なぜ事業再生にリストラは不要なのか? (3/3)
実は、この会社の利益が出なかった最大の理由は、「個別プロジェクト収支の管理ができていないこと」だったのです。
人件費は、ほとんど全社収支に関係がありませんでした。
詳細については機密保持の関係で明らかにできないのですが・・・、きちんと計算すると、そう結論付ける他ありませんでした。
それが分かった時、膝から崩れ落ちる思いでした。
ほとんどの受託案件できちんと利益を出しているのに、年に数件発生する大型赤字案件が思いっきり足を引っ張り、それだけで他のプロジェクトで稼いだ利益を全て吹っ飛ばし、赤字に陥いる・・・。それがこの会社の赤字の本質だったことが、このタイミングでようやく理解できたのです。
おせーよ、と言われれば返す言葉もありません。
その半期に黒字化したのは、たまたま大型の赤字案件が発生していなかった(後から考えると「顕在化」していなかっただけで、実は発生していたのですが・・・)から、という事実も分かりました。人件費は、無関係だったのです。
自身の実力や施策とは無関係にいきなり黒字化したことにより、自分の誤りに気付くことができました。
「これが、問題の本質だったのか・・・!」
自分の当初の見立ては、大外れでした。
「ごく数件の大型赤字案件により、全社が赤字に陥るので、それを発生させない仕組みを作る」ことが正解と分かったので、それさえきちんと実施できれば、かなりの利益を出せることも分かりました。
(一方で、その方法での利益率UPの限界も、事前に見えてしまいましたが。)
この構造は実は前任のCOOも気付いており、それを実現するための社内システムまで導入済みでした。
前COOは、その効果を証明する時間が足りず、責任を取って退任されましたが(さぞかし無念だっただろうと未だに申し訳なく思っています。あと1年時間があれば、彼こそが中興の祖であったはずです)、その思想とシステムを引き継いだ自分は、その徹底活用に専念しました。
このプロセスも機密保持上、つまびらかにはできませんが、「そのシステムを何としても使わざるを得ない仕組み(制度・組織・プロセス)作り」と「凡事徹底」が根幹になります。
これらの取り組みにより、その後この会社の利益はうなぎ上り。成功の仕組みを手に入れたので、以降、6期連続で過去最高益を更新するまでになったのです。
特段難しいことをせずとも、基本の徹底だけでそこまで持っていくことができたのです。
一方、人件費については、業績改善に影響がなかったばかりか、再生局面で人手不足が明らかになるにつれ、「あれ?リストラがかえって足を引っ張っているのでは・・・?」との疑いを拭い去れませんでした。
・・・検証してみると、残念ながら、その通りでした。
リストラにより固定費を下げて営業利益率を上げることは、収益改善にはほとんど効果なし。
逆に、個別プロジェクトの収益率を上げる「仕組み」を作った上で、そこに「追加で」人員を投入する方が(すなわち「リストラ」ではなく「増員」する方が)収益改善にははるかに大きな効果があることが、算術上も明らかになりました。
事業再生により創出された価値の源泉を分類すると、リストラ(=人件費削減)に起因するものはほぼゼロ。
価値創出のほとんどは、赤字案件の撲滅によるものでした。
となると、さらなる赤字撲滅(あるいはプロジェクト収支悪化回避)のための「人件費を増やす」、すなわちプロジェクト品質管理の人手を増やすことが正解。そうすることで案件の隅々まで目が届くようになり、追加で投じるOpex(人件費)の数倍の収益があがるので、一番ROIがよい。
本当は「増員、イコール収益改善」であった・・・。にも関わらず、リストラにより貴重な人的資源を無為に失ってしまった・・・。結果、反転攻勢において人が足りない、という本末転倒な状況を作り出してしまった・・・。
衝撃的でした。
あのリストラの苦しみには意味があった、と思いたい自分がいました。退職勧奨の対象となった社員には、「皆さんの犠牲には意味があった」と思ってもらいたかった。みんなのために、あの悲劇に何らかの意味を見出したかった。
ただ、結果を見ると、無残にもあの犠牲には、少なくとも収支上の意味はゼロだった。
もっと言うと、マイナスだった。
自分が無能だったため、犠牲を引き受けてくれた人の退職を、無にするどころか、マイナスにしてしまった・・・。
この身悶えるような大失敗が「事業再生に人員削減は不要」「リストラは価値創造につながらない」という信念を持つに至った理由です。
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