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「ソフビ」ブームが世界を席巻!玩具とアートの融合が生んだ日本発の文化現象 | 連載:ソフビ考現学①

2023年12月17日 真実一郎

■世界に広がるソフビ人気


「ソフビ」が世界中で人気を博しています。

まさに今日、アメリカのカリフォルニアで開催されている、6万5000人を集客するアートトイの祭典「DesignerCon(デザイナーコン、通称D-Con)」では、オリジナルのソフビ人形を展示販売するディーラーが世界中から集まっています。

一方で香港では、「TOYSOUL 2023(亞洲玩具展)」という大規模なクリエイターズトイの展示会が開催中です。イベントの目玉は100を超えるディーラーが参加する、多様なソフビの展示販売です。中華圏ではソフビは「軟膠」とも呼ばれ、特に台湾、香港、マカオで人気を博しています。

日本では本日、秋葉原のソフビ専門店「まんだらけCoCoo」が4周年記念販売イベントを開催し、店頭には長蛇の列が出来ました。

このようにソフビ関連イベントが、いまでは毎週のように世界のどこかで開催されています。そこに集まるのは、昔ながらの玩具コレクターだけではありません。ストリートカルチャーやアート、インテリアに興味がある若い世代が多いのが特徴です。

■ソフビは日本から始まった


「ソフビ」とは、ソフトビニール人形の略称で、ソフト塩化ビニール(塩ビ、PVC)を型抜きして中空成型したパーツを組み立てたフィギュアのことです。これはもともと日本で発祥・発展した文化だとされています。その元祖は、1966年に作られた怪獣ソフビでした。

東京都台東区の玩具メーカー「マルサン」が、1966年に『ウルトラQ』のゴメスやガラモンなどの怪獣ソフビを発売します。怪獣という異形のキャラクターを、遊んでも壊れにくい素材で人形化し、コレクション欲を刺激するシリーズ商品とすることで、第一次怪獣ブームの原動力となって大ヒットしました。

1970年代前半の第二次怪獣ブームでも、ブルマァクの怪獣ソフビやバンダイのヒーロー・怪人ソフビが爆発的に売れ、当時の男子の部屋のおもちゃ箱には怪獣やヒーローのソフビが何十個も詰め込まれていたものです。砂場で遊んでもお風呂に入れても壊れず遊びたおせる、それがソフビの魅力でした。

怪獣・特撮ブームが下火になるとともに、玩具メーカーが発売するソフビは勢いを失います。しかし1980年代になると、中古ソフビにヴィンテージ価値が生まれるようになり、コレクタ―が増え始めます。そして1990年に、M1号というメーカーが、ウルトラQに登場した「ケムール人」をマルサン・ブルマァクのようなレトロソフビとして少数発売します。これをきっかけとして、個人や小規模メーカーがソフビを制作・発売する流れが生まれます。

ソフビは小ロットから生産でき、塗装のバリエーションも作りやすいため、個人が作家性の高い作品を少量生産するフォーマットに適していたのです。

現在のソフビ人気は、①ヴィンテージ・ソフビ、②(ゴジラやウルトラマン等の)新作の版権ソフビ、そしていわゆる「アートトイ」と呼ばれるような、作家のオリジナルデザインと造形による ③クリエイターズ・ソフビ という、主に3つのジャンルで形成されています。これらは独立して存在しているわけではなく、互いに影響を与えながら新しい潮流を生みだしています。

■ソフビは玩具とアートの境界的存在


1990年代、原宿を舞台として育まれた、脱アメカジの独自のストリート文化、いわゆる裏原宿カルチャーの影響は玩具にも及びました。「BOUNTY HUNTER」「SECRET BASE」「ZAAP」といったトイショップは、アメリカントイと日本のレトロなソフビ玩具のセンスを融合させ、デザイン性が高いストリート・テイストのソフビを若者たちの間で浸透させていきます。

裏原宿界隈でコラボを多く行い、BOUNTY HUNTERとオリジナル・フィギュアも発売したアーティストのKAWSは、現代アートの世界に進出し、アメリカやアジアで大活躍することになります。

こうしてソフビの魅力が世界に広まり、世界中でソフビを作るアーティストが増え始めます。ソフビがアートと玩具の境界線を曖昧にしたため、アートに流れていたお金や才能がソフビに流れてくるようになったのです。

特にコロナでステイホームが叫ばれたころに、旅行が出来なくなった中華圏の富裕層のお金が行き場をなくし、ソフビ市場に投入されました。いま世界のソフビ人気をけん引するのは、中華圏の富裕層といっていいでしょう。

いまではスニーカーやNFTと同様に、ソフビは投資や投機の対象にもなっています。NFTの魅力が「一点もののアート」であり「コミュニティの印」であったのだとしたら、ソフビはまさに「手で触れるNFT」といえるでしょう。人気のあるクリエイターが作る一点ものソフビが数百万以上の高値で取引されるケースもあります。

このバブルは一時的なものだとは思いますが、参入障壁が低いことからソフビを作る人は増え続けていて、日本の金型工場や製造工場はパンク状態だといわれています。ソフビの世界においては、ソフビ発祥の地で作られたという「メイド・イン・ジャパン」がブランド価値を持つのです。

ヴィンテージ・ソフビも同様に投機対象化が進んでいます。中古玩具は通常、ブリキ玩具に代表されるように、幼少期にそれで遊んでいた世代が高齢化しコレクションを止めると市場価値も下がる、といわれています。しかしソフビは、クリエイターズ・ソフビの世界的ブームによって価値が再発見されたため、一部のヴィンテージ品の流通価格が異常に高騰しているのです。

バッドボーイズ佐田さんがYouTubeチャンネル SATAbuilder's で公開するソフビ紹介動画の人気も、最近のヴィンテージ・ソフビ人気の要因の一つでしょう。

マルサンやブルマァクといった老舗メーカーは、今でもソフビを作り続けています。いまや世界的な玩具ブランドとなり、先述したD-Conでも最大面積のブースを出したメディコムトイも、ソフビに力を入れています。ブームに背を向け、地道に良質なソフビを作り続けるブランドやクリエイターも数多く存在します。

そしてそれらに触発された多くのクリエイターが作るソフビが、世界中で生み出されているのです。その結果、「ソフビ(SOFUBI)」はスシやマンガと同じように、世界で通じる言葉になりつつあります。

日本発の世界文化「ソフビ」の魅力を、今後多面的に掘り下げて紹介していきたいと思います。

真実一郎


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