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操兵名鑑

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操兵名鑑・シリーズ8 ヴァ・ガール

操兵名鑑・シリーズ8 ヴァ・ガール

 ヴァ・ガールを預かったものは、騎士の中の騎士と呼ばれる。
 この操兵そのものが、この国を象徴するものだからだ。
 ひとたびヴァ・ガールを駆れば、そこから先は一私人の責任ではすまされない。
 ヴァ・ガールによるすべての行為は、すなわち国家の意思によって行われたものということになる。
 たとえ、それが乗り手の独断によってなされたことだとしてもだ。
 それゆえに、ヴァ・ガールの操手には他国ではありえな

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操兵名鑑・シリーズ7 ラビオーグ

操兵名鑑・シリーズ7 ラビオーグ

 南の空に黒雲が広がっている。
 それは、あの人外の存在が襲いくる兆しだった。
 人のように見えて人ならぬもの。
 すでに亡き偉大なる術師は、あれを外つ神と呼んだ。
 あの禍しき存在が神ならば、この地は滅ぶしかないことになる。
 だが、希望はあった。
 山より降り立ちし賢者たちが、石から作り出した巨人たちを平原の民にもたらしたのだ。
 賢者たちは、巨人を「獣のごとく荒々しきもの」と呼んだ。
 後の

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操兵名鑑・シリーズ6 フォン・グリードル

操兵名鑑・シリーズ6 フォン・グリードル

 生まれたときからフォン・グリードルは身近にあった。
 父親が乗っていたからだ。
 父は国の騎士団をあずかる人間だった。
 小さく貧しい国だったので、保有している操兵の数はそう多くない。
 むしろ、「一般人の協力」による操兵のほうが多いくらいだ。
 この国には、なぜか操兵を持っている一般人がいる。
 本来操兵というものは、国やそれに近い組織でなければ手に入れられないものなのだが。
 この国の守りは

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操兵名鑑・シリーズ5 バイン・ドアーテ

操兵名鑑・シリーズ5 バイン・ドアーテ

 この白い機体を、連中はバインと呼んでいた。
 いままで目にしたことのあるどの操兵にも似ていなかった。
 目立つ機体だった。
 三角帽でもかぶったような頭部に、真っ白な機体。
 独特の構造をもつ甲冑は、とにかく一度目にすればなかなか忘れられないものであることは間違いなかった。
 そのくせ、心肺器の音はひどく控えめで、よほど近づかなければなんの音かはわからない。
 足の裏も工夫されていて、見分けのつ

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操兵名鑑・シリーズ4 エルセ・ビファジール

操兵名鑑・シリーズ4 エルセ・ビファジール

 エルセ・ビファジールは上等な操兵だ。
 まず、仮面の格がちがう。
 一般的な機体に使われるものより、明らかに品質がいい。
 仮面の質について言葉で説明するのは難しいが、実物を見れば明らかだ。
 その名のとおり、仮面は人の顔にあてるあれそのものの形をしている。人間用と異なるのは、その大きさだけだった。
 その裏には、光を放つ貴石が方形に配されている。縦に八、横に八で計六十と四。
 仮面と呼ばれるも

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操兵名鑑・シリーズ3 ザクレイ

操兵名鑑・シリーズ3 ザクレイ

 従兵機は、どんなに上質の鉄を使い、頑丈かつ精妙な機構を用いたとしても、並の鍛冶師が組み上げた並の狩猟機にかなわない。
 そういうものなのだ。
 結局、操兵の強さは、仮面の格とでも呼ぶべきものにあるらしい。
 格というのは、文字通り仮面の間に存在する序列の優劣のことだ。格の高い仮面をつけた操兵は、格下の仮面を持つものなど敵ではない。
 そのかわり、格の高い仮面は、相応の機体を要求するらしいが。
 

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操兵名鑑・シリーズ2 ガレ・メネアス

操兵名鑑・シリーズ2 ガレ・メネアス

 物心ついたころからこの工房の記憶しかない。
 がちん、がちんと響きわたる、赤熱する鉄を叩く音。鍛え上げられた骨材が組み上げられる割れ鐘のような騒音と、それに負けない大音量で叫びかわす鍛冶職人たちのどら声が、覚えている一番古い音だった。
 ここでなにが作られているのかといえば、それはもちろん操兵だった。
 操兵とは、ありていにいえば「鉄でできた巨大な人形」だった。
 もちろんただの人形ではない。中

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操兵名鑑・シリーズ1 マルツ・ラゴーシュ

操兵名鑑・シリーズ1 マルツ・ラゴーシュ

 アハーンなる世界がある。
 力と魔道の支配するその地に、古より伝えられる武具があった。
 その名を〈操兵(リュード)〉。
 操手たる人間をその裡に乗せ、千人力ともいわれる膂力を発する鉄の巨人である。
 時の王たちはこぞって操兵を手に入れ、強大なる鉄の軍勢を作り上げた。
 ゆえに、幾百、幾千の歳月を経てもアハーンに戦乱の絶えたことはなく、操兵たちは変わらず戦場を駆けめぐっている。
 このアハーン大

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