惜しくも連覇を逃したサウジカップの結果から導かれるアメリカダートG1の勝ち筋とは?(2024年サウジカップ、第98回中山記念・第68回阪急杯回顧)
2024年サウジカップを中心にサウジデー
蒼山サグ(以下、蒼):サウジの方の回顧をやっていきましょうか。こちらはこひさんからお願いします。
こひ(以下、こ):はい、サウジカップですが、アメリカのガチ勢がここまでまとめて参戦してワンターンの1800mという舞台設定だと、こんな競馬になってしまうんだなという驚きがあったレースだったかなと思います。アメリカの競馬でも、引き込み線から長く出脚が取れるコース自体はあると思うんですが、1800mでこれだけ序盤からの直線が長いというケースは、あまり多くないかなと思っておりまして。そのレース序盤からその引き込み線から始まる、長い直線での先行争いでしたが、結局3コーナーまで、隊列はずっと横に広がったままという形になりました。レースの映像を見ても、横にバーッと広がってる絵が出てきまして、なかなか印象的でしたが、こういう形の競馬になった原因として、やっぱりあんまり馬自体が落ち着かせられない、そういう馬作りなのかな、というところもちょっと思わされましたところですね。
ラップタイムはサウジのページとか探したんですが、出てないので、何とも言えない形なんですが、かなりハイペースで進んでいたことはもう間違いないかなと思います。で、終わってみますと、結局、先行争いをしていた馬の中で残ったのは、内から2頭ですね。逃げた形になりましたサウジクラウンと、その後ろにいましたナショナルトレジャーという形になっていまして。あとは、上位に出てきたところで言いますと、その後、インからさばいてきていたデルマソトガケ、そして、後方からも、ある種このペースを我関せずというような形で走っていて、直線で外を出すというような選択をしていたウシュバテソーロと勝ったセニョールバスカドールというような形になりましたので、すごくコーナーでのポジショニングっていうのは大事だったレースだったかなと思います。
今回のレース全体を見てみると、サウジカップだけでなく全体的に馬場自体は割とアメリカの馬も日本の馬も、どちらも走れるようなタイプのコンディションに落ち着いたのかなと思います。そんな中、ウシュバテソーロは、去年ブリーダーズカップクラシックで割と早めに踏んでしまって、直線で最後脚がなくなってしまったというようなところを、多分川田騎手がそういったところを踏まえて、今回は限界ギリギリまで溜めて乗るという競馬の方を選択しました。それが結果的にはベストの選択ではあったんですけれど、そのウシュバテソーロを目標にして後ろから行くとはいうちょっと手段に出られた、セニョールバスカドールの方がちょっと最後上回ってしまったなというところで、まぁ2着ではありましたが、内容的には素晴らしい内容だったかなと思います。
デルマソトガケ。これもなんか輸送中に蹴られたですとか、なんかアクシデントがあったみたいな話は聞こえてきましたが、しっかりとポジショニングとしては、前の馬を行かせてその後ろからきっちり自分の脚分だけは使ったというような形で競馬はしていたかなと思います。このまま持ってる能力というのはきっちりある程度出し切れたかなと思います。この2頭の結果を見ていますと、デルマソトガケみたいなタイプで、先行するアメリカンスタイルの馬たちを少し後ろから追い上げて、そこからしっかりと脚を使えるようなタイプ。それからマルシュロレーヌと同じようなタイプかなと思いますが、前のペースは早すぎる前提で、後方から自分のペースで脚を溜めて、ウシュバテソーロのように末脚を極限まで使い切るタイプが、世界のダート競馬にチャレンジする上で、大事なポイントなのかなと思いました。
レースが終わって、改めて気になったのは、一番人気もなってましたブリーダーズカップクラシックの勝ち馬のホワイトアバリオですね。陣営が「負ける気がしないドバイに向けてどれだけお釣りを残すか」みたいなコメントをしていて、あっさりと先行争いに巻き込まれて10着に沈んだというのを見ると、アメリカの馬にとっても一筋縄ではいかないようなところを改めて思わされました。他の日本馬について触れますと、クラウンプライドについては、若干前目のポジション行きすぎたかなというところはありましたが、この結果は力負けだったかなというところ。レモンポップについては、陣営も馬も、いろんな条件を乗り越えて結果を出せてしまう、すごいパフォーマンスを持った馬ではあるんですが、その上でのベースとなる適性をちょっと考えたいというようなコメントが出ておりましたので、この後、今年1年をどういうローテーションであるのかというところは注目してみたいなと思います。サウジカップの回顧は以上になります。
蒼:ありがとうございました。それでは、続けまして、ゆたさんの方から補足などございますでしょうか。
くらみゆた(以下、ゆ):こひさんからも話があったんですけれども、このアメリ勢が逃げて並んだ隊列、そして最後をウシュバテソーロが差しているというパターン。去年のドバイ、ブリーダーズカップはちょっと早仕掛けですけど、今回と再現性があることを考えると、アメリカで勝つということを考えた時に、日本馬の持つ斬れ味、瞬発力をある程度生かす競馬というのも大事なのかなと思ったところですね。もちろん日本のダートグレード競走の緩いペースでは追走力が足りないので、そこを何らかの形でを鍛えられてないと、そもそも末脚が使えないという形にはなります。ただアメリカ馬のように頭からガンガン前に行く、エネルギー供給系でいうところの、ATP-CP系とか解凍系の供給の大半を前半使い切って、後半は解糖系・有酸素系の供給でどこまで粘れるかみたいな走りというのは、レースを勝つという観点では効率的ではないんだなと改めて思ったところですね。日本馬が勝つなら、レース全体を通して馬の持つエネルギーを効率的に走らせるやり方というのを目指していくというのも一つの方法なのかなと思ったところです。キックバックを受けないようにしたいとか、頭からガンガン行くということで気性面でそもそも溜められない馬作りの隙をつくイメージでしょうか。
まあもちろん元から最大級の負荷をかけることで精神面に問題抱えることが多くなろうとも、次世代にスピード能力を残すと特化、そういうアメリカのレースの仕方はそれはそれで価値があってNGというわけではないんですけども。日本馬が勝つという観点でいうと、日本馬の躾、従順さ、それから瞬発力を生かす形というのを目指していくというのもいいのかなと改めて思ったところです。以上になります。
蒼:ありがとうございました。お話を伺いましたが、何か付け足すことがございますでしょうか。
こひ(以下、こ):サウジダービーについて少し触れさせてください。アメリカの馬がアメリカンな競馬をして完全に勝ちパターンになったレース。それを行き脚がつかない状態、3コーナーの手応えもいまいちなところから、フォーエバーヤングが差し切るという、結構びっくりする内容でした。課題的なところもいっぱい見て取れたレースではあったんですが、ここまで派手にコーナーも全部外回すというのは、昨日のサウジの競馬では死に筋だったのですが、それでも最後は力でねじ伏せたというところを見ますと、ウシュバテソーロやデルマソトガケと同じように、アメリカのトップクラスのダートコースの中に混じっても全く恥じないレベルの本当に世界のダートのトップホース、そういうレベルに行けるんじゃないかなという期待を改めて感じました。
ゆ:フォーエバーヤングに関しては、この後まだドバイでUAEダービーに勝ちに行かなければならないというところが大変だと思います。しかも坂路を使わずにトラックコースで鍛えていかなければならないというところもあります。とはいえ遠征に次ぐ遠征が良い面で言うと、海外のレースで鍛えることでケンタッキーダービーに向けた追走能力が鍛えられるのはあるのかなと。ただ本番に向けて上手く調整できるか、今回も少しとぼけたところがあったのかなと思いますので、どうやってそこにレースに向けて精神面も含めた調整をするのかというのは、矢作調教師の腕の見せどころだと思います。
こ:あと気になったところで言うと、サウジの芝のレースはコーナーがタイトなので、左回りが得意だから、ではなくて一定の小回りでロスなく内に入っていけばできる馬ですとか、ポジショニングが上手いですとか、そういう馬を連れていかないとダメだと少し思いました。
第98回中山記念
蒼:続きまして、中山第11Rの中山記念の回顧に移っていきましょう。こちらは、ゆたさんからよろしくお願いします。
ゆ:一時期はドバイへの叩き台として機能していた中山記念ですが、近年は秋のG1から直行することが多くなっていますので、レースレベルは怪しくなってきているかなというのが直近の中山記念かなと思います。今年はそんな中で世代レベルが疑問視されている4歳世代から、ソールオリエンスと、秋にはソングラインに勝ち切っているエルトンバローズが出てきたというところで、今年の4歳、去年の3歳クラシック路線のレベルを改めて問われるレースだったんですが、なんと5歳馬の1、2、3というところで、4歳世代は辛いなという結果になったのかなと思います。
レースの方を振り返りますと、マイネルクリソーラが出遅れたというところがあったのと、ジオグリフが好スタートを切ったの目立ちました。ハナはドーブネ、あとは戦前からの予想通り、外からミルコが抑えられないんだろうなと思ったんですが、案の定エエヤンが2番手に上がっていました。このタイミングでマテンロウスカイ、こちらが逃げ馬の後ろのポケットにスッと入ったというところが一つポイントだったかと思います。あとは、エルトンバローズも好位で、ソーヴァリアントとソールオリエンスが並ぶような形で中団にいましたが、徐々にソールオリエンスの方が下がっていくような形になっていました。
向こう正面に入って、600から1000mも11秒6、11秒4という形で、ペースを落とさない形の逃げになり、最終的に58秒6という縦長の展開になっています。結果的には上がり3ハロンが12秒5、12秒3、12秒8という結果ですので、消耗戦になったのかなという印象ですね。4コーナーの手前で、ジオグリフ、エルトンバローズあたりも進出を開始して、ソールオリエンスも外からまくり気味に進出するんですけど、その中で手応えが目立ったのがマテンロウスカイというところで、直線をドーブネをとらえると、後方にはセーフティリードをつけたという形になりました。最後は先ほどお話ししたように12秒8と時計がかかりましたが、余裕の勝利。2着に逃げ粘ったドーブネ、3着にジオグリフ、追い込んだソールオリエンスが4着という結果になっています。
勝ったマテンロウスカイ。こちらはスタートからしっかり前に出していって、逃げ場の後ろジオグリフの前を2コーナーでしっかり取り切ったというのが大きかったかと。横山典弘騎手は中山記念の勝ち方をわかっているという走りだったと思います。ドーブネを前においてリラックスした走りでしたし、直線手前ではエエヤンが外に膨れたというところもありましたので、完璧な走りだったかなと思います。数を使いながらしっかり力をつけて、気性面でセン馬にはなっていますけれども、結果的には長く走れるかなと思います。G1ではちょっと家賃が高そうなんですけれども、瞬発力が問われない流れならまだまだ重賞で勝負になるかなという印象です。ちなみにこの馬、横山典弘騎手とのコンビというイメージがあるんですけど、実はデビュー戦は今日引退の秋山真一郎騎手の手綱でしたというところで、時てゃそんなフラグがあった馬でした。
2着のドーブネ。こちらは、一昔前でいうと、いわゆるオープン大将、今ならリステッドまでならというタイプなんですがm今日は相手が弱くなったというところと。それからマイルで前々で勝負してきた追走力、地力というのが相手が弱くなったところでプラスになった形だったと思います。ディープインパクト産駒のラスト2つ前の世代ということで、ノーザンテースト産駒の最後の素質馬クリスザブレイヴ、オープン大将だった馬を思い出します。当時中山記念には6着でした。
あとは3着のジオグリフ。こちらは復活という形になったんですが、レースを見ると、マテンロウスカイに1つ前に取られたのが痛かったかなと思います。先ほどの話にもあったんですが、今週は騎手が少なくて、中山記念では戸崎圭太騎手が結構活躍したんですが、メインでは少しポジションを取れずに後手に回ってしまって、よくあるレースの流れに悪い意味で乗ってしまったなというレースだったかなと思います。
4着のソールオリエンス。最後伸びてきてるんですが、このラップだったら楽に上がって迫ってくれないとというところもありますし、ちょっと着差も離されてますので、いくらG1に向けて叩き台と言っても、負けすぎかなというところがあります。あとは、レース内容は変わり映えしなくて、外をぶん回してというのが続いてしまうので、そういう意味でも、今後古馬と対戦していく上でウィークポイントが出てしまうのかなと思いました。エルトンバローズはもうちょっとやれるかなと思ったのですが、想定よりは負けました。これはレース後のコメントをちゃんと確認したいところです。馬場の影響もあったのかなと思います(レース後の騎手コメントでは馬場が要因とあり)。4歳世代は今回も不甲斐ない競馬になってしまったので、この路線では牝馬は結構勝ったりするのですが、牡馬路線は相手には苦戦が続きそうだなという感想です。以上になります。
蒼:それでは、こひさんの方から補足ございますでしょうか?
こ:このレースは途中で出たラップを見ても速いと伝わっていましたが、400から1200までの間ずっと11秒台のラップで、ラストの3ハロンが12秒台という形で、あまり見ないような形のレースでした。そのため、中団勢も使える脚がなくて、前の馬が上位を占めたというところと、後方から腹をくくった馬が外から飛んできたというようなレースだったと思います。中途半端なポジションで中途半端なレースをした馬にはチャンスがなかったと思います。先ほど話にも出ましたが、エルトンバローズは、程よいポジションを取って先行して抜け出てくるタイプの馬です。過去を見ていると、やはり上がりが速い競馬で勝ってきているというところはあります。そのあたりが舞台設定、メンバー構成で見直せた時には、もう一回パフォーマンスを上げる可能性はあるんじゃないかと思います。
第68回阪急杯
蒼:阪急杯の回顧をお願いします。
こ:阪急杯は、阪神開幕週であり、例年バイアスがかかった内枠有利の馬場になりやすいという点もあり、なかなか特徴的なレースになっているという印象です。さらに、このレースは、サウジアラビアの1351ターフスプリントに、過去には阪急杯に出走してそうな馬たちが集まっており、やや低調なメンバーになったと思います。またサウジアラビアのレースや、中山記念の裏ということもあり、騎手も揃わない傾向がありますので、この傾向は今後も続いていくのではないかと。
そんなレースの中で、唯一実績馬であったウインマーベルがそのまま勝ち切るという結果になりました。秋にありますセントウルステークスも似たような傾向がありますが、阪神の開幕週なので、内が止まらない前残りになるケースが非常に多く、今日に関してはさらに重馬場になった時点で、それがより確実になったという印象です。そんな中で、実績的に明らかに抜けているウインマーベルが、最内枠を引いて、ゲートで遅れずにポジションを取った時点で、あとはウインマーベルが逃げたアサカラキングをかわせるかどうか、そういった競馬になったかなと思います。2番手のメイショウチタンが早めに苦しくなったこともありまして、ウインマーベルが直線に入ると、結構スムーズに進路が確保できたかなと思いまして、そういったところの運もありまして、最後は逃げたアサカラキングをかわして勝ったというレースだったかなと。
勝ったウインマーベル。もうこの馬は1400の条件であれば、本当に堅実に勝ち切れるようなレベルになっているかなと思います。1400のG1はないですが、G1となった場合には、これまで以前の回顧でも触れていましたが、トラックバイアスですとか、枠順ですとか、そういったところで自分が走れる条件、その運を引き寄せられるかどうか、それ次第かなと思います。タフでやや1400っぽい質が求められるようなG1という意味で言いますと、スプリンターズステークスよりは高松宮記念の方が可能性としては高いかなと思いますので、そういった条件が整うかどうかというところで、悲願のG1はあり得るんじゃないかなと。
2着のアサカラキング。連勝中でここに挑んで2着というところで、斎藤誠調教師と斎藤新騎手の親子初重賞が寸前で逃げていったという感じでした。先行する馬がそもそも少ないメンバー構成というところも恵まれたところはありましたが、自分の競馬は完全にやりきったというレースだったかなと思います。あとは競ってどうかというところはまだ見ていないので、そういったところの懸念はありますが、メンバー構成次第では重賞で勝ち負けできるようなレベルではないかなと思います。また、こういった馬が高松宮記念に出ると、ペースが流れてレースが締まるところもありますので、ちょっと賞金的にどうかなというところで言うと、怪しいぐらいのラインかなと思いますが、入れるようであれば、ぜひ出てほしいなと思います。
あとは先行した馬が上位に来ているというレースになったかなと思いますが、一頭中団から外に出して、良い脚を使って追い込んできました。5着のボルザコフスキー、この馬はちょっと取り上げたいなと思います。この生産がハクレイファームで、馬主がぐりぐり君という馬でインターネット的なプロフィールが強い馬なんですが(苦笑)、キズナ産駒という血統的なところもあって、渋った馬場で脚が伝えるタイプだなと思いまして、そういう舞台設定短距離戦では出番がありそうな馬かなと思いました。
蒼:ありがとうございました。ゆたさんの方から補足ございますでしょうか?
ゆ:私は3着のサンライズロナウドで単複勝負していたので、今回は複勝だけ当たったという形なんですが(苦笑)。この馬前走までは横山典弘騎手が乗っていて、今回クセ馬マイスターの古川吉洋に乗り換わりという形。相当気性が悪いみたいで、全然調教もできないという馬なんですよね。新聞を見るとわかるんですけど、レース当週までずっとプールっていう、なんかゲームみたいな調整過程が並んでいる馬なんです。それで3着に来るというのは、相当能力はあるのかなとは思います。安田隆行調教師の最後を飾れなかったのは残念なんですけど、この後転厩した後、どんな調整過程を踏むのかなっていうところは、興味深く見守りたいなと思ったところです。
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