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好きなことを続けることの深み ​

小学校5年生から大学2年生まで一貫した将来の夢が、スポーツライターだった。
スポーツが好きになってから昨日まで、イチロー選手は第一線に立ち続け、イチロー選手から様々なギフトを受け取ってきた。
イチロー選手の引退は、自分の命がある中で、最も大きな喪失感を伴う引退になるかもしれない。
そもそも、物心ついたときから今まで、イチロー選手がいない野球界を、知らないのだから。

イチロー選手の引退会見を見て、1番強く感じたことは、
「好きなことを続ける」ことの“深み”だった。

貫いたものは何かという質問に対する「野球を愛したこと」という言葉。
子どもたちへのメッセージという声に対する「夢中になれるもの、自分が好きなものを見つけてほしい」という言葉。
野球をする日々に対する「自分なりに頑張ってきた、重ねることでしか後悔を生まないことはできない」という言葉。

しかし一方で、野球が楽しかったのは入団3年目までだとも語った。
28年の現役生活の内、25年は純粋な楽しさだけではない時間を過ごしたことになる。
(もちろん、やりがいや充実感や達成感を味わうことはたくさんあったとも語っている)

「好きなことを仕事にすること」は自分が今の環境に身を置く中でよく耳にする言葉だ。
好きなことに取り組むことは、もちろん楽しい。
しかし、好きなことが楽しさだけで永続するわけでもない、ということから、どこかで目を逸らしてしまっている気がした。
好きなもの・愛するもの・夢中になれるもの、それらの中身は「楽しさ」だけではない。
深く向き合うほど、好きや愛や夢中の中に多分に「苦しさ」や「しんどさ」も混ざり合う。
「好きなものに向き合う」ことは、「楽しい」ことと完全なイコールではない。
好きなものの中に内在する苦しさやしんどさもすべて引き受けていくことだと、
イチロー選手の野球に対する日々の積み重ねの言葉を聴き、改めて背筋が伸びた想いがした。

「好き」と「楽しい」を、強く結びつけ過ぎているかもしれないと思った。
楽しくないことを理由に好きなことを遠ざけていることがあるかもしれないと思った。
好きの中に苦しさがあるとして、好きなものから逃げることが正解というわけでもまたない。
好きだからこそ、その中に潜む立ちはだかる壁に諦めずに向かっていくことができる。
仕事でも結婚でも何でも、「続けること」にはこの側面があるのではないかと改めて感じた。

「向き不向きよりも自分の好きなものを見つけてほしい」
「成功するかどうかを基準としてやるやらないを判断すると後悔する。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。そのときにどんな結果が出ようとも後悔はないと思う」
会見の中でイチロー選手はこうも語っている。
どんな道を選ぼうが、苦しさは必ず訪れる。
成功や向き不向きではなく、「好き」を大切にする。
そして、すべてを引き受けて、「好き」なものを積み重ねる。
それを誰よりも実践できていたのがイチロー選手という人だったのではないだろうか。

そして、ささやかな驚きを覚えたのは、「我慢したことはない、我慢ができない」と語ったことだった。
ということは、野球のための日々の積み重ねは、我慢でも何でもなかったということだ。
我慢せずに続けられることは、必ずしも楽しいことだけではないのかもしれない。
楽しいという感覚以外に、我慢せずに物事を続けることが可能となる道がきっとあるのだろう。

50歳まで現役という強い言葉を発しながら、常に引退と隣り合わせの実感を心の内に秘めて野球を続けた日々。
去年5月からシーズン最後の日まで、試合に出られない中で野球を続けた日々が誇りを生んだという言葉。
そして、会見の最後の言葉、「辛いこと、しんどいことから逃げたいと思うのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気なときにそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことなのではないかなと感じています」

「好きなことを続けること」には、まだまだ自分のようなひよっこには分からない深みがある。

また、イチロー選手からギフトを受け取った。
イチロー選手は「ギフトはもう無いよ」と言った。
イチロー選手からのギフトが無くなることが寂しくてたまらない。
イチロー選手からのギフトが無い野球界・スポーツ界があまり想像できない。
どこかでイチロー選手がまたギフトをくれるんじゃないかと期待してしまう自分がいる。

イチロー選手、本当にありがとうございました。


https://www.youtube.com/watch?v=MoschCm4-XE

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