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「ワクワクイベント」について思うこと

 ワクチン接種者のみにイベント割引を適用する「ワクワクイベント」事業を政府が計画している[1]。

 総合的にみれば「ワクワクイベント」は、新型コロナウイルスの感染を抑えるよりは拡大させる方向に働くだろう[2]。感染防止効果の乏しいワクチン、それどころか無症状感染の割合を増やして感染拡大を増長する可能性すらあるワクチンを使って人流を活性化させるのだから[3]、これは当然の帰結ともいえるが、そのこと自体は政府も認識しているようで「感染状況を踏まえたうえでの実施」を予定しているという[4]。

 しかしそうすると、ワクチン接種者は感染抑制に資するわけでもないのに、なぜイベント割引のような優遇を受けられるのかという問題が出てくる。おそらくその理由付けとしては、ワクチンは感染拡大自体は抑制しないものの、重傷化を予防する効果はあるからだ、ということになるのだろう。つまり、感染しても重症化しない人、従って病院のリソースを食わない人が「ワクワクイベント」において優遇されるということだ。

 だが、感染症への抵抗力におうじて人を選別する思想には差別につながりかねない危うさがある。ワクチン接種以外にも感染リスク、重傷化リスクに関与するファクターが無数にあるのに、なぜワクチン接種者だけが優遇されるのかが問題になるだろう。年齢、基礎疾患、体重によって重症化リスクが数倍、数十倍と変動することが分かっているのだから、もし「ワクチンを接種した人割」がありうるのならば、「老いていない割」「基礎疾患がない割」「太っていない人割」もありうるだろうか。あるいはメガネの着用[5]や普通の風邪を引くことで活性化される自然免疫[6]も新型コロナウイルスへの感染予防効果、重症化予防効果を持つとデータが出てきているので「メガネを掛けている割」「最近風邪をひいた割」みたいなものも考えられるだろうか[7]。感染症への抵抗力があるからという理由で「ワクワクイベント」を実施するのであれば、こうした割引も実施しなければ差別にあたる可能性がある。

 もちろん僕は、こうしたあらゆる割引に賛成はしない。少なくとも国家がそれを主導することには。ワクチン接種者のみを優遇するのはあまりに解像度が低く、ほとんど差別に近い行為に感じられるが、だからといって抵抗力におうじて人を精密に分類しはじめれば、そのほうがよほど大きな差別につながると感じるからだ。科学的に正しい分類が差別を正当化することを懸念しなければならない[8]。

 

 理屈をこねたが、僕の「ワクワクイベント」に対する反発は、今述べたような理由以上に、このネーミングセンスに向けられたものであるのかもしれないなと思う。この言葉の軽さは、最近の医療コミュニティ内でのワクチンをめぐる言葉づかいの慎重さとは対照的だ。副反応に関する知見が積みかさなってきたためか、あるいは治療法の確立とワクチンの重症化予防効果とによって余裕ができたためか、これまでワクチンを推奨してきた医療コミュニティも–––その有効性は強調しつつ–––これまで等閑視されがちであったワクチンの弊害を強調しはじめている。

 僕はワクチンのデメリットについての情報は、できる限り「ワクチンを推奨するサイド」から得るようにしているが、新しい株に対するワクチンの効果が低下していること、接種後その効果すらも急速に薄れてゆくことはもはや共通見解となっている。だったら効果の薄まる前にブースター接種をすればいいという考えもあるが、例えばこびナビ[9]副代表を務める峰宗太郎さんは、無闇やたらなブースター接種によってアレルギーや自己免疫疾患が引きおこされる可能性を指摘しており[10]、ことはそう単純でないことが分かる。そのような自己免疫疾患の具体例として、例えば心筋炎の発症を挙げられている。

 この度のワクチンに心筋炎リスクがあること自体はすでに知られていたが、屋代香絵さん[11]の紹介するプレプリントによると、若年男性がモデルナを二回接種した場合の心筋炎リスクは、新型コロナウイルスに感染した場合の十数倍に及ぶ可能性があると示唆されている[12]。いままでワクチンによる心筋炎リスクが小さく見えていたのは年齢や性別やワクチンの種類をごちゃまぜに解析していたから薄まっていただけで、モデルナを二回接種した若年男性の心筋炎リスクは極めて高かったとする報告だ。まだ査読の終えていないプレプリントなので割り引いてみなければならないが、「感染するよりはワクチンの副反応のほうがまし」という定説もこれからくつがえされるかもしれない。実際、ワクチン自体は推奨するが、若年男性はモデルナを避けるようにという言説が増えてきているところだ。

 また、ワクチン接種後に帯状疱疹を発症する人が増えていることも、ようやく世間に知れわたりつつある。既に帯状疱疹のリスクはデータ化されていたが、それを「副反応」だと思っていない接種者は帯状疱疹に罹ってもそのことを報告しないため、「データ漏れ」が発生していた可能性がある。これから人々が帯状疱疹を「副反応」として認識するようになれば、報告漏れがなくなり、そのリスクが上方修正されていくかもしれない。かくいう僕の母親も、ワクチン接種後に帯状疱疹に罹った(関係は不明だが腸内出血も起こした)が、それを「副反応」だと思っていなかったので医療機関には報告していないという。田舎ではワクチンの副反応を主張すれば「反ワクチン勢力」として村八分になる可能性もあり、報告ができなかったという面もあるだろう。ワクチンの副反応や後遺症に悩む人を医療に繋げるためにも、それを訴える人を「反ワクチン」扱いするような同調圧力には抗っていかなければならない。

 私たちはワクチンを「推奨」していただけで「礼賛」しているのではないと、医療コミュニティがワクチンの弊害を語りはじめたその横を逆走するかのような「ワクワクイベント」である。それはワクチンの効果への過信を誘発しはしないか、ワクチンのリスクへの不注意をまねきはしないか。コロナは人々の健康と生活の双方に関わる問題なので、なにも医療コミュニティの言葉ばかりに耳を傾けろという気はないが、「ワクワク」という雰囲気だけで物事を押しすすめんとするネーミングには一言申しておきたい。


[1] その後「イベントワクワク割」に改称のうえ実施に動き始めている。
イベントワクワク割 わくわり https://wakuwari.go.jp/

[2] ただしこうした政策よりも、新しいウイルス株の出現といった自然要因のほうが感染の拡大、縮小にあたえる影響は強いため、「ワクワクイベント」を実施したからといって感染が拡大ないし縮小するとは限らない。

[3] オミクロン株に対するワクチンの感染予防効果が低下しており、しかも接種後急激に減衰していくことはデータにも現れているが、そうした机上の分析以上に大切なことは、ワクチン接種率の高い国においても軒並み感染が拡大しているという現実のほうである。

例えば高いワクチン接種率をほこる韓国(2回接種率86%超・3回接種率63%超/2022年3月時点)においても、オミクロン株は急速に感染を拡大し、ピーク時には40万人/日を超える陽性者が発生している。これは日本の人口に換算すれば1日100万人に相当する発生数だ(ちなみに日本の陽性者発生数のピークは1日10万人程度である)。

ワクチンに個人の感染を予防する効果があることと、社会的な感染拡大を予防する効果があることとは、厳密に区別されなければならない。

個人の感染を予防するワクチンがかえって社会の感染を拡大することもありうる。例えば、高くもない感染予防効果を過信して感染症対策をゆるめたり活動を活発化させれば感染は拡大する。そのあたりの事情を考慮して、ワクチンを推奨している医療コミュニティにおいても、感染予防効果には期待すべきでないという意見が主流となっている。

それどころか、ワクチンそのものが社会の感染を加速している可能性も、そろそろ真面目に検討しなくてはならないだろう。この度のワクチンには発症予防効果があり、感染者の負担を低減するという意味では望ましいこの効果は、しかしウイルス感染時の「無症状感染」の割合を高めることを意味している。昨今の状況で「症状が有る」にも関わらず他者への感染リスクのある行為をとる人はかなり少なくなっているだろう。「無症状感染」が感染の主要な経路になっていると見てもよい。その「無症状感染」を、この度のワクチンは人為的に作りだす。「インフルエンザにかかった人が解熱剤を飲んで出社して社内に感染を広めている」ような状況が生じている可能性がある。

ワクチンを受ければ自身への感染を多少は防げるが、いざ感染したときに他者に感染させてしまうリスクを高めてしまう、そうした可能性を念頭におかなければならない。この度のワクチンは感染予防という面からみれば、非常に「利己的なワクチン」であるかもしれないのだ。

ただ、僕としては、そうしたことが本当に起こっていたとしても、だからといって「ワクチン接種者が行動を慎むべき」だとは考えていない。「感染に対して罪を問う」という発想こそが、僕にとっては感染症そのものより恐ろしく思えるからだ。人が背負える責任の重みには限度がある。人と共に、動植物と共に、微生物と共に生きている人間に感染への責任を負わせてしまえば、人と人の、人と動植物の、人と微生物の連帯の網が断ち切られてしまう。

ワクチンは、自分の命を守るための「利己的」なものであってよい。「利他」の精神が絡むにしても、それは「社会」のための「おもいやり」といった抽象的な言葉によって押しつけられるべきものではなく、あくまでも、隣人との具体的な関わりの内におのずと引き出されるものであるべきだろう。

[4] 題して「イベントワクワク割」5月開始を検討 若年層の3回目接種促進の狙いも https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000250729.html

[5] Glasses and risk of COVID-19 transmission - analysis of the Virus Watch Community Cohort study
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.03.29.22272997v1
※査読前の論文(プレプリント)であることを割り引く必要がある。

[6] 風邪コロナへの免疫が、新型コロナへの感染を防ぐ
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220126/med/00m/070/002000d
風邪の免疫が新型コロナの重症化を防ぐ、という仮説(忽那賢志)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210307-00226170

[7] 年齢や基礎疾患の有無は変えられないが、ワクチンを打つことは「簡単だ」と考えることもできるかもしれない。しかし、ワクチンを打つか打たないか、広くいえば自分の体の管理を他者に委ねるか自身で管理したいと望むかは、人生いかに生きるかという価値観にかかわる問題であるので、誰でもが「簡単に」ワクチンを打てると考えるのも間違いだ。例えばジョコビッチのように総合的な観点から自分の体を自主管理してきた人からすると、その生活にワクチンを割り込ませることは自発的にそう決断したのでないかぎり、そう「簡単」ではないだろう。

[8] 非接種者の行動を禁止する「ワクチンパスポート」ではなく接種者の行動を活発化する「ワクワクイベント」を推し進めるのは、そのほうが経済を活性化できるという面もあろうが、非接種者の人権にも一定の配慮をみせているのかもしれない。

[9] こびナビ https://covnavi.jp/

[10] 頻繁なブースター接種で免疫低下? 免疫学の専門家に聞きました。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-booster-shots-mine?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

[11] twitterでは「画像診断医k」として知られる。

[12] Risk of myocarditis following sequential COVID-19 vaccinations by age and sex
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.12.23.21268276v1

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