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その映画館は... 2

二名の警官に客席の間を引きづられるよう出口へすすむ。
やっとの思いで声がダイレクトに届く距離に友人がたどり着いた。

「柳田先生に電話!」

柳田先生は弁護士で、幸いにというか偶然というかその日一緒だった友人の紹介で以前お世話になったことがあった。

劇場を出るとかなり旧式のパトカーが待ち構えていて、劇場の古さと妙にマッチしていてなんら違和感がなかった。
即されるままにパトカーに乗り込む、テレビで良くみる両側に警官が座り
間に容疑者が乗せられるあのままになった。
手錠こそかけられていないものの、考えられる最悪のシーンの一つではあるわけで、目の前で自分の身に起きていることがちゃんと理解出来ずにいた。

普段目にしているはずの景色が全く違ったものに見える。
がしかし、この時点ではこんな馬鹿げたことが続くはずがないと高をくくっていたのですぐに誤解が解けることを想像し続けていた。

15分ほどで警察署につき、そのままいわゆる取り調べ室のようなところに案内される。一人にされ、水も茶も出ずそのまま座ってまつこと5分。劇場に来た二名の警官とは違う私服の刑事のような中年男が部屋に入ってきた。

「捜査一課の小暮です」

この台詞もテレビのままだ。しかも初夏だというのにヨレヨレのトレンチコートを着たままで、どこまで時代錯誤なのか。

「一体なんの容疑でここに連れてこられたんですか?これ後々大きな問題になりますよ!」
心細い心情を押さえてありったけの怒りを表した。

「申し訳ありませんねぇ、これも全部段取りがあってこうなっていましてねぇ。行きがかり上ちゃんと事情を聞かないわけには行かないんですよ」
ドラマのなかで意地悪い刑事が見せる薄笑いを含んだ表情で言った。

「映画館の席を、仮に間違えたとしてその事で警察で事情聴取した事例なんて聞いたことがない!」

言い終えるまえに被せて、
「いえ、先日は隣家の飼い犬の悪口を言ったかどで署にご足労ねがった方もいますからねぇ、言うのもなんですがおかしな時代なんですかねぇ」

「ちょっと他人ごとみたいに言わないでください、第一これって法的根拠があるんですか!」

なんだか不気味な未来の話を聞かされてるような気分になる。見回すと実は凄まじく古い建物でそこここにほころびがあったり、今どき寂れた温泉宿でも置いていないような魔法瓶と急須、茶碗のセットが部屋の角の棚にぽつんと置かれている。

「それとうちの弁護士が来たらすぐに会わせてください」

「お越しになるんですかねぇ、それよりあの映画館に行かれたのは今日が始めて?」

なし崩し的に聴取が始まった。

ドンドンドン!
ドアがけたたましく叩かれたかと思ったら次の瞬間、ものすごい勢いでドアが開き大男が現れた。

つづく...



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