見出し画像

AIを使って、ホップに囲まれた"Japanese Beer, 2014" の広告写真を制作してみた

こんにちは、丸山です。
商品商業写真が、将来AIで生成されるようになるのか考えてみました。

AI画像生成と広告写真

最近は広告の仕事をする機会がないのですが、長年広告写真に携わり、広告写真を題材にした作品を制作してきたこともあり、このテーマに興味があります。

以前、Still Lifeの写真をAIで制作してみました。

AIの可能性は感じていましたが、著作権などの問題から、実際の広告写真に使われることはしばらくないだろうと思っていました。

アドビ、「Adobe Firefly エンタープライズ版」を発表


しかし今月、アドビからAdobe Firefly エンタープライズ版の発表がありました。

特に気になったのはこの部分です。

ユーザーはAdobe Fireflyにアクセスできるようになり、企業は今後自社が所有するブランド資産でAdobe Fireflyをカスタムトレーニングし、自社のエコシステムに組み込むことが可能になります。また、APIを使ってブランド独自のスタイルやブランド言語でコンテンツを生成し、自動化を推進することもできます。Adobe Fireflyは、安全に商業利用できるように設計されており、アドビから知的財産(IP)の補償を受けることができるため、企業は安心して本ソリューションを組織全体に導入することができます。Dentsu、IBM、Mattelなど数百の企業がすでにアドビと協力し、Adobe Fireflyを活用した効率化の促進とコンテンツ サプライチェーンの加速に取り組んでいます。

著作権の問題は完全にクリアになるのでしょうか。
もしそうであれば、今後AIを使った広告制作が大幅に増加することが予想されます。

AdobeのAI画像生成について

なぜアドビだけが著作権問題をクリアできたのか?
これはちょっとトリッキーですね。

Adobe Fireflyの初代のモデルは、Adobe Stockの画像、オープンライセンスコンテンツやその他著作権が失効したパブリックドメインコンテンツでトレーニングしています。

https://www.adobe.com/jp/about-adobe/newsroom.html

アドビでストックフォトを販売している方は、この発言に驚かれたのではないでしょうか。
自分の画像をAIの訓練に使うことを許可したのでしょうか?

Q: Adobe Firefly のトレーニングに Adobe Stock コンテンツは使用されていますか?
A: はい。Stock コントリビューターの使用許諾契約に従い、Adobe Stock コンテンツは Firefly のトレーニングデータセットの一部です。

Q: データセットのトレーニングをオプトアウトできますか?
A: いいえ。Stock に提出したコンテンツのデータセットトレーニングをオプトアウトすることはできません。 ただし、アドビではオプトアウトを可能にすることを引き続き検討しております。

Q: Adobe Firefly で出力生成するトレーニングにコンテンツが使用された場合、そのコントリビューターは報酬を得られますか?
A: Stock コントリビューター向けの報酬モデルを作成しています。Firefly のベータ版のサービスが終了する時点で、このモデルの詳細をお知らせします。

https://helpx.adobe.com/jp/stock/contributor/help/firefly-faq-for-adobe-stock-contributors.html

コントリビューターの使用許諾契約をみてみました。
この部分がAIトレーニングの許可を与えているということですかね。誰か分かる人がいたら教えてください。
確かに、新機能・新サービスの開発に使用できると記述されているようです。

1. Licenses for Adobe. You grant us a non-exclusive, worldwide, perpetual, fully-paid, and royalty-free license to use, reproduce, publicly display, publicly perform, distribute, index, translate, and modify the Work for the purposes of operating the Website; presenting, distributing, marketing, promoting, and licensing the Work to users; developing new features and services; archiving the Work; and protecting the Work. We may use the Work for the purposes of marketing and promoting your Work, the Website, our business, and our other products and services, in which case you grant us a non-exclusive, worldwide, fully-paid, and royalty-free license to use, reproduce, publicly display, distribute, modify, publicly perform, and translate the Work as needed, and we may compensate you at our discretion as described in section 5 (Payment) below. You also grant us the right, but not the obligation, to use your display name, trademarks, and trade names in connection with our marketing and promotional activities and our license to the Work under the Terms.

https://wwwimages2.adobe.com/content/dam/cc/en/legal/servicetou/Adobe_Stock_Contributor_Agreement_Addl_Terms_en_US_20220415.pdf

この種の契約書は、読んで全てを理解することが難しいため、AIのトレーニングの許可を与えていることに気付いているクリエーターはほとんどいないのではないでしょうか。
もしも気付いていたとしても、この契約書にサインしなければ、ストックフォトの大手エージェンシーであるAdobe Stockで写真を販売できないため、これをビジネスにしているクリエイターは、サインするしかないのです。

Firefly のベータ版のサービスが終了する時点で、コントリビューター向けの報酬モデルが提示されるようです。
どのように計算されるのでしょうか?
十分な報酬を支払うことは難しいと思いますが、あまりに低いとクリエイターの反感を買う可能性があります。ストックの売り上げが激減すると考えられるAI画像生成サービスのために、多大な労力を使い撮影し、AIに必要なメタデータも制作したことになってしまいますからね。

AIを使って商品写真を制作してみる

まだあまり検証できていませんが、現時点ではクオリティの高いAI画像をアドビのサービスで制作することは難しいかもしれません。

使い慣れているMidjourneyで、商品写真のAI化の可能性を調べてみました。

Midjourneyは有料会員だと制作した画像は商業利用できるとありますが、最終責任はクリエーターにあり、完全に合法なのかは私にはよく分かりません。
Midjourneyがテキストプロンプトから幅広い画像を生成できるのは、ウェブ上の何十億もの画像を、それらを制作したアーティストの許可を得ずに学習させたからだと思います。ストックエージェント大手のGetty Imagesは、著作権に問題があると考えて、AIが生成したコンテンツの販売を禁止しており、他の多くの企業も、AIが生成した画像を使用すると訴えられる可能性があると懸念しています。

Rights You give to Midjourney

By using the Services, You grant to Midjourney, its successors, and assigns a perpetual, worldwide, non-exclusive, sublicensable no-charge, royalty-free, irrevocable copyright license to reproduce, prepare Derivative Works of, publicly display, publicly perform, sublicense, and distribute text, and image prompts You input into the Services, or Assets produced by the service at Your direction. This license survives termination of this Agreement by any party, for any reason.

https://docs.midjourney.com/docs/terms-of-service

缶ビール

ビールをテーマにアート作品も制作しているので、今回は缶ビールの商品写真をAIで制作してみます。
今回は、できるだけ創造性を必要としない方法を試しています。

広告写真に関するプロンプト

まずはChatGPTにビールの缶の広告写真に関するプロンプトを提案してもらいます。具体的なイメージの指示はしていません。

商品の広告写真に関係する言葉を英語で40提案してください。 例えば、Product photography, Product photography, product photo それぞれの言葉を {}の中にカンマをいれて、順番に記述してください。 最初に/imagine prompt: beer can, を入れてください。 記入例。 /imagine prompt: beer can, {Product photography, Product photography, product photo, still life photography}

Permutation Promptsを使用すると、1つの/imagineコマンドでプロンプトのバリエーションを素早く生成できます。
最近追加された機能だと思うのですが、たくさんのバリエーションを試したいときはこれが便利。
カンマで区切られたオプションのリスト中括弧{}で囲んでプロンプトに含めることで、これらのオプションの組み合わせが異なる複数のバージョンのプロンプトを作成できます。

例えばこれを入力すると
/imagine {A, B, C}
この3つが生成されます。
/imagine A
/imagine B
/imagine C
一回で40のバリエーションが試せます。

/imagine prompt: これを入れてプロンプトを書いてもらうと、Discordでいちいち/imagineと入力する必要がありません。なにげに便利です。

これらのプロンプトをそのままMidjourneyで実行してみました。その中のいくつか。

beer_can_Diffused_lighting
beer_can_Environmental_product_shot
beer_can_Food_and_beverage_photography
beer_can_Outdoor_product_photography
beer_can_Photo_editing
beer_can_Window_light

背景バリエーションのプロンプト

beer_can_against_a_neon_light_wall
beer_can_at_a_backyard_BBQ_party
beer_can_floating_in_space
beer_can_floating_on_a_cloud
beer_can_in_a_50s_diner_setup
beer_can_in_a_busy_kitchen
beer_can_in_a_surfing_beach_scenario
beer_can_on_a_sunset_background
beer_can_on_a_rooftop_under_the_stars
beer_can_surrounded_by_party_decorations

ビールのスプラッシュの広告写真のプロンプト

beer_can_splash_Beer_can_creating_a_splash_upon_landing_on
beer_can_splash_Beer_can_splashing_in_a_busy_street_of_a_ci
beer_can_splash_Beer_can_splashing_in_a_tropical_rain_fores
beer_can_splash_Can_opening_mid-air_with_beer_splashing_out


ビールの広告写真

beer_can_Surrounded_by_cascading_hops_and_barley_in_a_lush

beer_can_Captured_in_a_rain_shower
beer_can_Illuminated_by_a_bonfire_during_a_camping_trip
beer_can_Surrounded_by_ingredients_for_a_beer-infused_recip

ChatGPTプラグイン"Photorealistic"を試す

Photorealisticを利用して、フォトリアリスティックなMidjourneyプロンプトを作成する。
簡単な指示を出すと、リアルな写真風の画像を生成するプロンプトを提案してくれます。

Midjourneyは簡単な単語を並べるよりも具体的に文章で指示をした方が画像のクオリティは良くなるようです。

Midjourneyの4つのイメージを分割する

今のMidjourneyはアップスケールしても解像度が同じようなので、生成された4つのイメージをそのままダウンロードして、それをフォトショップのスライスツールを使って、バッチで4分割してそれぞれ一枚のイメージにしています。

4つのイメージが一緒になったデータをダウンロードしてフォトショプで分割
それぞれ一枚になったデータ

MidjourneyのDescribeコマンドを使って画像を言語化する

ChatGPTのプロンプトで生成されたこのイメージからMidjourneyでプロンプトを作ってみる。

4つのプロンプトが出たのでとりあえずこの4つを生成する。

この青字のmike campau, janek sedlar,はクリエーターの名前ですね。Midjourneyはこれらクリエーターの写真もトレーニングに使っていると思われます。これって合法なんでしょうか、、、
どれほどの意味があるかはわかりませんが、商業利用する最終のプロンプトには個人のクリエーターの名前を含めない方がいいでしょう。

a can of juice with its splashing water on yellow background, in the style of detailed hyperrealism, graceful balance, minimal retouching, softbox lighting, orange and gray, kimoicore, clever juxtapositions
juice can floating in a splash of water on an orange background, in the style of detailed hyperrealism, light gray and yellow, mike campau, dansaekhwa, bold yet graceful, dynamic action sequences, concore
can of orange juice being splashed with splash, drink advertisement sk, in the style of hyperrealism, muted, minimalist compositions, voxel art, bold colors, marks, dynamic pose, dullcore, yellow
orange juice can snatching water on yellow background, in the style of hyper-realistic details, dynamic pose, janek sedlar, contest winner, industrial materials, decisive moment, kombuchapunk

ChatGPTプラグイン"SceneXplain"を試す

このプラグインもイメージからプロンプトを制作してくれます。
同じイメージを使って生成してみました。

クリエイティブな具体的な指示を与えなくても、いろいろな画像が生成されることが分かります。ありきたりなイメージが多いですが、ときどき思いもよらない画像が生成されるので、楽しめます。
AI画像生成はまだ完全に仕上がりをコントロールできないので、創りだすと言うよりは、出力されたイメージを選択していくという感じに近いです。
Midjourneyを利用して多くの人が人物のAI画像を生成していますが、商品は人物よりも写真のクオリティがまだ低い気がします。


特定の商品写真(Beer Can)を組み合わせる

特定の商品をAI画像の中に組み入れたいと思います。
今回扱うのは私の"Japanese Beer"プロジェクトの中のこの商品。

Japanese Beer, 2014

ホップが売りの商品みたいなので、ホップの含まれるAI画像を生成してみます。

Redo (re-roll)で、プロンプトを調整する 

使えそうなイメージを選んでプロンプトを修正して再度生成する。

”ホップ”をプロンプトに加えてみます。

beer can, hops, Showcasing its commitment to sustainability and eco-friendly practices

次にもう少し絵に雰囲気が欲しかったので、cinamatic film still を加えて、画面の比率を4:3に変更してみました。
この赤い枠のイメージを元に画像を完成させようと思います。

cinematic film still of a beer can, hops, Showcasing its commitment to sustainability and eco-friendly practices --ar 4:3 --style raw --v 5.1

缶にホップのイラストがあったので、立体的なホップも加えるために、”style of 3D”をプロンプトに加えてみます。

beer can, green hops on a green background, in the style of 3D, captures the essence of nature, sgrafitto, rebellious crafts, bloomcore --v 5.1 --style raw

それぞれをダウンロードして、Tapaz Gigapixelで解像度をリサイズします。

1024x1024を、4096x4096にリサイズ

Photoshopで合成

余白を作る
Photoshop (Bata)で余白を埋めて商品も消す
商品を変形させて画面に入れる
缶にホップを足す 完成

まとめ

権利について
Adobe Firefly エンタープライズ版が合法だと認識されたら、企業が広告にAI画像生成を使うようになると思います。
しかし、このサービスの料金や、コントリビューターへの保証がまだ未確定なので、はっきりしたことは分かりません。
Midjourneyのようなサービスが著作権的に本当に合法なのか私には分かりません。商業利用するには注意が必要だと思います。

クオリティについて
Midjourneyは、すでに実用レベルになっているのではないでしょうか。この1年間のMidjourneyの進化を考えると、数年後にどうなっているのか考えるだけでも、恐ろしい(楽しみ)です。
ストック素材やオープンライセンスコンテンツだけでトレーニングされた完全合法なAI画像生成サービスのクオリティがどこまで上がるかは分かりませんが、それも時間の問題でしょう。

予算のあるクライアントはこれまで通り実際に撮影をすると思いますが、”Heinz A.I. Ketchup”や"Coca-Cola® Masterpiece"キャンペーンのように積極的にAIを使う事例も増えるでしょう。
ストックフォトで対応してきたタイプの広告写真はプロダクト自体の写真以外はほとんどAIに変わるかもしれません。

広告の企画段階では、すでにAIが活用されていると思います。

現状では、地ビールを作っているような小さなメーカーが自社の商品とAI画像を組み合わて、SNSで毎日広告写真を投稿するなんていう使い方が面白いんじゃないかと思います。
本来なら数千ドルの制作費がかかるような広告写真を毎日投稿できるなんて、すごい時代ですね。ちょっと勉強すれば、ビールの製造スタッフでも制作できるかもしれません。

告知

現在東京のギャラリーで、広告写真をテーマにした"Japanese Beer" という作品も展示しています。是非お越しください。

Shinichi Maruyama "Photographs 2006-2021"
May 11 - July 30, 2023
Gallery Blitz


12月には長野の高遠美術館で"Japanese Beer"の全80点を展示します。

現在も、広告写真のプロジェクトに取り組んでいます。
広告写真とAIやアートの組み合わせのような新規性のあるプロジェクトに興味のある企業の方、お声がけください。
新しい作品を制作して美術館で展示できたら面白いと思いませんか。


他の作品のビハインドシーンも少し投稿しています。
こちらもフォローよろしくお願いします。
■Twitter
https://twitter.com/ShinichiMrym
■Instagram
https://www.instagram.com/shinichimaruyamastudio/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?