第64話 「牛の歩みも千里」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年1月9日掲載分)

明けましておめでとうございます。
皆さん今年はどんなお正月でしたか?

めでたいけれど油断の出来ない、初詣も新年会も実家への帰省もままならないという今までにない新年の始まりでした。この事態は数ヶ月では終わらないなという雰囲気が見えてきた年明けだったと思います。皆さんもくれぐれも気をつけて日々をお過ごし下さい。

さて丑年の2021年、僕は60回目の誕生日を迎えます。実は今年は僕にとっていろいろとアニバーサリーな年で、1月が楽器製作の仕事に就いて40周年、2月は今の工房を開いて10周年となります。今年は僕の干支でもある丑年ですから、慌てずじっくりと自分のペースで歩いていく事を意識する年にしたいと思っています。

よく「牛歩」という言葉が使われます。国会議員の先生方のお陰で何となく嫌なイメージのある言葉ですが、一方で「牛の歩みも千里」という言葉もあるそうです。牛のようにゆっくりな歩みでも、一歩一歩じっくりと進んでいけばいつかは千里にも達することが出来るという意味だそうです。

そう思って考えると、僕の40年間の楽器製作の日々はそうそう華やかなものでもありませんでしたが、飽きもせずに毎日木を削り弦を張りという事を淡々と繰り返してきた事で思いの外遠くへ歩いて来れたように思います。今の位置は五百里でしょうか。それとも八百里でしょうか。いやまだ百里にも届いていないのかもしれません。でもまだずっと真っ直ぐこの道を歩いて行こうと思います。

そう言えば先日、茅野に越してきて初めて近く(5km先!)の寿司屋さんに行きました。すこぶる手際のいい、店主でもある板前さんが握る寿司はとても美味しくその味を堪能しました。改装したばかりだというカウンターに陣取って飲みつつ話しを聞いていると、「自分は生意気にも20歳代の時にこの店を始めてしまった。だからすごく苦労したけれども、その分他の人よりも若いうちに色んな事を学べて良かった。」ということを仰っていました。

僕自身も同じような経験をしてきたのですごく共感する言葉でした。
やりたい事、夢中になれる事が有ったらまず始めてしまえばいいんです。後は体験しながら軌道修正していけばいい。20代は何でも貪欲にやって貴重な経験を手に入れるための時間です。

50歳だからちょっと仕切り直して自分に活を入れたんですと仰る大将は楽しそうな笑顔で寿司を握っていました。また食べに行きたいお店です。

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