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リフレ派に関する連載ウォッチ#1

武田真彦教授の連載12回の第1回は
“ここではリフレ派の主張の中身ではなく、リフレ派の「姿勢」について感じるところを述べ、筆者が懐疑の念を抱くゆえんの一端を示しておきたい。”(*1)
とのことで、経済学の話題は少ない構成です。

武田氏は、リフレ派の書籍タイトルを並べ、以下のように述べられています。
“あからさまに日銀を貶めるもの”(*1)
“ 自説の正当性に一点の疑いもないかのごとき印象を与えるもの”(*1)
“ 自分たちは正しい経済学や経済の仕組みを知っているが、日銀や反リフレ派は無知かペテン師だと言わんばかりのもの”(*1)
と分類されたうえで
“ もし現実の経済が、リフレ政策の下で、リフレ派の言う通りにはならないことが明らかになったら? 彼らが繰り広げてきた 誹謗(ひぼう)中傷や断定は、翻って彼らを斬る刃(やいば)となる”(*1)
と。


誹謗中傷を辞書で調べると
“根拠のない悪口を言いふらして他人の名誉を損なう行いのことである。「誹謗」は「人の悪口を言う」ことであり、「中傷」は「根拠のない内容で人を貶める」ことである。厳密な意味は異なるが、どちらも悪意を持って他人を攻撃する行為である点は共通しており、類語の関係に位置づけられる。”(出典:weblio辞書)

武田氏の記事では“ あからさまに日銀を貶めるもの”の例として岩田規久男元日銀副総裁の著書『日本銀行は信用できるか』を挙げておられますが、同書の前書きには“ 日本でも、政府が日銀の達成すべきインフレ目標を決定し、日銀を国民がガバナンスする仕組みを作れば、日銀の金融政策は国民に信頼されるようになり、その結果、日銀の金融政策の成果も格段に改善されると予想される。なぜならば、インフレ目標採用国の中央銀行が世界中の中央銀行の中で抜群に良い成績を上げてきた最大の理由は、その金融政策が国民に信頼されているという点にあるからである。国民に信頼されない金融政策が成功するはずはないのである。”(*2)
とあり、金融政策の重要性、海外との比較などを通じて、日銀の金融政策に関する問題点について述べられた書籍です。
根拠のない内容で人を貶める内容ではなく、金融政策に見識が薄い人材が日銀審議委員に選ばれてしまう点や、インフレ目標導入国に比べて低い日本経済のパフォーマンスなどを基に、日銀の金融政策の信を問うています。
同書を「日銀を貶める」や「誹謗中傷」の例として挙げている武田氏のお考えは、経済学以前に経済学素人一般人の見識に照らしても受け入れることは出来ません。経済学に興味を持つ者の一人として、非常に残念です。

武田氏は“ 特にマクロ経済学の分野では、特定の命題の是非を厳密に検証することは難しい。従って「QQEには効果があった」という命題についても、厳密な実証、反証はできないと考えている”(*1)そうです。
しかし、そこは流石、「学者」の武田氏です。
“ これに対してリフレ派は、「いや、そんなことはない、リフレ政策に効果があることは実証研究により示されている」と反論するだろう。この点については、連載9回でQQEの効果を論じる際にさらに説明する。”(*1)とのことで、連載9回目が待たれます。

第二次安倍政権以降の経済政策を検証した書籍や論考は以下のものが有益と考えています。

片岡 剛士氏の「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」
https://amzn.to/3kwA1z3

「デフレと戦う――金融政策の有効性 レジーム転換の実証分析」
https://amzn.to/3uPq6JQ

安達 誠司氏の「消費税10%後の日本経済」
https://amzn.to/3uE8G2G

リフレ派の書籍ばかりでは公平性に欠ける、とのご指摘があるかもしれませんので、もう一つご紹介します。

2016年の日本銀行の総括的な検証です。特に補論6ではマクロ経済モデル、VARモデルを用いた実証的な分析の結果として、QQEは効果があったと結論づけています。
これを覆すだけの実証分析を「反リフレ派」の言説では寡聞にして知りません。

「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証【背景説明】
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921b.pdf

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リフレ派以外が日銀執行部を含む日銀審議委員の大半を占めた期間は、デフレが続き、第二次安倍政権下でインフレ目標を掲げ、それを裏付ける大胆な金融政策「QQE」を実施した結果、コアCPIは-0.5%から一時+1.5%まで約2%上昇し、円安・株高、雇用環境改善、名目GDP上昇など、大きな効果をあげました。消費増税でその影響は下押しされてしまいましたが。

また、インフレ目標を導入している多くの先進国(それらの国には日本銀行は存在していません)では、何十年もデフレになってしまう、ということは起きていません。

経済学の知見を持たれた武田氏が、今後の連載で、そのような議論を展開なさるのか、今後も注目です。

ジョーン・ロビンソンの言葉が思い出されます。
「経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する出来合いの対処法を得るためではなく、そのようなものを受け売りして経済を語る者にだまされないようにするためである」


(*1) 「学者」か、それとも「政策プロモーター」か https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00039/021900002/?n_cid=nbponb_twbn


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