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リンパ系家庭医:渡辺史子先生とのダイアローグ

秋季セミナーから遠く離れて

 いろいろやっぱり日常業務をこなしながら編集をするのは技術もない私にとってはなかなかハードルが高かったのですが、なんとか最低限のものだけに絞ったインタビュー動画を作成し公開に(ようやく)こぎつけることができました。秋季セミナーのオンデマンド配信期限も伸びたようなので、なんとか間に合った…。編集は大学生の長男に教わりつつ自力でこなすことができた最低限のものだけど、まあ、ある意味これは自分のためだけのものなので、よしとしときます。こういうところがテキトーな自分。

記念すべき第一回目のお相手は富山市まちなか診療所の渡辺史子先生。

  動画はこちら↓

収録日時:2021年7月22日

 たった2か月前なのにすでに記憶が曖昧…収録した日は、オリンピック開会式の前日、そして海の日が移動した祝日だったと思う。コバケンが昔の動画の問題で解任された日だったっけ?ネットの記録によると、東京のコロナ感染者が1979名と急激に増加し始め、このままいけば8月上旬には2700名は越す(実際には5000人以上だったのだけど)と言われていたころ。まあ、インタビュー自体最初だったのでちょっとお互い緊張気味で始めたのですが、渡辺先生のあたたかいほんわかキャラに救われ、そして機材トラブルに見舞われることもなく無事終わることができてほっとしたのを覚えています。

 さて第一回目のゲストは、富山市まちなか診療所の渡辺史子さん。いくつかお仕事を一緒にさせていただいてその堅実な仕事ぶりに一目置いていたのですが、実はいままであまり直接お話をしたことがなく(いやあるのかもしれないけど覚えていない)、バックグラウンドもあまり知らない、というところと、影のシナリオライターからの推薦もあって、お声をかけさせていただきました。

 渡辺先生の略歴はこちら↓

 早稲田大学を卒業後、家庭医になることを目標に東海大学医学部に学士編入、卒業後横須賀うわまち病院、川崎市立川崎病院を経て諏訪中央病院で研修を積み家庭医療専門医を取得。その後ご主人とともに富山へ移り、富山大学総合診療科を経て現在富山市まちなか診療所で在宅診療を中心に活動中。

 とっかかりはアイスブレイク的に、人となりを知る10の定型質問。これはほぼ、ソングライターズというかアクターズ・スタジオ・インタビューと同じ質問をピックアップ。この中で特に印象深かったのは、「絶対やりたくない職業は?」と伺ったときに、職業ではなく「自分の正義に反するようなことは自分が苦しくなってしまう」ので…というお答えが返ってきたことでした。自分の主義、ではなく自分の正義、というところが。よごれた大人になってしまった僕は自分の主義に反することをちょいちょいすることがあるので…でも正義に反することは確かにしたくないなあ。それと「充実していると感じる時は?」と伺ったときに「仲間と一緒にわいわいしているとき」との答えも印象的でした。しなやかな中にもしっかりと核になるものを持っている、別の表現をすると、たぶん一緒に過ごしている周囲の人たちにも自然と頼りにされる、しっかりとしたリーダーシップを持っている人だな、、、と思いました。そんな感じだから指導を受けている若い先生とチームを組んだ仕事とか、地域の多職種の人とまとまってチームを運営したりするのには適任なんだろうな。これは何回か一緒にお仕事をした際に感じたこととも一致する。 

 まずはどうしてこの道にたどり着いたのか、の話題。子供のころから家族全員を診てくれていた近くのお医者さんを心のモデルにして、早稲田大学時代、自治医大地域医療セミナーやソーシャルワーカー室での経験から医学部に学士編入、その後家庭医療への歩みを進めながら、横須賀うわまち病院で初期研修、その後、三次救急で過ごした1年の間に「人と話をする診療をしたい」と決意が固まりその後、諏訪中央病院から富山へと移っていったそうです。「だいたい人づてで決まって動いてきました…」とのことでした。僕のキャリアも多くは偶然の出会いに左右されている、いやむしろ出会いはすべて偶然の風の中(道化師のソネットか?)、だったのですが、渡辺さんの場合はその中にしっかりと根差した「核」のようなものをその奥に感じられました。

 とくに、医師として成長していく過程でであった「ポートフォリオ」を通じて、成長を感じ取っていったという彼女の言葉の裏には、内視鏡や心カテのように定量化しやすい手技が目立たない家庭医療、地域医療、総合診療の領域で働く私たちが、いかに自分を保っていくか、ということに対するヒントを与えてくれています。人間は振り返ってきたときに後ろにできた足跡が見えて「以前とは違う高さに登ってきている」と感じることは、やはり大切なのですね。時を重ねれば、自分も年をとるし、周囲も変わるので、同じことをやっているように見えても、必ず「違う地平」にたどり着いているのでしょう。

これまでの歩みと仲間たち

 渡辺さんとの対話の中で、渡辺さんは自分を「リンパ系の人」と表現していました。潤滑油のように、身体に必要な栄養とか免疫機能とかを届ける人。血液よりも、ゆっくりと。しかし危機に陥ったときには重要な役割を果たす。周囲のために働いているように見えても、実は困ったときには家族や友人を含む周囲から助けられてきた、とも語っていました。困ったときやピンチの時に頼るっていうことは、ほんとに大切なことですね。そしてそんなふうにして自分が周囲に育てられ、成長を感じてきたように、これからは自分の手で後に続く人たちに自身の成長を感じ取ってもらいたい、という希望を語っていました。子育てもあって大変な中、しっかりと歩みを見せ、それを次世代につなごうとしている、しなやかな強さを感じました。

最後の質問

 いったん質問が終わったあと、今度は自分に対する質問をあらかじめお願いしていたのですが、これは当日まで内緒にしておいてもらってぶっつけ本番で答えることにしていました。緊張していたのですが、3つの質問が来ました。ひとつ目は「私が医院を継承した理由」。ふたつ目は「キャリア選択に与えた家族の影響は?」3つめは「研究に向かうモチベーションは?」というものでした。ひとつめの質問はよく聞かれることだったのである程度答えがありました(どっかで話したと思うけど、この中だったかな ↓)

 一つ目の質問への答え。医院を継承した理由の最大の決め手は、当時働いていた大学病院と比べて、サービス内容も質も小さいにもかかわらず多くの地域の人々が通院しているのはなぜだろう?という素朴な疑問と、医師となった自分がこれまでの生育過程において意識下か無意識下にかかわらずお世話になった人々の信頼を裏切るわけにはいかない(大学の先生や学生を裏切っていいというわけではないが)という二つの理由でした。いろんな人がいろんな理由で仕事を選ぶんでしょうが僕の場合はささやかな疑問と義務感で多くの人の助言を聞き入れませんでしたねえ。その選択をしなかった場合にどうなっていたのか時々考えることはありますが。

 二つ目の質問に対してその場でした自分の答えは、見直してみると、若干渡辺先生の質問意図とは異なっているような気もしますが… 家族からは特別進路選択についてとやかく言われたこともなく、助言もありませんでした。本心はどうだったか今となってはわかりませんが「やめてもいい」って言われてましたし。ただ、父が行っていたプライマリ・ケア領域での活動が自分の進路選択に影響したことは間違いないと思います。他の学生が触れないような情報に触れる機会もありましたし…プライマリ・ケア領域で仕事をすることについては、どんなにいろいろ言われてもそれを「つまらない仕事」だとは思うことはありませんでした。

 最後の質問に対する私の答えは、他の研究をしている方とはちょっと違うかもしれません。まあ、ちゃんと研究をやっているとはとてもいえないのですが、大学から離れて20年近くも研究を細々と続けてこれたのはなぜか?と改めて聞かれてそれにこたえるのもこっぱずかしいのですが…それは「根性」とか「意地」に近いものです。本当は「好きだから」とか「知的好奇心が沸く」とか言えればかっこいいのかもしれませんが。自分は研究とか執筆活動は好きだからやっているというものではないです。むしろ、何度も「やる必要ないじゃん」って言われ続けて、たしかにやる必要ないなー、って何度も思ってきました。そもそも自分は仕事自体を好きと言えるものではないですし(この業界は仕事が好きな人ほんとに多い)。できれば一日中浜辺でヤシの実が波間にぷかぷか浮いているのを見て過ごしたいとかヤドカリになりたいとか思っている怠け者なので…ただなんかいろいろやる羽目になって、それをやめちゃうのもなんかしゃくで、という若干後ろ暗い理由が主になっているのでした。いや、もちろん建前上は、知の蓄積に少しでも貢献したいから、って言いますが。

全体を通しての感想

 渡辺先生との対話を通じて、医学部入学前、そして医学生時代、卒業後のキャリア選択、と紆余曲折があるように見えて先生の中にある「ぶれない」思いというものを感じました。特に、三次救急で働いていた一年の間に「自分は人と話しながらかかわりたい」と改めて思った、というエピソードに自分にはない何かヒューマンサービスに携わる素質的なものを感じました。長く地域の人と仕事をする中で、時に医師としての自分と住民としての自分の立ち位置がわからなくなってしまうことがあるのですが、その時に自分を保つ「核」をどこに置くか、ビジネスとしてではなく、自然体として置くにはどうすればよいか?みたいなことに関する気づきをもらったような気がしました。そして、滑舌の悪い自分の話し方についても(笑)。

さて2回目は、医療法人オレンジ理事長 紅谷浩之さんとの対話です。大した編集じゃないのに時間がかかって大変… 巷のYouTuberってこういうのちょいちょいってやっていることに改めて感心、っていうか尊敬。

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