これは私が大学生の頃の話です。

その日、私はとある山道を走っていました。
すでに時間は真夜中。自分もそんな時間に走りたくはなかったのですが、大学での実験がうまくいかず、レポートを提出するために遅くまで実験を繰り返していました。
この山道はいわゆる曰くがある道で、地元の人なら出来る限り、夜遅くは通らないようにしている道だったのです。

その道は山道とは言っても、しっかり整備もされていて道幅もありました。ほぼ一本道で緩やかなカーブがところどころにあるだけでした。
街灯照明の明かりも十分に灯っていたので夜の運転にしては快適、
気を付けてさえいれば事故を起こすこともないような道でした。

私は対向車がいないのでライトをハイビームにして、速度は法定速度通り。あるものを見逃さないように慎重に運転しました。
「落石のおそれあり」。「動物が飛び出すおそれあり」。「追い越し禁止」。そして「一時停止」。
一旦止まり、ゆっくりをアクセルを踏む。
次々と見える道路標識に従って走り続けました。

山道を通り抜けた私は近くのコンビニの駐車場に止めました。
コンビニに入ると馴染みの店員さんに声を掛けました。
「一時停止が出てましたよ」
店員さんは「またか」とため息をつきました。
「じゃあ、おそらく近いうちに事故が起こるのかな」
私は小さく頷きました。
「家に帰るにはあそこ通るのが一番早いんだけどね」
店員さんは苦笑すると「回り道するしかないか」と小さく呟いていました。

山道の途中に一時停止の標識があったら、何が何でも止まらないといけない、というのがこの道を通る人の暗黙のルールでした。
曲がり道もないのに何を警戒して止まるのか?でも、そんなことはお構いなしです。その道では『止まれ』があったとき止まらなかった車は決まって事故を起こします。
知っていようと知っていまいと区別はないようでした。
何故そんなことが起こるのかは誰も知りませんし、もし私がそのまま引き返したとしても、『止まれ』を私はきっと見つけることはできなかったでしょう。

この現象は道が整備されてから起こり始めたとのことです。
私の祖父などは「それは山の神様が通る合図だから、邪魔をしていけない」などと言いますが。
神様の世界でも歩行者優先が浸透しているということなのでしょうか?

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