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リフレ派に関する連載ウォッチ#8

武田真彦教授の連載12回の第8回は「インフレーション・ターゲティング」に関する内容です。

僕の評価は、武田氏の議論には大きな誤解があり、世界の先進国の多くで導入されているインフレ目標や、リフレ派が重視する「期待」に関しても残念な評価をしていると思われます。

“ 政策論としてこれを見た場合の大きな疑問は、「インフレ期待を操作する政策手段を中央銀行は有しているか」という点である。リフレ派は、「マネタリーベースの増大 → インフレ期待の上昇」という因果関係があると断言したが、もしこれが正しければ答えはイエスになる。”(*1)

と書かれています。
“ 「マネタリーベースの増大 → インフレ期待の上昇」という因果関係があると断言した”(*1)と武田氏は記事に書いていますが、リフレ派は物価目標のコミットメントと、それを裏付ける具体的な金融政策(長期国債買入など)を主張していました。
実際に日銀は、物価目標へのコミットメント(その一部として、インフレ目標)と「量的・質的緩和」を掲げています。これを武田氏の議論は、まるで「単純な貨幣数量説」をリフレ派が掲げているかのように論じています。それでは、デフレ脱却への強力なコミットメントを示さずに小出しにマネーを増加させる白川日銀時代の「包括緩和」すら、リフレ派がデフレ脱却に効果があると論じていることになります。
恐れながら申し上げますが、総裁任期期間中の9割以上の期間、コアコアCPIを-2%〜0%以下のレンジにおさめた白川方明日銀総裁(当時)の残念な金融政策を支持するような発言は、リフレ派からはあり得ないと思います(伊藤隆敏氏をリフレ派に分類している武田氏の御見識にも疑問を感じざるを得ません)。

岩田規久男氏は「日銀日記」の中で、
“ この四月から始まった「量的・質的金融緩和」のコアの精神は、岡田君がその必要性を説いてやまなかった「金融政策のレジーム転換」である。「二%の物価安定目標をできるだけ早く達成することを約束(コミット)し、二%が安定的に持続するために必要な時点まで、量的・質的金融緩和を継続する」という、金融政策のルールが、ここにいう「金融政策のレジーム」である。”
と述べています。

武田氏は、「インフレ期待を動かし、現実のインフレ率に影響を与える」ことが、QQEを掲げた黒田東彦日銀の「完璧なコミュニケーション」でも出来なかった、と論じていますが本当に「完璧なコミニュケーション」だったのでしょうか?
黒田東彦氏は、2013年の消費増決定会合実施されている時期に、消費増税延期は「どえらいリスク」と言い、デフレ脱却よりも消費増税を優先するかのような発言をしています。

黒田総裁、消費税先送りは「どえらいリスク」 点検会合で発言: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS06038_W3A900C1EE8000

金融政策当局のトップが、消費増税の多数派工作を善意でする団体の一課長かのような発言をすることは、財政政策への過度の口出しになると思われます。
岩田規久男氏は、日銀日記の中で、黒田東彦氏のこの発言を日銀総裁としての「矩を超えた」と批判されていました。

黒田東彦氏のデフレ脱却途上の増税容認発言、物価目標の共同声明を出したもう一方の当事者である政府は消費増税してしまう。そんな状況で、物価目標達成のコミットメントを感じさせる「完璧なコミュニケーション」が出来ていたとは思えません。
それを言うのであれば、白川方明日銀時代の方がデフレ期待を起こす「完璧なコミュニケーション」をしていたと思います。白川方明氏が、デフレ期待を揺るがせたのは、2度くらいだと思っています。
インフレ目途と言った2012年のバレンタイン、任期満了よりも3週間早く辞任することを公表し、株高・円安を引き起こした時です。期待と現実の物価をデフレにコントロールする、これが日銀の力でしょう。

(*1) インフレーション・ターゲティングを巡る攻防 https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00039/030200009/?n_cid=nbponb_twbn

日銀で2%のインフレ目標を導入したのは皮肉にも、白川氏でした。それを裏付ける具体的な金融政策が残念だったことは、高橋洋一氏が指摘しています。(*2)

良くある「インフレ目標政策への批判」については高橋洋一氏が記事で反論(*3)を示しておられます。

その中で言及している「海外における物価安定数値目標(インフレ目標)政策への取り組み事例」と「デフレの克服と物価安定数値目標政策について」の資料(*4)も参考になります。

出典(*2)〜(*4)は、以下にまとめてあります。応援して下さる方、出典をご覧になりたい方は、ご購読をお願いします。

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