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17時54分の勝鬨を忘れない(相模原公式記録員見習い戦記・第4節vs大宮)

バックスタンド側・右サイド、ゴールラインよりはハーフウェーラインに近い位置からのスローイン。

前に投げたボールをユーリが受けて、相手選手を背負いながら内側にちょんとはたく。

「ユーリから……」

そこに入ってきたのは……誰だろう?藤本っぽいけど、横向きだからわかりづらいな。

そして、そこまで速くはなく、しかし細かいフェイントで守備をずらして、空いたコースに少しだけ柔らかめのシュート。

枠の左に抜けるかな、とも見えたけど、左ポストを内側から叩いてゴールの中に飛び込んだ。

拍手、喝采。そして、ゴール成立を見届けたシューターは、軽く手を広げてバックスタンド側に走り出す。

背中には、見やすいJリーグ統一フォントの大きな数字、4。

「ゴール藤本、90+3分!」


こうやって、記録席は歓喜の逆転ゴールを確認したのでした。


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悪天候になるのがわかっていたので、いつものように原当麻駅から歩くのではなく、古淵駅→女子美術大学のバスでスタジアム入り。

それでも、女子美術大学バス停からの数分の徒歩ですら嫌になる、ひどい風でした。

雨がまだ何とか我慢できるレベルだったので、最終的には傘を畳んで小走りでスタジアム入口に駆け込む羽目に。

風雨は、ましになったかな、と思ったらまた激しくなる、そんなことの繰り返し。

無看板試合になるのは行きの道中で既に知っていましたが、リーグやチームの旗すら、早い段階で降ろされてしまいました。(旗無しなんて初めて見ました……。)

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さらには、ベンチすら(それなりに重しを付けていたのに)転がってしまう事態に。

↓は実況の原大悟さんのそのときのツイートですが、これとほぼ同じ視点で、私も、届くわけもないのにそっちの方に手が出てしまうくらい慌ててました。


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前半は、わざわざ陣地替えをして風上を選んだ大宮がどんどん前へ出てきます。

だけど、ここまでの試合と比べて、私は安心して見られていました。

ここまでの試合は、崩されながら、どうにかゴール前を固めていたので事なきを得たとか、スーパーセーブでしのいだとか、そんな場面が多かった。それに対して、この試合、もちろん押されはするのだけど、中盤で跳ね返すことが多かったように思います。

試合前、届いたメンバー表に稲本の名前を見たときは、どうしたんだ突然とびっくりしたのですけど、いやいや、ボールをキープして次につなげる役割、しっかり効いてましたね……。


実際、前半の前半、つまり飲水タイムまでの23分間で、大宮に許したシュートはわずか1本。それも、風のいたずらを期待したロングシュートだけでした(4分ちょうどの、#49大澤選手)。


しかし、飲水タイム明け。急に雨が激しくなり、それにひるんだか、クリアミス、判断ミス。

ゴールに向かってゆるいボールを蹴り込まれる、もったいない先制点を食らいました。

雨が激しかった時間は1分もあったでしょうか。ほんとに、運命のいたずらというか。


ただ、そこから追加点を許すことなく、風下での前半を0-1で終了。

これなら、後半は風上だし、何かのはずみでいけるんじゃね?


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でも、後半に入ると、雨は弱くなり、風も強いとはいえ前半ほどではなく。

立ち上がりから再三決定機をつくられます。

48分40秒の大澤選手、49分30秒の#10黒川選手、59分30秒の#48柴山選手、60分20秒の#5石川選手。どれも、あ、やられた、と思ったシュートでした。

特に黒川選手と柴山選手のシュートは、GK三浦、よくこれをはじき飛ばしてくれた、としか言いようがありません。

そこからの時間は攻勢に転じます。実際、後半のボール支配率は、最初の15分が47%ですが、その後の15分は58%、ラスト15分+アディショナルタイムは62%に跳ね上がりました(出典:フットボールラボ(↓))。

ですがそれでも、決定機をつくるにはなかなか至りません。

75分を回ったところでの川上の目の覚めるようなミドルシュートはありましたが、それくらいだったでしょうか。


84分、相模原が最後の交代に選んだのは、ホムロout、藤本in。

そのときの感覚は、どちらかというと、1点を追う終盤でエースを下げるというのはなんだかなあ、という捉え方でした。

ただ、交代前の時点で攻撃的なベンチメンバーといえば藤本だけ。それに、平松を最前線に上げるという選択肢もあるし、どちらかというとペナルティエリア手前での活動が目立っていたホムロを残すよりは前がかりになるのかもしれない。そんな思いもありました。(念のため補足しますが、ホムロは最前線にべったり張るんじゃなくて前線での守備もしっかりやる選手なので、ペナルティエリア手前でのプレーが多かったからといってそれが悪いとは全然思っていません。)


その後、アディショナルタイムを含めておよそ10分30秒のプレー時間の間に、藤本がどれだけの実績を挙げたかは、もはや申すまでもないこと。

冒頭の、逆転ゴールの後、藤本が向かった先には、もうすぐ始まる試合後の片付けのために、バックスタンド下で待機していたジュニアユースチームの中学生たちがいました。その彼らと1つになって喜び合う姿は、これからもSC相模原が歴史を重ねる中で語り継がれる、そして、今年のJリーグ名場面集をつくることがもしあれば、その中に入ってもおかしくないであろう、幸せな景色でした。


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このまま、終了の笛が鳴るまでやりきってくれますように。

そう願って2分弱、実質的なプレー時間としては(もっと長く感じましたが)40秒ほどだったでしょうか。

17時54分。

応援が制限された、観衆わずか727人のスタンドから、それでも挙がった勝鬨と、それに続く割れんばかりの拍手の嵐を、私は絶対に忘れません。


727人というのは、昨年の実績と比べても少なめの数字ですし、コロナ禍以前には(J3参入後では)ありえなかった数字です。

だけど、17時54分のスタンドは、そんなことを全く感じさせないものでした。


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75分(後半30分)を回った時点で、シュートの数は相模原3-10大宮、コーナーキックの数は相模原2-11大宮。

ところが、そこからのアディショナルタイムを含めた19分だけで、シュートは相模原4-1大宮、コーナーキックは相模原5-0大宮。

この試合を象徴する数字と言っていいでしょう。

疲れているであろう最終盤で、クリアボールがポストに当たって跳ね返ってくるという予想外のシチュエーションによく反応した平松。

後半、安定した最終ラインを築いた川上、鎌田、川﨑。

良いクロスを上げ、また、ひょっとしたら逆転ゴールは彼だったかもしれないという積極性が光った舩木(89分30秒、ロングシュートが風に乗ってあわやという場面をつくりました)。

そして、屈強な体を張って逆転ゴールをお膳立てしたユーリ。それだけでなく、同点ゴールだって、ロングボールをユーリが最後まで追いかけたからこそ得られたコーナーキックだった、ってことも忘れちゃいけない。


最後まで、みんな戦ってました。

もちろん勝負ですから、頑張ったって結果につながらないことがあるのは当たり前ですけど、だからこそ、最後の最後で報われたこと、うれしく思います。


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たかが1勝。それに、手放しで喜んでいい内容ではありません。

だけど、この1勝で自信過剰になるチームではないってこともわかってます。

勝って驕らず、勝てなくても下を向かず。そんな姿は、去年もいっぱい見せてくれたからね。

だから、大丈夫。


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帰り道に振り返ったスタジアムは、すっかり空が暗くなって、木々が風に揺れる音だけの中、こうこうと輝いていました。

その照明の光は、これからまだまだ厳しいシーズンを突き進んでいく、その道を静かに照らす希望のような。

そんなふうに思えた瞬間、17時54分の勝鬨を思い出して、私はとても心地よい気分で、女子美術大学のバス停へと歩を進めたのでした。

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