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【妖怪百科】お歯黒べったり

 いわゆるのっぺらぼう系の妖怪である。後ろ姿は美しい女性。振り返ると目と鼻がない。にんまりと笑う口にはお歯黒がべったり。これは恐ろしい。神社にゆかりがあるそうだ。

 幼少の頃よりこのお歯黒べったりは、姫路城に住む妖怪長壁姫(おさかべひめ)と並び、私の中の怖い女妖怪のツートップであった。当時水木しげるに夢中だった私はどちらも水木作の絵で覚えた妖怪だ。改めてみてみると、長壁姫にもしっかりとお歯黒が書かれている。要するに、お歯黒は少年のころの私にとってよほど恐ろしかったのだろう。お歯黒べったり以外ののっぺらぼう族に恐ろしさを感じなかったことと、共通項のある長壁姫を怖がったことから推測するに、目と鼻がないことより、お歯黒があることの方が恐怖の対象になったようだ。

 通時的に見ると不気味だが、共時的に、もし自分が江戸時代の価値観を有していた場合、お歯黒は好ましいものだっただろうか。広く普及していたことを考えると、眉ぞり、お歯黒の女性を少なからず魅力的に捉えていたのではないかと思う。こういったことは、時代、文化を横断すると頻繁に起こる。欧米から見ると日本の鯨を食する文化は異常かもしれなし、現代の感覚ではなぜ魔女狩りが行われたかなど共感の余地はない。しかしながら、そういったカルチャーの中心にいる人々にとっては、外部からの視点では異常に見えることも通常のことかもしれず、世の中に絶対なんてものは存在しないと言うメッセージをお歯黒べったりから読み取ろうとするのはいささか安易だろうか。

 どの時代、どの文化においても、今の自分とは異なる価値観があり、それに意を称えるばかりではなく、許容する包容力を持っていたい。もはや、時代、文化を広く横断する存在となった妖怪から学ぶことは多い。恐らく、お歯黒べったりは、驚かせてやろう!くらいしか考えておらず、文化大使のような役割を押し付けられるのは迷惑千万であろうが。。。

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