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【感想】人生で初めて「やりたくない」舞台を観た話 #メッセンジャーフロム

はじめに

去る2月4日、岡山県岡山市は天神山文化プラザにて、土曜劇場 天神幕劇プロデュース 劇団⭐︎はだざわり 天王山公演 片山順貴 作・演出「メッセンジャーフロム」千秋楽を観てきました。

このnoteはその感想をダラダラと書き連ねる、というかこの舞台を観て生まれたクソデカ感情を流れるがまま吐き連ねるだけです。
ここに書いてあることは全て、
「あくまで僕個人の感想」であり、推測です。
関係者の皆様におかれましてはもし事実や意図と違っていても叩かないでください。
どうか、どうかよろしくお願いします。
はいチラシドン。

見ての通りもう終演しています
ここに書かれているセリフを上演中探すのも楽しかったなぁ

この作品はまさしく「人間賛歌」
人間、特に現代人が抱えているコンプレックス、悩み、生きづらさ、苦しみ、上手く言語化できないしんどさ、そういったマイナス?な側面に真正面から向き合って「それでも人間って美しい、愛おしい」と思わせてくれる、そんな90分でした。マジであっという間だった。それも驚き。
(というか讃歌?賛歌?どっちが正解なの?アンケートには賛歌って書いちゃったけど案外間違いでもない??)
一旦休憩代わりのあらすじドン。

〜あらすじ〜
お笑いコンビ「フミキリ」の日下部は、高校時代の親友であるアカリの結婚式で話す面白いスピーチを考えるために、同じく高校の同級生で相方である月島、同期の芸人「ケンタウロス」の主水、白井を呼び出す。
芸人として周りから求められている面白さと、心からお祝いしたい自分の気持ちとの間で揺れる日下部。
しかし、絡み合う恋模様や解散騒動、ストーカー疑惑など様々な事件が巻き起こり事態はあらぬ方向へ。果たして日下部はスピーチを無事完成させることが出来るのか。
誰もが会ったことがあるような人間くさい登場人物達が繰り広げる、ある意味「人間賛歌」のワンシーンコメディ。

引用:岡山県天神山文化プラザホームページ

脚本と演出がすごい

なんてったって脚本、演出がすごい。
そもそも舞台って、もちろん面白い方がいいけど上辺だけの笑いでごまかすと薄っぺらくなりがちじゃないですか。
で、そうならないためにも物語の中に一本芯を通しときたい。そうすると核となるテーマが必要になってくる。
それを小出しにしたり匂わせたり暗に示したりしながら物語に深みを出していく。

たいてい、この「物語の核になるテーマ」って重たいことが多いと思うんですよ。
で、そういうのって見たり聞いたりしたとき反射的に「嫌だな」と思うことが多い。
この「嫌だ」っていうのにはいろいろ含まれていて、たとえば触れられたくない、向き合いたくないとか、単純に言われたくないことだったり。芯食ったこととか耳が痛くなるようなことって言われたくないもんです、人間って。

さらにさらに、人間ってマイナスなイメージのほうが印象に残りやすい傾向にあるじゃないですか。
たとえば自分の長所と短所を挙げてくださいって言われたら、長所よりも短所のほうがたくさん思いつく人が多いと思います。国民性とかその人自身のパーソナリティももちろんあるとは思いますが、大きく傾向として言えばきっとそうだし、ほかの人と接しているときでもいいことより悪いことの方がイメージや印象として残りやすいですよね。

話戻すんですけど。
何が言いたいかって舞台も一緒なんです。少なくとも僕にとっては。
笑ったシーン、面白かったセリフや掛け合いよりも、シリアスなシーン、重たいセリフ、気まずい時間が流れる舞台空間、そういったイメージのほうが尾を引いて後味として残りやすいんです。
今回の「メッセンジャーフロム」も話全体を通して一貫しているテーマがあって、やっぱりそれは重たくならざるを得ない。(たった一回見ただけなのですべてを理解したなんて言うつもりは毛頭ありませんが…何十回でも見たい。)
でも今作は1,000%マン振りのコメディー作品。
そもそも登場人物のほとんどが芸人ということもあり、軽妙な掛け合いとテンポのいいやり取りでドッカンドッカンウケてました。実際死ぬほど面白かった。

で、何よりそのバランスが絶妙なんですよ。
シリアスの後に笑いを入れるとどっちがやりたいか分からなくなっちゃうことが多い気がして、笑いのほうに意識を持っていかれるか、笑いがシリアスに負けて「??」ってなることがあるんです。マジで演劇難しすぎ。
でもその塩梅が本当に神がかってて。テーマはしっかりと心に残しつつ尾を引く嫌な味だけを消し去ってくれたんです。マジですごい。
だから笑いでごまかされた感じもなく、だからと言って嫌な気持ちを引きずって次の場面に進むこともなかった。いや、マジですごい。(2回目)
登場人物のキャラも立ってて「こいつ誰だっけ」とか「この話なんだったっけ」とかも全くなく、本当に観やすかった。え?マジで本当にすごすぎる。(3回目)

あとワンシーンコメディって良くも悪くも場所が限定されてるからその中でしか出来事を起こせないじゃないですか。
でも場の外側も上手に使いながらワンシーンを描ききっているのもめちゃくちゃすごい。ほんとにすごい。マジでどうなってんの?

僕の中の順貴評(あくまで個人の)

観てから考えたのは多分順貴くんは天才じゃないんだなって。
いやもちろん天才的に面白いしすごいんだけど、きっととんでもない努力の人なんだろうなって。
僕は彼のすべてを知っているわけではないのであまり適当なこと言えませんが、多分すごく苦しみぬいて、身を削って魂削って生み出した作品なんじゃないかなって思いました。
いや、実際は楽々だったかもしれないけど。本当のところはわかんないし、そこを聞くのは野暮な気がするのであえてそこまでは聞きません。
…いや、今度飲みの席でこっそり聞くことにします。
彼がどう思っているかはわからないけど、そんな努力の人を「天才」って言葉で片付けたくないなあって個人的には思ってしまいます。あと月島だったら頭ごなしに「天才」って言われるの嫌いそう。何もわかってないくせにそんな言葉で片付けんなよ!ってまくしたてられそう。

キャストもすごすぎた

あとキャストの皆さんが最高すぎましたね。
あらすじの通りですがみんな人間臭くてどこかに懐かしさを感じるというか、身近に感じることができる登場人物たちでした。
ほんとにもう、愛おしい。それに尽きる。
もうこっからは月並みな言葉と貧相な語彙力でキャストをほめる時間です。
ほめる中で偉そうなこと言ったりするかもしれませんがそれはもう、許して。そこは一旦棚に上げさせて。
届け、この思い。

・日下部
テンポのずれ方が完璧。最高の間で入ってきてくれる。ずーーーーーーっと面白かった。本当に愛おしい。ふとした時に見せる何か言いたげな表情も、でもその発散の仕方が分からない、みたいな感じも本当に愛おしい。愛おしい。それしか出てこない。

・月島
片山順貴の熱量をもって初めて完成する役だと思う。世界を斜めに見ちゃう生きづらさ、刺さる人には刺さり散らかすだろうなあと思った。目標や目的をもってこの世界に入ってきたのにいつの間にかその目的が違うことに置き換わってて、でもそれに気づいてなかったり、気づいても気づかないふりをして隠して強がっちゃうところとか本当にもう!!!って感じ。芯食ったこと言われると全然目合わせなくなるところとかも愛おしい。

・主水
売れてない芸人特有の尖り方とイタさみたいなのが見ていてすごく面白かった。実際に知っているわけじゃないのに「あるよな~」と思えるのは演じ方のうまさとか役へのはまり方だろうなと思う。売れてほしい。個人的にはコンプレックスを煮詰めたみたいな主水君の相方が自分にないものだけをすべて持っている白井君であることの美しさみたいなのがとても好き。

・白井
やってること自体はクズなんだけど本当に心底いいやつだから周りに恵まれるんだろうなあと思う。でも良くも悪くも表層でしか人と付き合わない感じ。誰から見てもいい人なんだけどこの人もまだまだ見せてない表情ありそう。普通にイケメン。かっこいい。こういう人が一番無敵で人生楽しめるよなあと思う。あの飄々とした感じで憎めないキャラに収まるところがすごい。

・ミミズク
シンプルに演技がうますぎる。月島と同じでこの人が演じて初めて完成するような役。安定感と信頼感がえぐい。やってること激ヤバなのにどこか憎めないというか、そういうこともあるよね、って思わせちゃう観客への取り入り方というか、もうとにかく上手い。シンプルに女性役者も男性役者も複数人いるのに誰も埋もれないのが本当にすごい。

・しおり
こういう人いるよな~っていうリアルさと創作の虚構感がうまく入り混じっていてとてもよかった。社会人であるからこその売れない芸人に対する感情とか不安感とかセリフ以上に演技からそういう緊迫感が溢れてきて引き込まれた。特殊な人間の集団に普遍的な人間が混ざってくれてるおかげで特殊に慣れないというか、飽きないというか、やっぱこれって変だよな?って思い続けることができて良かった。

・つくし
安定感がえぐい。表現としてあっているか分からないけど「大人」の安定感を感じた。でもボケや場面の流れにしっかりノッてくる無邪気さ、かわいらしさとか、金剛との掛け合いとか、「大人」として場を安定させる役割も、ボケて周りにツッコませる引き出しもあるの、いいなぁ~。

・金剛
舞台上で脱ぐのってやっぱ最高だな。出てくるシーン全部面白いって本当にすごい。出番少なくてもあれだけインパクト残せたら大勝ちですわ…出番少なくても確実に爪痕残せる役をやりたいし、そういう役者になりたいもんです。あとめちゃくちゃ男前。

以上です。
みなさん役へのハマり方も演技のうまさもテンポも超絶一級品でした。一級品どころか百級品でした(?)
褒め言葉のレパートリーなさすぎて自分で読み返して笑っちゃった。申し訳ない。でも本当にみなさん大好きでした。しっかり軸がある安定感も、飛び道具としての弾け方も、みんな上手すぎ。もうほんとに、ほんとに…
本当に最高だったなぁ…

タイトルの話

僕はこれまでそんなたくさんではないにせよ舞台を観てきました。その中でたくさん面白いのを観させていただいてきたんですけど、面白い舞台って観た後に「やりたい」と思うんですよ。
この脚本やりたいな、とかこの役やりたいな、とか思うことが多いんですよ。
でもそれって多分、自分の中に「俺ならもっとやれる」とか「あそこは俺ならこうするな」とか、偉そうな話ですけどそういう可能性を見出してるんだと思うんです。少なからずそういう部分はあるんじゃないかなって。

今回の「メッセンジャーフロム」、僕はやりたくないです。

やりたいなーと思う舞台には出会ったことがありますけど、やりたくないなーって思う舞台に出会ったのは完全に初めてでした。

あの90分がこの舞台のすべてだし、あの脚本、演出、役者、スタッフ、音響照明舞台装置…そして客席とのグルーヴ感、すべてがこれ以上ない、完璧なものだったように思えて仕方がないんです。
どの役をやりたいとか、何も想像がつかない。もうそこに僕が介在する余地はないし、入り込む隙間も、口をはさむ余白も何もありませんでした。
そう思うくらい僕はこの舞台で食らっちゃいました。
何なら演劇するモチベーションすらも全部ぶっ飛ばされて真っ白に燃え尽きちゃうくらい。
人生で初めての経験でした。本当にすごかった。

おわりに

もうこれ以上言葉を紡げません、そもそも紡いでもないです腹の中にあるもの全部吐き出してちょっと形を整えてるふりをしてるだけなので。

観劇後「食らっちゃったんだよね~」という話をしたらふゅーに「片山順貴脚本との親和性がめっちゃ高いんじゃない?」と言われました。
確かにそうかも。すべてではないにせよ、この舞台で順貴くんが伝えたかったことは結構伝わってきた気がするし、それが自分の中にもある思いだったり、のどにつっかえてることだったり、ふとしたときに気づく違和感だったり、そういう部分とすごく重なって、シンクロしちゃって。そのバフがかかって多分他の人より多めに食らっちゃったのかなあって。
この感覚って本当に初めてなのでしばらくは自分の気持ちを整理するために旅に出ます、探さないでください(?)
いや冗談ですけど。でも気持ちが落ち着くまでは次のこと考えられないなあって本気で思ってます。本番前じゃなくてよかった~~~!!


とにかく!本当にすごいものを観させていただきました。全現代人に観せたい。
改めまして役者スタッフの皆さん、関係者の皆さん、そして何よりこんな傑作を生みだしてくれた順貴くん、
本当にお疲れさまでした。
最高の時間をありがとうございました。

次は何をしようかな、楽しみだな。
まずは一旦この気持ちを落ち着けて、話はそれからです。
でももう色々と決まりつつあるし、まだまだ今年も楽しいことたくさんできそう。
情報解禁が待ち遠しいです。
今年も引き続きよろしくお願いします。
では。

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