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立方体の思い出(2作品目)【毎週ショートショートnote】

君はA4用紙に色鉛筆で立方体を描いていた。

様々な大きさ、様々な太さ、様々な色彩、様々な角度の立方体だ。ところどころ重ねて書いたり、場所をはずして書いたりしている。複雑に重なり合い、絡み合い、殴り合い、愛し合い、憎しみ合い、その線画は描かれていく。すでに余白だったり白い部分はなく、線で埋め尽くされていた。もはや立方体を描いているようには見えないが、君は頑なに立方体を描き続けていた。まるで小さい子供が初めて色鉛筆を持ったかのように書き殴るように描いている。だが、その筆致は乱れていない。できあがりつつあるそれをよく見ていると人の顔のように見える。比較的若い男性のようだ。

君は筆を止めた。描いている途中で筆を止めたようにも見える。ここまでねと君はつぶやいた。君の瞳は少し潤んでいるようにも見える。君はしばらくそれを眺めていた。

何を書いたの?と僕は君に尋ねた。

『立方体の思い出』を書き留めておいたのよと小さな声で君は答えた。

(410字)



たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※純文学?っぽい?のを目指しました。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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