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『Dr.森の腹部超音波パーフェクト 改訂第2版』刊行記念 Dr.森"パーフェクト”インタビュー



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http://www.shindan.co.jp/books/index.php?menu=01&cd=260700&kbn=1


■はじめに

2023年6月,『腹部超音波診断パーフェクト』の待望の改訂版が刊行されました.『Dr. 森の腹部超音波診断パーフェクト premium movie version 改訂第2版』です.著者である森秀明先生(杏林大学医学部医学教育学特任教授)に,本書のこと,超音波検査の今後,記憶に残る1枚など,熱く語っていただきました.


■本書で一番大変だった点,特長など―全静止画像の見直しと新規動画860点

編集部:本書で一番大変だったこと,特長などを教えてください.

森先生:『腹部超音波診断パーフェクト』は2013年に初版を出版しまして,今回がちょうど10年ぶりの改訂になります.初版のときにも静止画像800点を掲載したのですが,今回はさらにそれよりも増えておりまして,静止画像で1,100点,また新規に動画を860点収録しました.

初版は非常に多くの方に愛読していただいたのですが,そのなかで,読者の方々から「ぜひ動画の入ったテキストを発刊してほしい」というご意見を複数いただきました.以前,ビデオやCDなどで動画の超音波診断コンテンツを作成したことがあったのですが,いまの時代ですと,ビデオデッキもありませんし,普段パソコンを持ち歩くということも少なくなっております.何かもう少し動画を簡単に閲覧することができるようなシステムがないかということを,診断と治療社の方にご相談させていただきましたところ,書籍にQRコードつければ,そこでスマホ等で手軽に動画を見ることができるということを教えていただきました.これは本当にすごいなと思いまして,ぜひ今回の改訂版では動画を入れたいと思いました.

また,静止画像も初版を2013年に刊行してからほとんどの症例は新しく刷新し,なるべくそれ以降に撮った最新の画像を使うようにしました.この10年間の間に見直した画像も非常に多かったですし,また動画を採択するためには,長い動画を短く編集する必要がありました.たとえば1人の患者さんでも5点も10点も動画を撮ることがありますので,それを全部見直しながら一番よいと思われる動画を選択しましたので,静止画だけのテキストを作るときと比べると,何倍もの時間がかかってしまいました.それが一番苦労した点だったと思います.

編集部:今回の改訂版は,症例もさることながら動画が加わったことが一番大きな変更点だと思います.やはり動画は情報量が格段に違いますので,読者の方もよりわかりやすくなるのではないでしょうか.

森先生:そうですね.本当に10年前と現在とでは超音波診断装置もかなり進歩しています.たとえば血流診断ですとワイドバンドドプラや高感度ドプラなども開発されましたし,10年前とは全く違う画像になってきております.また,疾患の概念や診断基準が変わったりということもありますので,最新の内容にするために文章もかなり改訂いたしました.ぜひご覧になっていただきたいなと思います.

 

■超音波検査の今後―AI時代のスキル向上

編集部:超音波診断でもAI技術に注目が集まっており,さまざまな検査法もでてきています.超音波検査は今後どのようになってくるとお考えでしょうか.

森先生:AI診断に関しましては日本超音波医学会も総力を挙げて,普及に努めているところでして,とくに私は肝腫瘍のAI診断を学会のなかで担当させていただいております.例えば皆さまが超音波診断装置で肝臓に腫瘍を描出したときに,そこでボタンを押せば,この腫瘍は血管腫の可能性が80%だとか,肝細胞癌の可能性が20%とか,そういった判断ができる時代がもうそんなに遠くなく来ると思います.ただし,そのような時代であっても,皆さまがお撮りになった画像が不鮮明ですと,正しい診断にたどり着けません.本来は良性疾患なのに悪性疾患と間違ってしまったりといったことも,あり得ると思います.

そういった意味ではいくらAIが進んでも,やはり技術として綺麗な画像を残すということは,検査をする者は絶対怠ってはいけないと思っております.

編集部:IT技術がいくら進んでも,やはり最後は画像を撮られる方にかかってるということですね.

森先生:あくまでもAI診断は描出された腫瘍の良性悪性に対しての診断ということになるのですが,私どもが診断するときには,たとえば背景に慢性肝疾患がないかなどを見たり,血液検査など各種データも勘案しながら鑑別をしていきます.たとえば肝臓の高エコー腫瘤であっても,血管腫のこともあれば肝細胞癌のこともありますので,各種のデータを吟味して診断していくという過程はまだAIでは確実にはできないだろうと思います.

たとえば,ご存じの方も多いと思いますが,心電図ではミネソタコードというのがあって,いまほとんどの心電図の機械で波形をとり,スイッチを入れるだけで洞調律だとか不整脈があるなどのコメントが出てきます.そのなかで,たとえば心筋梗塞が疑われるなどのコメントが出てくることがありますが,実は心筋梗塞ではないということもありまして,そのあたりのことに関しては限界があります.おそらく肝臓やその他の領域のAI診断などに関しても100%ということはないので,やはり自分自身のスキルを磨いていくことが必要だと思います.

 

■先生の印象に残る「1枚」―達人の原点

編集部:先生のキャリアの中で一番印象に残る超音波画像の「1枚」はどのようなものでしょうか.

森先生:卒業して2年くらいたってから腹部超音波診断に携わるようになったのですが,ちょうど4年目に出張先の病院で,ある患者さんに腹部超音波検査を施行しましたら,3cmくらいの肝細胞癌が見つかりました.その当時は肝硬変の患者さんは肝臓に癌ができる前に肝不全ですとか食道静脈瘤の破裂などの合併症でなくなられてしまうことが多かったので,このとき初めて自分で行った超音波検査で肝硬変の患者さんに肝細胞癌を発見しました.今も鮮明に記憶していますが辺縁低エコー帯を伴うモザイク状の典型的な肝細胞癌症例でした.超音波検査でこのように腫瘍を鮮明に描出できたことが印象的でした.きっと近い将来には画像診断が進歩していって,さらに小さな癌が見つかる時代がくるのではないかと思いまして,自分自身でもスキルアップをしてさらに技術を磨きたいと思いました.現在も講演のときにときどきその画像を提示しまして,「現在の画像との相違」というのをお伝えすることもあります.今も画像を持っていまして,ときどき見直しています.

編集部:以前「すべての症例・場面の画像が頭のなかに入っている」と伺って驚きました.

森先生:超音波検査を施行する患者さん全員が私の受け持っている方ではないので,顔を忘れてしまうことはあるのですが,超音波プローブをおなかにあてると頭のなかに過去に施行した検査画像を思い出すことが多いです.とくに特徴的な疾患の場合には「あのときあの部位にこういう病変があったな」ということを思い出すことがあります.

 

■読者の方へのメッセージ―ローマは1日にしてならず

編集部:最後に読者の方にメッセージをお願いします

森先生:いままで何冊か本を出版させていただいたのですが,やはりそのなかで一番嬉しかったのは,地方の学術集会に出席した際に,初めてお会いした技師の方が,私の本を持ってこられて,この本で勉強して一生懸命施設で頑張っているというお話をされたことがありました.その方の勤務されている施設には指導していただけるような医師の方や技師の方がいらっしゃらないということで,私の出版した本で勉強をしたということを伺い,改めて出版してよかったなと思いました.

とくに今回の改訂版は動画を含めた腹部超音波診断のテキストを出版することが目的でして,やはり静止画像だけで言い表せないものが,動画だと何倍も情報量が増えます.私が超音波検査を施行している時に,その横で見学していただいている場合は,こういうふうに撮っているんだなということがわかると思いますが,このテキストの動画を閲覧していただければ,見学されたときと同じようにご理解いただけると思います.

若い医師の方や技師の方にいつもお話ししている内容として,有名な格言で「ローマは1日にしてならず」という言葉がございます.ご存じの方も多いと思うのですが,超音波診断を短期間で習得するということは難しくて,本当に私も苦労して何年間もかけて自分の技術を磨くようにしてきました.1日で結果は出ないと思うのですが,一生懸命勉強していただければ,必ず成果が上がると思います.特に最近はいろんな学術集会でライブデモを開催したりとか,講習会などの講演のスライドのなかで動画を用いたりとかで,動画を見る機会というのは格段に増えていると思います.もちろんインターネットでもYouTubeその他でも公開されていますので,そういった動画も含めた勉強をしていただいて,ぜひご自身のスキルアップをしていただきたいと思います.

私1人でできる検査の数は限られていますので,多くの医師や技師の方々にスキルアップしていただいて,患者さんを正確に診断していただければ,助かる患者さんがもっともっと増えてくると思いますので,ぜひ皆さん頑張っていただきたいと思います.

 

■おわりに―“圧倒的”から“無双”へ

さまざまな状況から,画像・図表が多く収録された分厚い書籍はなかなか刊行しにくくなっているのが現状です.本書は写真点数も頁数も大幅にアップし,それに加えて新規の動画を860点以上追加しており,帯にも記載しましたが「圧倒的な1冊」だと思います.森先生はつい最近,本書をご覧になった方から「この本は“無双”ですね」との感想をいただいたとのこと.すでにご覧いただいている方はもちろん,これから手に取られる方も,“無双”の本書を腹部超音波の診断にお役立て下さい.


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