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【理解不能】音響に関わる意味不明な表現

色々な現場で色々な方々と音楽関係の仕事をしていると、意味の分からない表現を耳にすることがあります。あるライブPAをしていた時の事でした。演者のマネージャーさんから

「もう少し音を丸くしてもらっていいですか?」

と言われました。初めての表現で、一体この人は何を言っているんだと。プロしかいない現場で、指示や要望がある場合、個人的な表現は使ってはいけません。「音を丸くして欲しい」という要求は、今は音が丸くないということで、では丸い音とは何なのかと考えても意味が分からないので、無視して何も行いませんでした。
レコーディングやミックス、機材に関しても同じことが言えます。代表的な表現はやはり「あったかい音」ですね。もちろん音楽は芸術の一種ですから、オーディエンスとしてそのような感想を持っていただくのは自由です。現代では分かりませんが、エフェクターやマイクプリのキャッチコピーにもよく使われた言葉で、まるで音に温度があり、そのパラメータが高いと良いというような印象を受けます。しかし残念ながら音の正体は空気の振動であり、現代の技術では電圧の変化として記録することを録音と呼びます。大気の温度で音速は変化しますが、どんなマイクでも「温度」とは無関係であり、おおよそ人間が楽器を演奏したり歌ったりできるような環境下で録音されたものでは、温度が影響することはありません。また、形もありません。技術者同士であれば、位相メーターのリサージュの事を指して「これは菱形」などと言ったりしますが、極めて限定的で、一般的な表現では用いることはまずありません。

あったかい音(笑)

このような表現をする方は、「もう少し冷たくして」とか「ギターをもっとあったかくして」という要求にどのような対応をするのでしょうか。仮に冷たいと音質が悪くなるのでしょうか。

前に出す(苦笑)

ミックス中であれば、これは何となく分かりますが、左右のパンはあれど上下や前後はありません。大抵は音量を大きくするか、空間系エフェクトを弱めることを指しますが、個人的な表現を持ち込まれるとエンジニアは大変困ります。

○○Hzを○○デシベル上げて(悶絶)

たまにこのような要求をするミュージシャンがいます。笑っては失礼ですから、平静を装いつつも、「それほどピンポイントに正確に要求が出せるなら自分でやればいいのに」と心の中では爆笑です。仮にこれがEQの設定だとしても、ピーキングなのかシェルビングなのか、Q値はどれくらいなのか、情報量が少なすぎてハッキリしません。特定の周波数帯域の調整が必要なことは分かりますが、音量を上げるだけでもその要求は満たせてしまいます。「5KHzを中心に1オクターブ幅で3dBブーストしてみて」と言われれば、大抵のエンジニアは分かります。

芸術的な表現を真に受けてはいけない

今回の記事でお伝えしたかったことは、このような「芸術的な表現」を真に受けてはいけないということです。きちんと設計された機材やプラグインで、その商品の強みや特長があれば、先ずはそれを強調するでしょう。芸術的な表現をされている時点で「客観的に他より優れている点が無い」と判断されてもおかしくありません。また安易に「名機まがい」のモデリングにも手を出してはいけません。本当に「名機」ならば、当然のように誰もが欲しがるわけですから、改良、量産化されて現在でも生産が続き、容易に入手することができるはずです。例えばSHURE SM58やSM57は、50年以上も生産、販売されており、現在でも新品を入手することができます。そして文字どおり、どこにでもあります。

速さはある

「こっちのケーブルのほうが速い」などという表現は使われます。音質追求者や比較的ハイエンド寄りな環境を構築されている方が使います。何が「速い」のかというと、電圧や周波数の変化に対する応答速度です。当然ながら「速い」ほうが品質が高いことを意味します。ケーブルやプラグの品質について使われることが多く、太い純銀単線に近付くほど速く、細い銅撚り線に近付くほど遅くなります。ノイトリックのプラグは総じて遅く、WBTのプラグは速いです。これはハッキリと耳で確認することができ、特に大出力のウーファーなどの制動力にも影響します。品質の悪いケーブルを大出力で使うと、リズムが遅れて聴こえますが、大気を通して音を聴いている時点で大幅に速度は落ちる上、位相は崩壊しているので、あまり気にする必要はありません。

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