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男と女のカフェ事情

「裕美は、いつもデザートを注文してから食べ終わるのが遅いけど、お腹が一杯だから?」

野暮な質問だと知りながら、貴之は思わず聞いてしまった。

「だって美味しいから堪能しているの。甘いものは別腹なのよ。このチーズケーキ、限定なんだからね。」

貴之は裕美と交際してまもなく8ヵ月を迎える。彼女の容姿に性格、そして価値観までも今まで付き合ってきた女性とは比べものにならないほど合う。

デザートタイムを除けばの話だ。

これは貴之が今まで付き合ってきた女性に限らず、同級生の女性と久しぶりに帰省してカフェで話をするときや、口説いた女性と一緒にご飯を食べるときもそうだった。

なぜ、女性はデザートタイムを優雅に過ごそうとするのか理解に苦しんでいた。

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裕美と付き合い始めて半年が過ぎたころ、一緒にテレビを見ていて、

「ねぇ、沖縄行かない?なんかきれいな海見たい!」

と裕美が思いついたように言ってきたとき、自分も同じことを考えていたことが凄く嬉しく、翌日にはネットで航空券とホテル、レンタカーを予約して2週間後には沖縄に飛びだった。

きれいな海と沖縄独特の匂いと音楽。最高の時間を2人で満喫していた。

レンタカーで色んなビーチを回っている最中、裕美が突然スマホを見ながら言ってきた。

「ねぇ、この辺に古民家カフェがあって絶品タルトがあるんだって。ちょっと寄っていかない?」

少し休憩したかったので、立ち寄ってみたがタルトが想像以上に美味しく貴之はペロリと食べてしまった。

しかし、裕美はまるでカタツムリのように、のんびり、しっかりと味わいながらタルトを口の中に運んでいた。

その動作の繰り返しと同時進行で裕美はこんなことを話しかけてきた。

「旅行って本当に嫌なことを忘れられるよね。それにこんなロケーションでタルトを食べれるなんて幸せ。そう思わない?」

口は動くがタルトが口に誘導されていかない様子を見ながら貴之は答えた。

「まぁ都心ではこのロケーションは絶対に無いよね。せっかくだし今日一日でもっと色々と回りたいよね。」

裕美はタルトを細かく切り分けるフォークの手を止めて、何やらスマホを取り出して検索しだした。

「ねぇねぇ、ここから1時間ほど行ったところに紅イモシフォンがあるんだって。タルトは良く聞くけど、シフォンって珍しいし行ってみたくない?」

裕美から飛び出した言葉と笑顔に貴之は驚きを隠せなかった。

今、目の前にタルトが4分の1も残っているのに、なぜ次のターゲットを満面の笑顔で指名して決定事項にしようとしているのか分からなかった。

でも、裕美の笑顔を見ればそこに悪気は無く、むしろデザートと一緒に幸せのお裾分けをしているかのようにも感じる。

そういえば少し前、裕美は俺の家に泊まり、エッチをした後にこんな話をしていた。

男の人ってエッチが好きっていう割には、自分が出すことがメインでその前後の雰囲気や余韻ってどうでも良いっていう人、多いよね。
でも女性って割かし逆の発想で、メインまでのシチュエーションや言葉、一つ一つの動作が前菜で、メインを食べ終えたあとの会話がデザートみたいなものなの。
だからエッチが終わったあとにすぐに寝ちゃう男って、メインディッシュを食べたらデザートを待たずにレストランを出ていく人みたいな感じなのよね。
メイン料理だけ出されても確かに美味しいよ。でも、それってランチタイムみたいな時間の無い時なら仕方ないと思うけど淡白な感じがしちゃうんだよね。
時間があるならメインの前後を彩って楽しみたいっていう…そうだなぁ、一話完結の短編ストーリーみたいな。
いきなりクライマックスだけ観ても面白くないでしょ?あんな感じかな。
貴之は頭の回転が早いから言わなくてもこの話の意味が分かってくれると思うけどね。ちなみに今日の貴之はフルコースで美味しかったよ。
あ、嫌味な女と思った?

そう言いながら笑って一緒に寝たあの日の記憶が蘇ってきた。

裕美は最後のタルトを口の中に入れるところだ。

その笑顔は先に食べ終わった自分の口にタルトの余韻を思い出させるには十分の表情だった。

メインの後のデザートか…。

「え、なんか言った?」

頭の中を見透かされたように裕美が話しかけてきた。もうタルトはお皿に無く、裕美の心の中で消化され始めたのだろう。

「なんでもないよ。さて、ゆっくり紅イモシフォンがあるカフェまでドライブしますか。」

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貴之は裕美がスイーツを食べ終わるのを待ちながら沖縄旅行に行った出来事を思い出し、ふと笑ってしまった。

「ねぇ、何一人で笑ってるの?」

裕美は相変わらず幸せそうな笑顔で最後のチーズケーキを口の中に入れるところだった。

「男って反省しないなって思って。いや、反省しても同じことを繰り返す生き物なのかなってね。そりゃ女性も飽きれるよな。」

裕美は何のことを言っているのか一瞬理解できず、頭をかしげたがチーズケーキの余韻が喉まできたのだろう。

幸せそうな笑顔で手を合わせ、声に出さないありがとうを口にしカフェを後にした。

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