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プライマリ ふたたび2

 この春に、以前自分が出した本の改訂版が出ることになった。だいぶ評判が良かった本なのと、共同編集の先生がグイグイ引っ張ってくれたので、エネルギー充填ゼロパーセントの自分でもなんとか完成にこぎつける事ができた。で、せっかくなのでいろんな人に献本していたのだけど、たまたまうちに来ている研修医にも一冊あげよう、ということになった。彼はこの4月からはアクティブな教育病院での研修が始まることになっていた。だから、ちょっと宣伝もしてもらおう、なんてヨコシマな考えも働いた事もあって著者割で何冊か購入した。そして、この機会を利用して、そういえばストックがなくなってきていた他の自分がかつて出した本もまとめて購入したのだった。

「名刺代わりの一冊に」

 その中の一冊、プライマリ、は僕が父のやっていた小さな今の診療所を引き継いで数年たったときに、とある医学出版社の編集の方が熱心にアプローチしてくれてできた本だった。

 大学を辞めて、小さな診療所で働きはじめた。とにかくやたらと忙しく、当時は充実感もそれなりにはあったのだけど、とにかく仕事上もプライベートでもやたらといろいろあって身体的にも精神的にもかなりまいっていたときだった。

 そんな状況もあって、何も自分には書くことはない、と最初は固辞していたのだが、それでもぜひ、といろいろその編集者が仕掛けを考えてくれたのだった。定期的にメールをいただき、自分の創作意欲を刺激するような関連の論文や記事を送ってくれて、内容についてもいくつか提案をしてくれた。その中で、当時自分が編集委員をしていた雑誌「総合診療」の中で、若手医師とクロストークを行ってみては?という提案があって、それならば、、、とその提案にホイホイと乗ってやってみたのだった。

 最終的にはそのクロストークの内容を出発点として、すこしずつ自分の思いを足していって、できあがった本である。30歳台最後、40歳になる節目の年に、自分のように迷いながらプライマリの道を歩んでいる人たちにむけて、それでいいんだよ、というメッセージを込めたものだった。

 まあ、部数的には僕がほかにかかわった本にくらべればミニコミレベルしか売れなかったので熱心に口説いてくれた編集の方にはほんとうに申し訳なかったのだけど、でもなんかある層の人にはきちんと響いたらしく、時々思い出したように読者から熱い熱い手紙が来たりして、部数的には難しかったかもしれないけれど、やっぱりあの時に書いておいてよかった、と今では思っている本である。確かに一回読めば十分かもしれないし、何度も読み返す本でもないかもしれない。…というか、そもそもプライマリ・ケア業界でまっすぐに突き進んでいる人には「なんじゃこれ」というものだったのかもしれない。

 まあ、それはさておき、久々に自著を何冊か買ったのだけど、その後にきた年間売り上げ数をみると、明らかに今年は自分が買った部数以上に売れている。自分では特に宣伝とか何もしていないのに…。誰かが買っている…?

そして、今年の学術大会のあと、ツイッターを眺めていたらこんなつぶやきに出会った。

そうか。せっかく新しい物を買ったし。

引っ張り出して、もういちどページをめくる。
まずは奥付。いつだったっけなあ。

2008年。13年前か。

(つづきます)

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