『推しの三原則』のできかた(終)

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 以前も書いた通り、私が通っていたアイドル現場はただの一つしかありません。
 それは元々声優志望のコたちを集めてつくられた声優アイドルグループでしたが、そのアイドルグループの話を別のアイドルヲタにすると「あそこのヲタク怖いですよね」と恐れられるようなやんちゃ者が集まる現場でした。
 なぜそんなアイドルグループの現場に私が通うようになったのか。
 あるとき私は友人とゴールデンウィークに麻雀を打つ約束をしようとLINEで連絡をしました。が、その友人からアイドルのライブに行くから参加できないと返信がありました。彼はその頃アイドルにハマり、休日はだいたいアイドル現場に行っていました。
 と、そのときそのLINEのメンバーにいた別の友人がこうメッセージを入れました。

「じゃあ俺も行く」

 そして私もメッセージを入れました。

「じゃあ俺も行く」

 ゆえに私は冗談半分のノリで、そのアイドルのライブに行くことになったのです。
 なお、私がそのアイドル現場に行くことに全く理由がないこともなく、そのグループのいちばん人気のコが私の好きなアイドルゲームで、私が最も好きなキャラクターの声優に抜擢されたので、一度生でそのコを観てみたいという気持ちはありました。

 私は初めてのアイドル現場を楽しみました。
 特典会というやつにも参加し、アイドルゲームの声優に抜擢されたいちばん人気のコとも握手をしてチェキを撮り、結構楽しいときを過ごしました。
 ここで劇的にアイドル現場に感銘を受けてどっぷりハマった……というのが普通の話の流れですが、別に私はそうはなりませんでした。色々今まで経験できなかったことも経験できて、それなりに楽しかったけれども、まぁもう2度とはここにきいへんやろうなあとそのときは思っていました。

 そんな私がなぜ、またアイドルグループの現場に足を運ぶようになったか。
 理由の一つは、はじめにアイドル現場へ行くきっかけになったアイドルヲタの友人、昔はよく遊んでいた彼と遊ぶ機会が少なくなっていたことです。
 アイドル現場に通いはじめた彼とは、なかなか遊びや飲みの約束を取り付けにくくなっていたのですが、そのアイドル現場に行けば確実に彼と会えるということは私の大きなモチベーションになっていました。友人とライブ後の鳥貴族で、延々とキャベツをおかわりしながらするくだらない会話は死ぬほど楽しかったのです。
 そしてもう一つの理由は「白いタオル」でした。
 そのアイドルグループはグッズであるタオルの質がとにかく良かったのです。そのタオルは今治製でものすごく肌触りが良く、使い勝手が大変心地よいものでした。はじめてのアイドル現場に行った直後に、アイドルヲタの友人が、私にいちばん人気のコのカラーの白いタオルをくれました(特典券を買うために常にタオルを買うので余っていたらしい)。そのタオルを私は1ヶ月ほど愛用していたのですが、岐阜に旅行に行った際、関市のマーゴの湯からホテルルートインまでの帰りの道でそのタオルをなくしてしまったのです。結局白いタオルは見つからず、友人からもらった使い勝手のいいタオルを喪失したことに私はすごくショックを受けました。
 それから私はアイドル現場に通いはじめました。もちろんそれは物販で白いタオルを買うためです。白いタオルが手に入れば、そのアイドル現場に行くのを止めようと思っていたのですが、白いタオルはいつも売り切れていて、再販はなかなか行われませんでした。そしてアイドル現場ではほぼ必ず友人と会い、ライブ終わりに鳥貴族で飲んで話しました。そうこうしているうちに、私はそのアイドルグループの曲も覚え、それぞれのメンバーの人となりも覚え、いつの間にか私はそのアイドルグループ自体を好きになっていました。

 『推しの三原則』の中のヲタクたちは実にくだらない理由でアイドル推しになったという描写がありましたが、これのモデルは他でもない私自身です。岐阜県関市で白いタオルをなくさなければ私はアイドル現場に没頭することはなく『推しの三原則』は生まれていなかったことでしょう。

 ちなみに私はいまだにその白いタオルを取り戻せていません。(完)

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↑人生はじめてのチェキ

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