格の違いを見せつけたスタニングローズとハマってしまったルメールの直線の進路取り。制裁は妥当だったのかを速攻解説!(第49回エリザベス女王杯・第60回福島記念・第29回武蔵野S・第59回デイリー杯2歳S回顧)
第49回エリザベス女王杯
くらみゆた:
秋華賞からの3歳馬の参戦がなく、古馬牝馬も寂しい顔ぶれとなったエリザベス女王杯。どこからでも入れそうなメンバー構成だっただけに、G1馬のプライドを感じさせるレースになりました。
レースはスタート前に1つポイントがありました。龍谷大学吹奏楽団によるファンファーレが、寒い中ビシッと決まったのは素晴らしかったのですが、そのあと起きた歓声でレガレイラのテンションが上がってしまいましたね。ゲート自体は入ったものの、ガチャガチャしており、怪しい雰囲気でのスタートになりました。
とはいえ、ゲートが切られると無難なスタートでレガレイラは中団に。予想通りハナはコンクシェルが主張していく形に。先行勢の中で存在感があったのがスタニングローズですね。しっかりポジションを獲って、何でもできるような位置につけたのが印象的でした。内からホールネス。外にコスタボニータ、シンティレーション、その後ろのレガレイラという形で向こう正面に入りました。メンバーが揃わなかったということもあって、逃げたコンクシェルの刻むラップは前半3ハロン35.2。1000mが59.6。少し離して縦長の馬群でしたから、G1レベルでは圧倒的に先行馬優位という展開になりました。
向こう正面で印象的だったのはラヴェルの川田騎手ですね。レガレイラ、ルメールを外からしっかり圧をかける形で進路を選ばせない位置取りに。坂の頂上までしっかり締めた上に、下りからはすっと外に進路を獲る形で、馬場の良いところにレガレイラが出られない形を作りました。4コーナーの下りで上手く動いたのはもう1頭。スタニングローズ。前の先行馬が2200mを走り切れない体力であることを見抜いた形で早めの進出。ストレスのない形で直線へと向かいました。
直線に向かうと、馬場の良い外を一気に抜け出したのがスタニングローズ。4コーナーまで内ラチ沿いにいたホールネスの坂井瑠星騎手も見事な進路取りで、馬場の真ん中を力強く伸びるもスタニングローズの脚は圧倒的。レガレイラは内に進路を取るも狭くなって伸び脚を欠き、最後は外から伸びたラヴェルが上がるも、セーフティリードを獲ったスタニングローズが復活のG1勝利を挙げました。2着にラヴェル。3着にホールネスという結果になっています。
勝ったスタニングローズは中間で復調気配が伝えられていたこともありましたが、体調さえ整えばここでは格が一枚上。鞍上にクリスチャン・デムーロを迎えての5番人気でしたから、かなり美味しいオッズで、個人的にはごちそうさまでした。エリザベス女王杯はカタカナ騎手が強いことで知られますが、今回もレガレイラ包囲網が組まれた中で先行した腕達者が漁夫の利を得た形。短期免許の騎手も揃う11月のG1ではルメールだけに注目していればいいわけではないことも、再現性の一つの要因かと思います。
助演男優賞は2着のラヴェルというか川田騎手。終始外からしっかりとルメールを締めた上に、4コーナーからはすたこらさっさと馬場の良いところを確保。川田騎手も12番人気で好き放題やりましたという競馬だったと思います。3着のホールネスは重賞勝ちもない中でよくやったと思います。攻めたポジションで終始内を回って、最後は4コーナーで斜めに出して進路をしっかり確保。やれることはやった3着だったと思います。5着に終わったレガレイラ。道中は終始窮屈な競馬、直線では前のフラフラした動きに涙を呑みましたが、こちらはこひさんにお任せしたいと思います。
蒼山サグ:
では、ご指名もありましたし、こひさんからもコメントをよろしくお願いいたします。
こひ:
はい、今回のレースですが、レガレイラを改めて見直してみると、ルメール騎手が無理ゲーに押し込まれていく姿が見えていたので、まずそこにスポットを当ててお話ししたいと思います。レガレイラですが、スタート前からゆたさんのコメントにもありましたが、ゲートの中でも見るからにイライラしている状態でしたが、そんな中でもスタート自体はきっちり出せました。ただ、そのスタート後に両脇から挟まれる形での不利がありましたが、そこでもポジション的に大きく遅れることはなく、うまく立ち上げて運び、一度はスタニングローズの後ろに入れそうなところもありました。ただそこで鮫島克駿騎手のキミノナハマリアがそのポジションに外から入ってきたため、序盤の運びや位置取りを考えると、さすがにもう一回ぶつけていく形でポジションを死守するわけにもいかず、引かざるを得ない状態になったように見えました。
引いたところで外には川田騎手が控えており、先ほど助演男優賞の話もありましたが、川田騎手のラヴェルですね。そこからきっちりとルメールを丁寧に締め続ける状態でした。この運び方でも、何が他にやりようがあったのかなというのが、何度パトロールを見ても浮かばないなという印象です。前には力が劣るキミノナハマリアがいて、隣で外は川田騎手がしっかり押さえ込む形になりましたので、もう自分では何もできない状態。坂の下りでうまく川田騎手が早めに動いていったところもありましたが、その時には当然その後ろからゴールドエクリプスの田口貫太騎手が追いかけてきたという状況でしたので、物理的に直線では内に行く以外の選択肢がなかった形だったのかなと思います。
直線では、ハーパーが力尽きつつある脇の狭いところに空間があったため、そこに突っ込んでいく形になりましたが、同じところを狙っていたシンティレーションのマーカンド騎手と一緒に突っ込んでしまい、万事休すというような形でしたし、その後、立て直した後も、前に行っていたコンクシェルが最後寄れながら追っていて、若干前がカットされるなど進路がクリアになる瞬間はなかったと思います。結果だけを見て、ルメール騎手の騎乗が直線であまりきれいな形でなかったところもあるので、厳しい見方をされるかもしれませんが、こういった気性面のリスクのある馬で、これ以上何をどうできたのかという感覚を改めて見て思いました。
直線で派手な不利に見えましたので、いろんな方々がいろいろコメントをされていますが、パトロールを見た感覚で言いますと、関連した馬はそれぞれに進路を選んだりした要因があったかなと思いますので、個人的には騎乗停止レベルの制裁はないのではないかと見ています。最後にレガレイラに関する補足ですが、今回の結果はごちゃついて5着という形でしたが、全ての進路がクリアになったとしても、締め続けてきたラヴェルをひっくり返すのは難しかったのかなと。進路がクリアになっても良くて3着までだったのかなという感です。
あとは改めて着順を見て思うところとしては、昨日の展望でも触れましたが、秋の上がり馬よりも実績馬じゃないかという点で、結果的にはそういう並びになり、3着で馬券になったホールネスですね。この馬は今後のこの路線の中でそれなりに存在感を出していける、そういったポジションに行ける馬のポテンシャルを示せたのではないかと思いました。あとは4着のシンリョクカ。木幡初也騎手はうまく流れに乗せてて、あまりこういうG1でのチャンス多くない騎手ではありますが、やれることはきっちりやり切ったという印象でした。以上です。
蒼山サグ:
ゆたさん、いかがですか?
くらみゆた:
最後の直線はまだきっちりは見れていないんですけれども、ルメール騎手の前にいるのがハーパーで、そのタイミングでは武豊騎手は右ムチを入れながら下がってきていました。その横は開くだろうという読みだったのかなと感じます。それ自体はいつものルメール騎手の狭いところを狙って、開くと思ったところにしっかり入っていった選択だったのかと。ただ隣にいたマーカンド騎手は短期免許で、その辺がやりあってしまったというか、ルメールが入ってくるとは思っていなかったのかもしれません。この辺りは秋のG1レースで、騎手のメンツが少し違うというところが、こういう場面でも出てくるのかなと思いました。誰が悪いというわけではないのですが、いつもみたいな予定調和にはならないというところは、少し頭に入れておいたほうがいいのかなと感じています。
『レース後補足。最初にハーパー武豊が右ムチ。ギリギリ2頭分のスペースあったところをルメールが狙いに行くもシンティレーションと接触。さらに左ムチを持っていたコンクシェル岩田望来が急に外に流れながら下がったところで、派手にシンティレーションが弾かれた形。騎乗停止なしで、前者の挙動でルメール、後者の挙動で岩田望来に制裁というのは妥当な結果だったと思いますね。』
第60回福島記念
こひ:
いかにも福島記念といった印象のメンバーが今年も揃いました福島記念。1番人気は中京の準オープン勝ちから京都大賞典で6着のドクタードリトル、2番人気は中京のオープン勝ちのフライライクバードとなりました。
スタートからウインシュクランが先手を取り、クリノプレミアム、ギャラクシーナイトが続き、その外にシリウスコルトが続きます。あまり競り合った感じはなかったのですが、スタートからのラップは12.5-11.2-11.1と落ち着かない入りになっていきます。向こう正面ではドイルジョッキーのサトノエルドールがまくり、さらに外から三浦ジョッキーのダンディズムが動くと、いかにも福島記念らしい、終始落ち着きがない展開に。こうなると先行勢は苦しく、しぶとく抜け出そうとするダンディズムを、外から鮮やかにとらえてきたのは三角では最後方、最後まで動かなかったアラタでした。インをすくって2番手に差し込んできたフェアエールングは、いかにもゴールドシップ産駒らしい差し脚でした。
勝ちましたアラタは七夕賞以来の久々。七夕賞の頃より時計のかかる芝の状態が良かったですね。一昨年、そして三年前、このレースでは1番人気3着でしたが、とうとう大願成就といった印象です。時計のかかる芝でハマる展開を待つタイプだと思いますが、近年は丁寧に間隔をあけて使われていますし、また出番もありそうです。2着のフェアエールングは福島での新馬勝ちから札幌で3つ勝ち星を重ねてのオープン入りからの2着。分かりやすすぎるキャラですし、福島牝馬ステークスやクイーンステークスでは馬柱の数字が大きいのばかり並んでいたとしても買いたいですね。そして私はダンディズムから行って痛恨の3着。早めに仕掛けていくと道中で崩れました。辛抱できていれば勝てる大チャンスだったと思うのですが…。1、2着馬は北海道での実績が豊富で、3着馬も福島などローカルの舞台設定での良績が光りました。今回の人気は中京から向かってきた組ですが、やはり福島記念は時計のかかる芝の実績を見ながら買うべきですね。
第29回武蔵野S
チャンピオンズカップへのトライアルというよりは、根岸ステークス、フェブラリーステークスと続く路線の一丁目といった感じになりつつあるレースです。今年もグリーンチャンネルカップ組を筆頭に、東京ダートの1400-1600mを使ってきている馬たちが集合しました。そんな中でも、今年の根岸ステークスを制したエンペラーワケアが大将格といった形になりました。
レースは、スタートから逃げたいメイショウテンスイと、逃げるしかやりようのないドルチェモアが競り合い、ハイペースとなりました。12.1-10.4-11.3-12.0と流れます。離れた3番手にペイシャエス、エンペラーワケア、外から早めに押し上げたタマモロック、そして後方に待機していたのがペリエールとカズペトシーンといった隊列になりました。直線では抜け出すペイシャエスに、進路がなく動けないエンペラーワケア。伸びきれないタマモロックといった感じになりましたが、ペイシャエスがメイショウテンスイを交わし切って生まれたスペースを逃さず差し込んだエンペラーワケアが、合間からぐいっとひと伸び。決してベストのレースではありませんでしたが、一瞬の隙間を逃さずに突き抜け、外から突っ込んできたペリエールを、さらに外から来たカズペトシーンが交わしたのが2着争いでした。
勝ったエンペラーワケアですが、不安視されたマイルへの距離延長も、内でロスなく運び、直線も早く動けない展開もあり、うまくこなしたなという印象です。終えた距離を考えると、このメンバーでは抜けた存在でした。本番に向けてはさらに相手も強くなるので、あまり厳しいレースの経験がない点はやや気がかりで、メンバーと力関係がカギですね。
2着のカズペトシーンは逆に距離短縮でも持ち前の末脚をしっかり発揮し、35.3の凄い脚で上がってきました。こちらは1800mも対応できるタイプですし、終いは確実に凄い脚が使えます。オープンクラスでも通用する点が収穫でした。
ペリエールは最適条件で展開もハマった印象でしたが、これでも賞金が積めないとは、ローテーションが難しい立場が続きますね。
ペイシャエスはスピード競馬でも対応できた点は収穫でしょう。タマモロックは、このペースの中、早めに押し上げ、一番ロスの大きいところで外を回ったのがもったいない競馬でした。
第59回デイリー杯2歳S
ゆた:
1勝馬同士の対戦。しかも未勝利からの勝ち上がりも多く、伝統の2歳G2にしては寂しいメンバー構成となりました。春のことを考えると東京の芝1600を使いたくなりますし、距離が持つ馬には来週東スポ杯が控えているということで、今後も位置づけが難しいレースになりそうです。逆に言えば、ここにしっかり照準を合わせてきた陣営は「わかっている」わけで、そのような形のレースを初年度の福永祐一厩舎が勝たせてきたというのは、その実力を見せつけたとも言えるかもしれません。
レース自体は京都の馬場状態、メンバー構成もあって凡戦と言ってよい内容では会ったと思います。勝ったランフォーヴァウは中山芝1600の新馬戦はレイユールの6着。勝ち方が派手だったレイユールを中間圧倒し続けたのは、アルテミスSの覇者、同厩舎のブラウンラチェット。出資者としてはニンマリしてしまう結果だったとも言えます。そういう意味ではノーザンファームの生産馬が1頭も出てこなかったというのも意外でしたね。とにかく前倒ししての登録でこのレースを狙った福永厩舎とそれに応えた坂井瑠星騎手の充実ぶりばかりが目立ったレースだったと言えると思います。
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