Yとの再会は突然だった。
仕事帰りにメッセージがあり、見るとたった一言「久しぶり。Yです。これから会えないかな?」とあった。
突然ではあったが、なんとなく心のどこかでYから連絡があるかな、とも思っていたので、「どこにする?」とこちらも一文だけ送った。
返事はすぐに来た。「君に任せる」と。

「一体どうやって俺の連絡先を知ったんだ?」
Y とは馴染みの喫茶店で落ち合った。
夜にはお酒も出す店で、昼間も『未成年お断り』の、いまどきは珍しく珈琲を飲みながら煙草が楽しめる古き良き喫茶店だ。
「Aだよ。この間、連絡を取ったら、君に例の話をしたというからね。久しぶりに僕も君と話したいと言ったら、連絡先を教えてくれたよ。昨今の感覚からしたらちょっと不用心なことだとは思うけど許してくれよ」
「別に構わないよ」と俺は言いながら珈琲を一口飲んだ。要件はなんとなく分かっている。
「あの子はね、怪談を集めているんだそうだよ」
黒髪の狐面を被った、巫女服の少女。少々露出が多いような気がするが、そこを指摘しても「ふふふっ」と笑ってそれっきりだった。身の危険を感じることはないだろうけど、なんともこっちのほうが居ずらかった。
Yは一瞬怪訝な顔をして、すぐに納得がいったように頷いた。
「俺もね、この間、少しお世話になって。お礼にさ、Yの話をしたんだけど......」
「それだけじゃないんだろ?」とYが口を挟んできた。
「うん、例の噂に関しても少し」と言いながら、私はあぁ本当だったんだなと噂に確信を持った。
「どこで聞いたんだい?」Yの口調は落ち着いていた。きっと私が意味もなく口外しないと思っているんだろう。たしかに、言いふらしても意味はない。
「意外と“噂”としては出回っていたってことさ。俺には無害だったから、無視してただけで」
俺の答えに満足したのだろう、Y は煙草を一本取り出して火をつけた。
どうでもいいが、それは私の煙草なんだが......。
「あの子に会ったのか?」
「うん、会ったというか、夢で見たんだけど、なんというか、かなりリアルでね。とてもとても夢の中とは思えなかったんだよ。夢の中でその少女が君から話を聞いて、興味を持ったと言ったんだ」
Yが煙草に口をつけてひと口吸い込んだ。
「俺をまじまじと見つめて、少し残念そうに、ご自愛ください、次はきっとないですよ、と言われたよ。わざわざ言われなくても、もうあんな無茶はしないけどね」
おそらくYの言葉は嘘ではないだろう。それなら本当に私にはもう関係のない話だ。
「それならきっと大丈夫だと思う。ま、つまらないことは忘れたほうがいいよ。若気の至りとでも思ってさ」
私の言葉にYはおかしそうに笑った。
言葉通りの意味だ。若気の至り。忘れられるならそのほうがいい。

喫茶店を出て、Yと別れた私は“どこにでもない方向”に向かって話しかけた。
「勝手にしたことですからね。借りとはカウントしませんからね」
私の言葉に“どこにでもない方向”から「ふふふっ」と笑い声が聞こえた。

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