じればいいのかがわからない。ポポちゃんのような感じで、体の傾斜に合わせて徐々に目を閉じるのが自然なのだろう。しかし目を閉じるタイミングを見失ったら、最悪の場合は美容師さんと目が合う事態になる。もし無事に目を閉じられたとしても、白い布を顔にかけられた後に美容師さんに話しかけられた場合は、布がずれたり飛んでいったりしないように気をつけながら、かつシャンプーの音よりも大きい声で話すというミッションが発生する。シャンプーされているときは、たしかに「いい香りだな」とか「頭皮気持ちいいな」とかも一瞬よぎるけど、「頭皮からとんでもない量の汚れ出てたらどうしよう」とか「靴の裏にゴミくっついてたらどうしよう」とか余計なこともよぎり、そして「気持ちいいな」に余裕で勝りやがる。よって、全然リラックスできない。

⑤ 同じ美容室に行く

無事にその美容室での施術が終わり会計すると、ショップカードを渡される。美容師さんから「アプリからだと、次回はトリートメントが無料になりますので」と案内され、「そうなんですね!わかりました」と、さも"次回も来ます顔"で受け取る。……が、その美容師さんは、私と永遠のサヨナラを交わしたことをまだ知らない。そう。金輪際、私がこの美容室にくることはもうないのだ。もし1ヶ月後に同じ美容室の同じイケイケ美容師を指名したとして、「コイツ前回で気に入って、また褒められたくて来たよw」と思われたらどうしようと思うし、そもそも一度髪質を見られるとその人には二度と見られたくなくなる美容師カエル化現象が湧き起こっているから。そして1ヶ月後、また新しい美容室探しの旅が始まる。来世は表参道の美容室の常連になって、「KENさん、明日切れる?」とかLINEで気軽に相談できる人間になりたい。

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