※本作品は水無月むいな氏の作品( https://ncode.syosetu.com/n6185hx/ )の二次創作作品となっております。掲載にあたっては水無月むいな氏(@minatuki_muina)の許可をいただき、北爪くみん様 (@kitazume_kumin)かすみみたま様(@kasumi_mitama)のご承諾をいただいた【非公式作品】となっております。予めご了承ください。


私はいま崖の上に立っている。
目の前に赤く染まった海が見える。
その光景もいつもならとてもキレイに見えるはずだけど、いまはとても恐ろしいものに見えている。
私はいまみたまちゃんと一緒に崖の上にいる。
もう私の体は私の思うようには動かない。
みたまちゃん・・・だったものに腕を握られた瞬間から私の意識だけが残ったまま、私の体は勝手に動き始めている。
ゆっくりとみたまちゃんだったものが、私の後ろへと回り、背中に手を添える。
(助けて落とされる・・・だれか・・・だれか・・・)
そう祈るけれど、声が出ない。出たところで今はもう辺りには二人しかないけれど。
(いや…いや…いや…落ちたくない…死にたくない…)
でも無情にも私の背中にある手には力が込められて………
「いやぁーーーーっ!!!!」
その瞬間、私は叫んでいた。
そして叫んだまま後ろに倒れこむ。
ごつごつした地面の上に尻もちをついて思わず顔をしかめた。
あれ、手足が・・・?
そう思うと同時に私の顔に水しぶきのようなものがかかる。
振り向くとみたまちゃんが吐いていた。
大量に大量に透明な液体を。
(これって海水?)
液体からは強い磯の香りがした。生臭くて澱んだ、流れが止まった海底(うみぞこ)の水のような。
気持ち悪さに思わず手と足であとずさりしようとしたけれど、私の手足はまだそこまで自由に動いてくれなかった。
(いや・・・いやっ・・・)
せめてかかる水だけ防ごうと顔のまで腕をバタバタしていると、ふいに私の体がふわりと浮かび、そのまま少し離れたところに降ろされた。

「大丈夫?」

突然のことに(え?誰?)と思いながら顔を上げると。

そこにはみたまちゃんがいた。

「え?」

私がさっきのところに目を向けるとそこにもみたまちゃんがいた。
(じゃあ、この子は?)
そう思いながらまた後ろを向くと、もう一人のみたまちゃんが私を後ろから抱きしめてきた。
手を優しく前に回して、そっと、私を温めるように。
彼女の体温がゆっくりと伝わってきた。
そのとき私にはわかった。
(あ、この子もみたまちゃんだ)
物凄く不思議な体験だったし、意味も全然わからないのに、同じくらい全然怖くなかった。
この子はみたまちゃん。私の知っている子じゃないけど、たしかにみたまちゃんだ。
もう一人のみたまちゃんは私に向かってニッコリと微笑みかけると、ゆっくりと私から離れていった。
そのまま、スッと右の掌を体の前に真っすぐと伸ばした。
掌の向く先で、みたまちゃんはまだ海水を吐き続けていた。
その量はとっくに人の体に収まるような量を超えていた。

「私に対してしたこともそうだけど、お母さんまで連れて行こうとしたことはもっと許せない」

そういうと、その掌をギュッと握りしめた。
とたん、その口からはいままで以上の海水が一気に出て・・・そしてそのまま前に倒れこんだ。

「したいことがある気持ちは分かるし、それで誰かの体を借りたい気持ちもわかるけど。だからって無理やり体を奪うのは違うよ。そんなことしても結局は虚しくなるだけ。だから・・・」

もう一人のみたまちゃんは悲しそうな表情を浮かべると。

手を握ったまま崖を海のほうに向かって進むと、崖の終わりで握っていた手をそっと開いた。
ドボンと何かが水に落ちるような音がする、何か、そう、人の体くらいの大きさのものが海に落ちたような。

「二度と浮かび上がってくることができないように・・・」
ドボンッ!と今度はもう少し大きな音が聞こえた。

声は平坦だけど彼女が悲しんでいることは分かった。
彼女はゆっくりと手を海に向かって合わせると
「あとは、海の神様にお任せします」
とそう呟いた。

彼女は私のほうを向くと嬉しそうにまた私に抱き着いてきた。なんだかとっても楽しそうだけど、私にはなにがなんだかやっぱり分からない。
私から身体を話すともう一人のみたまちゃんは
「お母さん、すぐに私は起きるから。起きたらもう大丈夫って伝えてあげて。私も戻らないといけないから挨拶はできないけど、会えて嬉しかったって」
そういうと、パッと浮かび上がるとどんどんと体が透けて薄くなっていき、
「あっちのお母さんにも伝えておくね。こっちの世界では私たち友達だったんだよって」
そういって消えてしまった。
突然現れて突然消えて、私には一切なにがなんだかわからない状況を残して。
ねぇ、私がお母さんってどういうこと?
分かったのは私を助けるためにどこかから来てくれたというそのことだけだった。

(こっちのみたまちゃんに聞けば分かるのかな?)

うつ伏せで倒れているのも苦しいかなとおもって仰向けにした。
本当は膝枕でもしてあげたいけど、地面がゴツゴツだからそれは勘弁で。

もうみたまちゃんからは違和感がなくなっていた。
そういえば、あれだけ吐いたはずの水がどこになかった。
臭いももうしない。

いつもみたまちゃんがそこでスヤスヤと寝ていた。

「・・・おかえり」

私は膝を抱えて彼女の横に座り、彼女が起きるのを待った。

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