表紙

◯◯はじめました→→→中途半端(やりきれない)をリピートしてしまう理由

心底変わりたいと思っても、なかなか変われないとき、多くの人は自分に「意志が弱い」「才能がない」というレッテルを貼ってしまいます。

これを繰り返すと、新しいことをはじめる意欲がどんどん失われ、やがて「どうせできないからやらない」「だめなやつ」という状態に至ります。

レッテル貼り

こうなる前に、今回は「なぜ、人は変われないのか?」の話をします。そして「変われないのは、意志が弱いからではない」ことを説明します。

ハーバード大のロバート・キーガン教授らが提唱する「成人発達理論」に関する研究を中心に、“変わりたくても変われない”メカニズムを紐解きながら、変化し続けることを強みにしたキャリア形成について考えます。


前提ですが...人は大人になっても成長する

知能の加齢変化

こちらは大人になってからの「知能」の変化を示した図です。横軸に注目してください。

数的処理(△印、いわゆる計算力)などの「流動性知能」は、20代をピークにゆっくりと衰えていきます。

その一方で、言語理解(■印)をはじめとする「結晶性知能」は60代まで継続的に上昇します。

2つの知能

要するに、知能(ビジネスで求められる知識やスキルの多くは「結晶性知能」に含まれる)は大人になっても向上します。

大人の知性

また上の図は、知能とは別の、人の器や人間力、スタンスと呼ばれる「知性」も大人になっても向上することを示しています(知性を解き明かす「成人発達理論」の詳細はまた後日まとめます)

以上のように、人は大人になっても成長することは確かだとして、ではなぜ私たちは、自らが望む通りに成長することが難しいのでしょうか?


そもそもアプローチを間違えている

「今年こそ痩せる!年明けから通いはじめたジム、最近全然行っていない」
「毎日読書するって決めたのに...すぐマンガに手を出している 」
「メンバーに任せるべき!わかってはいるけど、自分で動いてしまう」

新しいことをはじめてみたり、自分の弱点を克服しようと努力したり、自らを変えようとチャレンジしても継続せず、中途半端になってしまうことは非常に多いです。

リーダーシップ論の研究者 ロナルド・ハイフェッツによると、人が直面する課題には2種類あり、「技術的な課題」と「適応を要する課題」を正しく区別する必要があると指摘します。

人の成長というテーマにおいても、単純に能力の向上に取り組めばよい課題と、考え方(思考パターン、マインドセットやスタンス)を変えなければならない課題があります。

2つの課題

最も大きな過ちは、適応を要する課題なのに、技術的なアプローチばかり用いてしまうことです。

例えば、今年こそ英語力を身につけよう!と決意して、1日の学習目標を定め、英会話の予定をカレンダーに入れて開始するも、1ヶ月後には形骸化しています。このとき「夜は予定が動くから朝行くようにする」とか「1日単位だと融通効かないから、1週間単位で学習目標を定める」など技術的なアプローチを追加しても、なかなか続きません。なぜなら、日々を過ごす中で既に持っている習慣やその根っこにある価値観や信念(いずれも意識的ではないことが多い)はそのままに、行動だけを変えようとしているからです。

では、どうすればよいのでしょうか?


意志力だけに頼るのはしんどい

「やりきる力が大事」
「意志力を鍛えよう」
「コツコツ地道に続けよう」

前に進む姿勢や継続する力、自制する力は、とても大事です。

でも、それは誰もがわかっています。わかっていてもできないからモヤモヤしています。結局やりきれなくて「自分は意志が弱い」「だめなやつ」っていうレッテルを自分に貼る人がすごく多いなと感じます。

変われない人は、意志が弱いから変われないのか?
生まれながらに決まっているから変われないのか?

この問いに対して、ロバート・キーガン教授は次のように否定します。

心臓病で死ぬ危険があっても生活習慣を改めない人たちがそうだったように、リーダーと組織のメンバーが変革を成し遂げることを妨げている要因は、基本的に意志の欠如ではない
本当の問題は、自分が本心からやりたいと望んでいることと実際に実行できることの間にある大きな溝だ。


何をやっても中途半端になってしまうメカニズム

ロバート・キーガン氏が指摘する“大きな溝”とはなにか。

それは相反する2つの目標の間の溝です。

表と裏_1

例えば、仕事の場面でいうと、本当は自分の考えで仕事を進めていきたいと思う一方で、正しいやり方で進めるべきだと考え、結果として上司の指示を仰いでしまうという状態です。

[表の目標] こう変わりたいと“意志”をもって努力する一方で、相反する[裏の目標] を実現するために、正反対の行動を取ってしまうのです。

まさに、片足でアクセルを踏み、もう片足でブレーキを踏んでいるようなものです。

アクセルとブレーキ

[表の目標]とそれを[阻害する行動]、その背景にある[裏の目標]の3つは、1つのシステムとして働いています。

ロバート・キーガン教授らはこのシステムを変化を阻む「免疫システム」と呼び、この構造を可視化するツールとして「免疫マップ」を提供しています。

このシステムこそが「何事も中途半端になってしまう」状態を引き起こしています。


変化を阻む「免疫システム」とはなにか

変化を阻む、この“やっかいな”免疫システムは本来、何のために存在しているのでしょうか?

それは、恐れや不安に対処する役割です。

例えば、先述の例でいうと、「自分の考えで仕事を進めて上手く行かなかった場合、上司から評価されなくなる」不安に対処しているとみなせます。

つまり、変化する(自分の考えで仕事を進める)こと自体ではなく、変化した先に待つリスクや危険に無防備になることへの不安に対処していると言えます。

免疫システムのメリデメ

ロバート・キーガン教授らは、この不安管理を担う免疫システムが、あまりに強力であるがゆえに、不安からの解放と引き換えに、様々なことが不可能だと思いこんでしまう弊害がある、と言います。

それでは、この変化を阻む免疫システムが機能する中で、どうすれば私たちは変われるのでしょうか?


変わるための2つの方法

ひとつの方法は、変化に伴う不安や恐怖に打ち勝つ”勇気”を持つことです。

偉業を成し遂げた人々は、さまざまな恐怖に(死の恐怖さえも)を乗り越え、自分を変え、そして世界を変えてきました。尊敬される人々の多くは、勇気に秀でた人々です。

その一方で、私も含めふつうの人にとって、恐怖に打ち勝つのは並大抵のことではありません。

ロバート・キーガン教授らは、勇気(強い意志)だけに頼りすぎない、別の方法を提案します。それは、不安の根っこにある“固定概念”の真偽を確かめ、修正していく方法です。

変化する手段

今回、noteを書こうと思った一番の理由はここにあります。


これまでのやり方は“圧”に依存しすぎている

この手段に出会う以前、私は「強烈な危機感」「覚悟」「上司やクライアントのプレッシャー」などすごく強い“圧”がないと人は変われない、と考えていました。

修羅場経験が人を大きく成長させることは疑いようのない事実ですし、実際に多くの人材育成の現場では、見込みある人材にとって強い“圧”のかかる環境をつくることを重要なテーマとしています。私自身の経験としても、一皮むけた時期を振り返ると必ず強烈な“圧”が存在していました。

その一方で、“圧”依存症とも呼べる人材育成の方法にどこか違和感を感じていました。

そんな折、この変化を阻む免疫システムの存在を知り、自らを実験台として固定概念の検証を試みたところ、ゆっくりと、だが着実に望む変化を起こすことができました。

圧

この”圧”に頼らない(頼りすぎない)方法は、私のようなふつうの人にとっても非常に有効な手段であり、かつ、なにより“健康的”であると考えています。


“ちょっとの勇気”で人は変わる3つのステップ

固定概念の検証は、ざっくり次の3つのステップで進めていきます。

[1] 無批判に事実だと思いこんでいる、固定概念をあぶり出す。
[2] 固定概念がもたらす行動を観察する。その限界を知る。
[3] 固定概念の真偽を、小さく検証する。それを繰り返す。

先述の例でいうと、自分の考えで仕事を進めるときの不安の根底には、「成功するためには既に確立された方法をとるべき」や「成功・失敗は、上司や周囲の評価で決まる」といった固定概念が潜んでいます。

表と裏_2

この固定概念の真偽を、大きなリスクを避けながら確かめていきます。この例で言えば、

[検証すること]
「自分の考えた新たな方法で仕事を進めても、上司から評価されない」のは本当か?

[検証方法]
緊急度の低い(やり直しできる)タスクを行う際、自分で考えた新たな方法を上司に提案してみる。

ポイントは「小さな検証を繰り返す」です。

勇気をちょっとずつ出して繰り返していけば、(修羅場に頼りすぎずに)大きく変化することができるという点が最も重要です。


“変わり続ける”をキャリアの強みにする

VUCA (*1参照) と言われる変化の激しい時代の中で、

「このまま今の会社にいていいんだっけ?」
「将来不安だけど、どうすればいいのかわらからない」
「キャリアチェンジしたいけど、通用するか心配」

多くの人がキャリアにモヤモヤを抱えています。

この世で変わらないのは、変わるということだけだ
ジョナサン・スウィフト(ガリバー旅行記の作者)

まずは、この真理を受け入れることが大切です。あなたに変わる意志があろうがなかろうが、変わらざるを得ない現実がいずれ訪れます。

外的環境の変化によって変わらざるを得なくなる状況までモヤモヤし続けるのか?それとも、“ちょっとの勇気”を持って、自分の固定概念をハックして自ら望むように変わるのか?

所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げる
西村 和雄(経済産業研究所), 八木 匡(同志社大学)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/18j026.pdf

なすがままで流されるより、自ら選択していくほうが幸福度が上がる可能性は高いことは多くの研究で示されています。

“圧”に依存せずに、自ら変化し続けるための術として「免疫マップ」を是非活用してください。

*1: VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字から成る言葉で、私たちを取り巻く現在の状況を表すキーワードとして使われています。


最後に

これをテーマにワークショップをやります。

写真_Peatix用

具体的には「免疫マップ」(ジレンマ構造の可視化ツール)を用いて、表と裏の目標、阻害行動、そして固定概念の仮説立てを行います。

■開催概要■
・日時:2/18(火) 19:00~21:00(18:30開場)
・費用:1,000円(事前登録制)
・定員:12名
・会場:dock-Kamiyacho  https://docks.space/
・最寄:南北線六本木一丁目駅 徒歩6分
    日比谷線 神谷町駅 徒歩6分
・主催:株式会社1ttan
・共催:Creww株式会社

■申込方法■
Peatixから申し込み
http://ptix.at/cDxdIF


参考図書

「なぜ人と組織は変われないのか - ハーバード流 自己変革の理論と実践 」
ロバート・キーガン (著), リサ・ラスコウ・レイヒー (著), 池村千秋 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00MRRF3K6
マインドセット「やればできる!」の研究
キャロル・S・ドゥエック (著), 今西 康子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01FTIQY6G/
最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル
ロナルド・A・ハイフェッツ (著), マーティ・リンスキー (著), アレクサンダー・グラショウ (著), 水上雅人 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0753YJBCY/

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